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 お会計中、必要最小限しか喋らなかった店主さんが、私を見つめた後、静かに口を開いた。


「外で待っている黒い小さな狼は、君の従魔かい?」


「え、っと……。」


 あ、そう言えばこっちの世界に来てステータスについてリラとソラが説明してくれた時に、テイマーとかの話が出たな。魔物と契約して使役するんだっけ。

いいえ、違う。あの子たちは、私の大切な。


「……家族です。」


 そう、口からこぼれた。


「家族、か。」


 愛想が良くなかった店主さんが、微かにだけど微笑んだ。


「あの子達と君は、何か特別な絆があるようだね。」


 その絆も、あの子達も、大事にしなさい。


「……はい。」


 気付いたらそう頷いていて、店主さんは手早く商品を包んでアスターと私に渡してくると、先ほどの仏頂面に戻ってしまった。


 お店を出て外で待っていたリラ達を見つめ、先程の店主さんの言葉を思い出しながら見つめていると、視線に気が付いたりらと空が嬉しそうに言い出した。


『ねぇね、向こうの世界に居た頃より楽しそう。』


『うん!いっぱい笑ってる!』


「楽しそう?そうね、向こうの世界でもそれなりに楽しかったけど、こっちの方が楽しいかも。」


 地球にいた頃は、殆ど職場と自宅の往復しかしていなかった。と言うより、できなかった。

生まれ持った気質の影響なのか、常に精神的に疲弊しやすかった。その疲れは睡眠で回復させるしかなくて、休日は自宅に引きこもりただひたすら回復に努めていた。その中で見つけた趣味が、ファンタジー系の小説や漫画を少しずつ読むことと昔から好きだったゲームを繰り返しプレイすることだった。


 そう考えたら、今は本当に自由だ。体も地球にいた頃とスペックが全然違うし、そもそも概念の違いもあるのか、悩むことも減ってきたし、何より、最愛の家族であるリラとソラとずっと一緒にいられて楽しいし幸せなのだ。パグから狼になってはいるけれど、可愛いことに変わり無いので何でもあり。


 フローラは籠から顔を出しニコニコしながら話を聞いていた。可愛かったので抱っこしてたくさん撫でていたら『フローラもね、シアねぇと一緒にいるとたのしいよ!』と言ってくれた。リラとソラがルルーの背から羨ましそうに見つめてきたので、コテージに帰ったらたくさん可愛がろう。


「ユリシア。」


「ん、なに?」


 アスターに呼ばれて顔を上げると、優しそうな、でも何て表現したらいいかわからないような眼差しで見つめてきたかと思ったら、そのままポンポンと頭を撫でられた。


 ……?


「ユリシアが幸せなら、俺も嬉しい。この世界に来たこと……厳密に言えば帰ってきた、になるのか。兎に角、ユリシアが楽しく過ごせるなら、俺は何でもするさ。1人で抱え込まずに、頼ってくれると嬉しい。」


「……うん、分かった。」


 頷いた私に満足したのか、いつもの表情に戻ると背を向けて歩き出すアスターを追う。

どんな考えでアスターがそう言ったのかは分からないけれど、アスターの言葉は安心感があり、嬉しくもあって心が温かくなった。

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