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ドラキュラ、ゾンビ、ゴーストのお話


激しい雨が降り続いていた。


暗黒の空には時折雷鳴が鳴り響き、夜空の黒々とした雲が一瞬垣間見えた。


ひっそりとした荒地に古惚けた屋敷があった。立て続けの雨と激しい風のせいで、今にも壊れそうであったが、なんとか持ち堪えているようだった。屋敷の中は一瞬の雷鳴で明るくなる以外は、不気味なほど暗かった。


屋敷の一階の一番奥の部屋に、一人の人間らしき者がいた。その男は暗い部屋で考え込むように壊れかけたソファーに座っていた。部屋の窓はガタガタと鳴っていたが、その男はまったく気にしている様子はなかった。


稲光で、部屋がほんの一瞬明るくなった。すると、男の前には見たこともないほどの美しい女性が立っているのが見えた。また稲妻で部屋の中が明るくなったが、そのとき、美しい女性の身体が透き通っていることが分かった。


「ヒ……ヒィーーーーーー!!」


男はその事実に恐怖を感じ、ガタガタと震えながら身体を縮めた。女性は怪しい笑みを浮かべていた。その視線が自分自身に注がれていることを感じ取り、男はその場から逃げ出そうとしたが、思うように身体が動かなかった。


「失礼な人ね」


美しい女性は呆れた声で言った。男は恐怖に駆られながら、その女性の顔を恐る恐る見た。


「ぼ……ぼくは、死ぬ前からお化けが苦手だったんだ」


「あなたの方が、よっぽと恐い姿をしてるじゃないの」


女性はため息つきながら、少々怒った口調で言った。男の身体は半分朽ち果てていたが、二十代前半の男性であることが推測できた。だが、男は死人……ゾンビであった。


「ところで、こんなところで何をしてるの?」


美女はすぐに機嫌を取り戻して男に尋ねた。


「別に……何をしているというわけじゃないです。これからどうすればいいのか自分でもわからないんです」


「分からない?」


「はい……ぼくはロンドンの下町で一人暮らしをしていたんですが、二年くらい前に切り裂きジャックに間違えられて死刑になったんです」


「何ですって? 私はその切り裂きジャックに殺されたのよ。でも、あなたのような若い男じゃなかったわ」


「……結局、犯人は見つからなくて迷宮入りになったそうです」


男は悲しそうに、ポツリと呟いた。


そのとき、バターンと大きな音を立てて窓が開き、大きなコウモリが部屋の中に入ってきた。


「ふぅー、やれやれ。すごい雨だな。少し雨宿りさせてもらうよ」


窓が大きな音で閉まると、窓際に黒いマントをまとった紳士が立っていた。


「おや、これはまた美しい方ですね。生きておられたら血を吸いたいくらいですよ」


紳士は礼儀正しく御辞儀をしながら言った。


「その口調から言って、あなた、ヴァンパイアね」


「お初にお目にかかります、美しい方。それと、ソファーの後ろに隠れている方も……」


「彼はなんでも、切り裂きジャックに殺されたそうよ」


美女はゾンビの背中を見つめながら、呆れたように言った。


「おやおや、それは大変でしたね。あの事件は確か二年前に迷宮入りになったと聞きましたが……」


「ええ、それはあの人からも聞いたわ。私はその切り裂きジャックに殺されたの」


美女はソファーに座りながら、そう言った。


「私もヴァンパイアの身でありながら、あの事件は少々恐い感じがしましたよ。あの事件があった頃、私は事件のあった通りの近くに住んでいましたからね」


紳士はマントの水滴を払いながら言った。


「もしかして、あなたが犯人ですか?!」


さっきまでソファーの後ろで縮こまっていたとは思えない態度で、ゾンビは怒鳴った。


「ちょっと待って下さい。それはあまにりも安直過ぎますよ。私は確かにあの通りの近くに住んでいましたが、私も被害者の一人です。私の妻は切り裂きジャックに殺されたのです」


紳士は困ったような顔でそう答えた。


「あら、奥さんはヴァンパイアじゃなかったの?」


美女は不思議そうに尋ねた。


「はい。妻は普通の人間で、妻と暮らしていた頃は人間のように生活していました」


「と、言うことは昼間に仕事をしていたのかしら?」


「そうですよ」


「ヴァンパイアであるあなたが、よく昼間に仕事ができたわね」


「それは小説の読み過ぎですよ。我々一族は太陽の光で死ぬことはありません。ただ、昼間だと本来の力が発揮できないだけです」


「へぇ~、そうなの。知らなかったわ」


美女はスーッと立ち上がると、パッと姿を消した。そして、次の瞬間には窓際に立っていた。


「おや? 雨が止んだようですね。それではこれで失礼致します」


紳士はマントを調えながら言った。


「もう行ってしまうの? もう少しゆっくりしていったらどう?」


「そうしたいのもやまやまですが、仕事があるので……」


そう言い終わるか終わらないうちに、紳士は大きなコウモリの姿に変身した。


「残念ね。また暇な時にでも遊びに来てね」


ゾンビが何か言いたげな顔をしているのを余所に、美女は笑顔でこう言った。


「はい。また、こんな夜にでもお伺いしますよ」


窓が開くと、コウモリの姿をした紳士はゆっくりと飛び立っていった。


「あの……あなたはどうしてここにいるんですか?」


ゾンビがふいに、怪訝そうな顔付きで言った。


「あなたこそ……どうしてここにいるの? ここは私の家よ」


「……」


ゾンビは美女の言葉を聞いて困惑してしまい、どうしたものかとオロオロしていた。


美女は大きくため息をつくと、ポツリとこう告げた。


「……私一人じゃ寂しいから、いっしょに暮らさない?」


美女はぶっきらぼうに言ったが、それが照れ隠しであることが男には分かった。


「ぼくなんかが、いっしょに暮らしてもいいんでしょうか?」


「私とじゃ嫌なの?」


美女は男をにらみ付けた。


「とんでもない! その逆です。ぜひここにいさせて下さい」


男が元気な声で言うと、美女は照れたように笑っていた。


「私、ロザーナっていうの。あなたは?」


「ぼくはスティンと言います」



 

こうした経緯で、ロザーナとスティンはいっしょに暮らすことになった。


そして、時々ヴァンパイアの紳士が遊びに来るようになったと言う……。


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