閑話休題 微睡の中の小さな幸せ
今回は本編ではなく、ちょっと視線を変えて小話をひとつ。
目線はユリシアとアスター混在です。
ふわふわと、どこかを漂っているような感覚がする。
何だろう……雲の上かな。
暖かくて、柔らかくて、幸せな気分だ。
眠っている私にぴったりくっついている小さな黒い塊が2つ。
これは、リラとソラね。
自分達のベッドがあるにも関わらず、よくこうしていつの間にか同じベッドで、私に寄り添って眠っているのだ。
私の上には、白と黒の縞模様のもふもふ。
あら、フローラまで来ていたの。
ぷーぷー、くうくう、むにゃむにゃ。
穏やかで可愛らしい寝息が3匹分、聞こえてくる。
ゆったりした、幸せな時間だ。
意識がだんだんと落ちてくる。
夢なのか現実なのか曖昧だけど、醒めないでほしい。
そのまま意識を手放して、眠りの波に身を委ねた。
『アスター、ねぇね寝ちゃった。』
『頑張って起きようとしてたんだよ!』
『シアねぇ、ねんね?』
「そうだな、寝ちゃったな。」
風呂上がりでリビングへ戻ると、ユリシアがソファで眠っていた。
一応髪を乾かそうとはしたのだろうか、魔法を使った後は感じられるが……。まだ完全には乾いておらず、このままだと風邪を引いてしまうので、俺の魔法で乾かす。
同じ風呂を使っているはずなのに、ふわりと漂った香りは己のものと異なっていた。
優しくて甘さのある……いや、考えないようにしよう。
とそこで下の方から視線を感じたので目線を下げると、ジトっとした目でリラとソラが此方を見ていた。
どうやら考えが筒抜けだったようだ。
フローラだけは分かっておらず、いつもの輝く瞳で首を傾けていた。
頼むから、フローラはそのまま育ってくれ。
『アスター、変なこと考えてないよね?』
「考えてないさ。それより、ユリシアは……起きそうにないな。」
リラから、ユリシアは人付き合いが苦手だという話は聞いていた。あちらの世界で色々大変だったらしい。
俺に対して心を開き始めてはいるが、まだまだ気を張っているようだ。それにいきなり別世界に来て生きていくなんて、興味はあるが想像もつかない。疲れてスイッチが切れてしまった、といったところか。
とは言え無防備な姿をこうして見せてもらっているのは、やはり慣れてきてくれたのだろうか。
『僕もねんねするー。』
ソラは意思表示をしてくれたが、フローラはユリシアを見ていて自身も眠くなったのだろう、うとうとし始めた。
ソラには頑張って起きていてもらい、ユリシアとフローラをこのままにしておくわけにもいかず、フローラをユリシアに乗せて慎重に抱き上げると、その軽さに驚いた。
フローラも乗っているのに、あまりに軽すぎる。
明日少し話そう、と決めて階段を登り、ユリシアのドアに手をかけて考える。
勝手に女性の部屋に入るのは如何なものかと。
しかも、ユリシアは未婚だ。
流石にまずいかと考え直し、自室へ運んでそのままベッドへ寝かせる。『今日はアスターも一緒?』とソラに聞かれる。そうだと答えてやると嬉しそうにユリシアの隣へ寝転んだ。
どうやら自分の思考回路が鈍っていたようで、女性の部屋に勝手に入るより、未婚の男女が同じベッドで眠る方が大変よろしくないのだが、その考えには至らず、自分もベッドに入り眠る体制になる。
自分とユリシアの間にリラとソラがいるのだが、もふもふが心地よく、とても暖かい。
いつもユリシアはこうして眠っているのかと思うと、少々羨ましくなったので、男同士ということでソラだけでも一緒に寝るよう交渉してみようか。
そう考えが纏まったところで眠気に襲われ、意識を手放した。
意識が浮上し、朝日の眩しさに意識が覚醒してくる。
目を開けると、真っ先に飛び込んできたのは、銀色の髪だった。
「え、アスター?あれ、ここは……?」
「ユリシア、起きたのか。」
私の小さな問いかけに、パチリと目を開け間髪入れずにアスターが答えた。
「あ、うん、おはよう。」
「おはよう。寝顔可愛かった。」
穏やかな笑顔でそう言われ、どうやら一晩同じベッドで眠ったらしい事が分かった。しかも、此処はアスターの部屋だ。
アスターと私の間には、リラとソラが眠っているので、流石に何もないようで安心した。
……今のアスターの発言はスルーしましょう。
「えーっと、何で私がアスターの部屋に?」
「昨日、風呂上がりで髪もほとんど乾かさず、リビングのソファで眠っていたんだ。勝手に部屋に入るわけにもいかないと考えて、俺の部屋に運んだんだ。」
「そ、うだったの。……未婚の男女が同じベッドで眠る方が問題な気もするけど。」
「すまない、俺もそこまで頭が回っていなかったんだ。」
「いいえ、わざわざ運んで寝かせてもらったのにそう言うのも悪かったよね。アスター、ありがとう。」
「どういたしまして。ところで、今夜からソラを俺の部屋で寝かせても良いか?」
「私は構わないけど、ソラに聞いて問題なければ良いよ。」
「分かった。」
もしかして、もふもふが気持ちよかったのかな。三匹は体温も人間より高めだから暖かいし、何より癒されるからね。
この子達が起きるまで、もう暫くこうしていようか。
穏やかで、暖かくて、柔らかい。
そんなある朝の、小さな幸せ。




