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「……使いこなせているみたいだな。」
「うん。制御もできてる。」
そう、今日のもう一つの目的である慧眼のトレーニングもバッチリ。
情報量が多い場所だけど、ちゃんと一つ一つ情報を入れられるようになった。
「ユリシアの魔道具はもう少し慣れてから、必要な物を相談して決めようか。」
「うん、分かった。」
「取り敢えず今日は俺の魔道具の補充だな。」
そう言いながら壁際の本棚へ向かい、本を2冊とガラス棚からインクを出した。
本をパラパラを捲って見せてくれたけど、白紙のページしかなくて不思議に思っていると、アスターが説明してくれた。
「この魔道具は特殊な本とインクをセットで使うんだ。この本にこのインクを使ったペンで書き込んで、文字に魔力を流すと書いた内容を再現できる。呪文を書いておけば覚えておく必要もないから、新しい呪文を覚えられる。」
「呪文を、覚える……?」
そういえば、初めて魔法の訓練をした時、確かに呪文らしき言葉が浮かんで唱えていた。炎がフレイム、水がウォータ、風がウィンド、雷がサンダー。
訓練を開始して暫くの間は確かに呪文を唱えていた気がする。あれ、でも口に出さなくても魔法が使えるようになっていたな……。いつからだっけ?
「ユリシアが呪文を唱えて魔法を使っているところは、見たことがない気がするな……。」
アスターが遠い目をしながらそう言った。うん、本当はその先に言いたい言葉あったんだね。もう分かっているからね。
一応毎回頭の中では魔法のイメージも呪文も浮かんではいるのよ。声に出さなくても使えるようになっただけなの。……使えるようになっただけ、っていう言葉では済まされないんだろうね。
「……今後は、人前では唱えるようにします。」
「そうだな、是非そうしてくれ。」
「はーい。」
「よし。」
アスター本当ごめんね。でも別世界から来た(正確には帰還した)人間だからまだまだこの世界の理とか知らないことだらけだから許してほしい。
という訴えを感じ取ったのか、仕方ないなとでも言いたげな表情で頭を撫でられた。
「それはいいとして、ユリシアは辞典を自作していたよな。これがあると便利になるのではないか?」
「確かに。慣れたらこっちの方が良いかも。
「試しにユリシア用のものも買っておこう。あとで使ってみるといい。」
「うん、分かった。」
創造と上手く組み合わせられたら、もっといい辞典ができるかも。
ということで、私用に2冊とインク、それと折角なのでペンも合わせて買うことにした。
この世界で主流なのは羽ペンで、万年筆とガラスペンは高価なので貴族やお金持ちの商人などが所持しているらしい。羽ペンは本当に羽の先(根本なのかな)にインクをつけるだけ、というものだけどかなり書きにくいみたいで、お金が出せるのであれば羽ペンよりも長く使える万年筆かガラスペンの方が良い、とのこと。お金にはかなり余裕があるのでガラスペンにした。