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第40話 辺境伯との会談

「預けてもらった書物については、アンジェリアを中心に解読作業を進めていきたい。その際、ロナ殿にも協力をお願いすることもあろう」


 リチャードが言う。


「構わないよ。内容に興味がないわけじゃないからねぇ」


 クレアに扉が反応していたことも、書物の内容から分かる事があるかも知れない。


「続いて、捕えた者達の処遇についてだ。他に仲間がいないか尋問し、可能ならばできるだけ多くの者達を捕縛するつもりで動いている。ここだけではなく、王都でもそうしてもらうように働きかける。いずれにせよ、これについては領主として私が責任を以って進めるつもりだ」


 諜報員らしき者達への対処については、これ以上ロナ達の手を煩わせるつもりはないということなのだろう。


「あの者達の仲間が大樹海ではなく、トーランドの領内に入り込むのであれば、どこに立ち入っているのか、というのをしかと教育してやらねばならんしな」


 リチャードが苦笑する。物腰や雰囲気が紳士的ではあってもトーランドを治める領主だ。力の論理を重んじているところがある。


「現状については、もう情報を引き出し始めている、と言っておこう。どうやら帝国の息がかかった連中というのは間違いないようだ。取り逃さないための準備は必要だが、近日中に進展もあるだろう」


 速度勝負の部分もあるがかといって雑になって察知されてしまっては本末転倒だ。とはいえ、リチャードは恐らく詰めを誤らないだろうというのがロナの評価だった。


「……ま、こっちは楽できそうだね。この場合あたしらは余計な事をしない方が良い」

「はっは。ロナ殿には手心を加えてもらえると助かるな。さて。遺跡に関しては他にも色々見つけたものがあると聞いているが」

「はい。墓守の遺物ですね」


 クレアはそう言って、墓守の核、金属心臓の残骸、身体を構成していた液体が染み込んだ土が入った瓶といった品々を並べてそれぞれの説明をしていく。


 特に食いつきが良かったのはアンジェリアだ。きらきらと輝いたような目で遺物を眺めていた。


「貴重なものを見れて幸せだなあ。うん。眼福眼福」


 顎に手をやりながら頷いているアンジェリアである。


「こう、人型っぽい形を基本としているんですが、腕や身体が伸びて剣とか槍みたいになります」

「身体を伸ばしての高速移動もしていましたわね」

「冒険者からの報告は上がってそうだが、ちょっとした隙間に潜んで、そこから奇襲をかけてきたようだね。遺跡内で戦ったらもっと手強かったろうよ」

「興味深いな。墓守も報告例が少ないだけに貴重な体験談だ。過去の例とは違うが、同系統との遭遇がないとも限らないからな。遺物に関しては引き続き自由にしてくれて構わない」

「ありがとうございます。貴重なものを任せていただけましたし、何か有意義そうな事が分かったら報告しますね」

「それは楽しみだな」


 リチャードの言葉にアンジェリアがふんふんと頷いていた。


「とまあ、今までの話でも察したとは思うのだが、そもそも此度の対応については我らも王家と連携もしての帝国への対応の一環でもある。遺跡についても話をし、連携して動くことになろう。王国そのものの動きは特に問題がないと思うが……例えば噂を聞きつけた貴族や大商人といった連中との間で何か困ったことがあれば――特にクレア嬢とセレーナ嬢は、遠慮なく当家を頼って欲しい。これでも感謝しているのだ」

「冒険者ギルドも同じ立場だ。少なくとも領都で何かあった時にはギルドを避難先にしてくれて構わない」


 ギルド長のグウェインもクレアとセレーナを見て言う。


 ロナやその身内に対して手出しを考えるような者がいるとするなら、それはトーランド辺境伯領の外から来た者の方が可能性としては高い。領都に訪問してくる機会が多いクレアやセレーナとしては辺境伯家や冒険者ギルドが動いてくれるとなればそういった手合いに対しては対応がしやすくなると言えた。直接手出しをされて撃退できる、できないという意味だけでなく、事後処理を考えても力添えの有無というのは大きい。


「ありがとうございます」

「感謝致しますわ」

「ついては――今日の晩餐にロナ殿達を招待したいのだが、良いかな?」

「あたしゃ構わないよ。あたしや弟子を変に囲い込もうとしないならね」

「はっは、顔を繋いではおきたいが、ロナ殿の不興は買いたくないな」


 リチャードは楽しそうに笑う。お互い軽いやりとりで、ロナとは旧知の仲であるというのが窺えるやり取りであった。




 他の調査隊の進捗であるとか、事前に掴んでいた帝国に関しての情報であるとか、細々とした連絡や報告を行い、情報共有をしてからギルドでの話も解散となった。


 他の班に関しては大きな進展はないということだが、クレア達が捕まえた諜報員達が活動していた痕跡についてもその近辺での追跡調査で発見されたらしい。彼らが捕まったことで野営の痕跡といった証拠隠滅が不可能になったということだ。


 辺境伯の晩餐への招待に関しては後程クレア達の泊っている宿に迎えを寄越すとのことなので、それまでは宿でのんびりしていればいい。3人は宿に戻ると一階にある食堂の一角で、茶を飲みながら話をする。


「辺境伯とお知り合いだったんですねー」

「あれがまだ若い頃に領都で見かける機会があったってのがこっちが知った最初の時か。今のセレーナより少し上ぐらいだったかねぇ」

「王国では武人として知られる高名な方ですが……若い頃はどんなお方だったのですか?」


 セレーナが尋ねると、ロナは顎に手をやって過去の記憶を思い出すように言う。


「ふむ。接点が出来た以上、人となりを知っとく必要もあるか。あたしは街で見かけてたから魔力波長を覚えてたし噂も聞いてたんだがね」


 若い時分のリチャードは、剣も魔法も同年代に比肩するものがいないと言われていたのだという。クレアやセレーナのような固有魔法こそ持たないものの、強化魔法と剣技、魔法といった個人技だけではなく部隊指揮や政務のいずれにも才覚を見せ、将来を嘱望される麒麟児であり、先代辺境伯の秘蔵っ子というのが当時からの周囲の評価であった。


 街で見かけてリチャードの魔力波長を覚えていたロナが、大樹海でその反応を感知したために興味本位で見に行ったのが最初だという。


「あの時は小規模な部隊を率いて、魔物の群れ相手に大立ち回りしながら部下に檄を飛ばしてたよ。魔物の注意を部隊の怪我人から自身に惹きつけながら鼓舞してたわけだね。まあ……そういう性格さね。実力はあるし兵達にも慕われるが、自身の危険や負担に関しては重視しない苦労人気質っていうのか」


 その時にロナは遠距離から一発だけ魔物を狙撃している。ロナからすると面白い物が見られたという見物料のつもりで兵を助けた形だが、後に領都に赴いた時礼を言われた。


「完璧な隠形故に位置は把握できなかったが、勘違いでなければあの時部下を助けてくれたことに礼を伝えたい」


 リチャードはロナに当たりを付けてそう言ってきたのだ。

 冒険者がどこを探索しているかも、その気になれば知る事のできる立場だ。冒険者ではない者が大樹海で自分達を助けてくれたというのであれば、ロナ辺りを可能性として考えるのも不思議なことではなかった。


「若い頃から相当な御仁ですわね……」

「ま、余程先代の教育も良かったんだろうさ。その時は勘違いだろって答えたが、大樹海での大立ち回りの仕方がちょっと気になってたからね。余計な世話かもしれないが、何でもできるからって何でも背負い込んでると、危うくなることもあるよとは伝えた」

「その時は、辺境伯は何と?」

「ご忠言痛み入る。任せられる人間を見極める目を養う、だとさ。あたしはそういう真面目なのはちょいと水が合わない。立場も違うしね。ま、判断基準としちゃ領に関する事を優先させるだろうが、そこを踏まえとけば筋は通すから信用はできる方か」


 ロナはそう言って、肩を竦めるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >若い頃の辺境伯 何処かの境界公「そうだよな。時には周りに任せないと。 自分だけ真っ先に強者に特攻仕掛けるなんて無茶だよな」 直後、夫人達からハリセンが飛んだ…
[一言] 若い頃ヤンチャしてたとかではなくその頃から真面目で責任感のある方だったんですねえ辺境伯様
[一言] ロナさんったらお人好し。 まあそこで(当時)辺境伯子息が亡くなっていたら家を挙げての大捜索隊が組まれて森が騒がしくなったでしょうしね。
2023/09/05 05:18 退会済み
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