第381話 王太女の方針
将兵達に休息を取らせ、捕虜を引き渡し、救助者を保護し、休ませる。
それから前線基地に作られた館に向かい重要人物の身を交えて話をしていく。
ロナからは大樹海での戦いの様子を。クレアからはゴルトヴァールに突入するまでと、突入してからの話だ。それを聞くのはルーファスとリチャード、シェリー。連合に名を連ねる部族の主だった者達といった重要人物達だった。
「ま、クレアが突入してからの大樹海での戦いはこんなところかね。連中が想定していたのは孤狼との集団戦。天空の王との空中戦ってところだが……地上の方は分断されて将軍らはあたしと領域主とで個々人で相手をしたからねえ」
「空中戦の方は私達も見ておりましたよ」
「クレアも連れてきている防衛機構の魔法生物――あれをどこからか発掘して、改造して天空の王にぶつけたようだわ」
「あれは……天空の王が完全に帝国の想定以上だったように見えるね」
リチャードが言うと、シェリーとルーファスがそう応じる。当の天空の王は、クレアの糸が声を中継しているからか、2階の窓の外で嘴の端を上げるようにしてにやりと笑って見せていた。
「ともあれ、地上も無事に勝利を収められたようで、良かったです」
そんな天空の王を横目で眺めてから、ロナにクレアが言う。
「あんたらの方はどうだったんだい?」
ロナに尋ねられて、クレアは頷くとゴルトヴァールに突入してからの話を始める。どんな場所だったのか。住民達の様子は。彼らへの情報収集から始まってルファルカに出会った事。大通りで住民に紛れての奇襲と再現魔法を使わされている人員の救出。
その中で段々と知っていったゴルトヴァールの姿。因子魔法や守護獣。かつていた神族の話に、リチャード達は時折相槌を打ちながら耳を傾ける。
それから――エルンストやトラヴィスとの戦い。
「――そうして私は塔に突入し、エルンストと交戦。みんなはトラヴィス率いる近衛騎士達や宮廷魔術師達との戦いになったのです」
エルンストとトラヴィスの固有魔法について話をすると皆表情を険しくしていた。
エルンストの固有魔法はシンプルだが無形で攻守共に隙がなく、殺傷能力が凶悪だ。トラヴィスのものは、直接的な攻撃に直結していないものの、非常に厄介だという印象だった。
それらをいかにして攻略したか。どのように倒したかについて話をする。
戦いの様子と決着。そして急場を凌ごうとしたトラヴィスによって準備不足のままに封印が解かれ、クレアを依り代に女神が顕現したこと。トラヴィスが呪いを返される形で無窮の空へと落とされたことを伝えていく。
「――エルカディウスの王とゴルトヴァールの真実、か」
「確かに……封印もされるわよね」
「それに運命の女神の試練、ですか……」
3人の相槌に頷きつつもクレアは話を続ける。クレアの性質――運命の因子魔法を宿すが故に、それを利用しての顕現ではあるが、王の守護獣からの統制も受けている。
結論から言うのなら、イリクシアとしてはゴルトヴァールの在り方には否定的だったし解放もされたがっていた。
だからクレアが――というよりは、運命の因子魔法を宿した誰かといつの時か邂逅できるようにアルヴィレトの先祖に協力して運命を紡いだし、そういう想いがあったとしても統制を受けているからクレアとの均衡で中和しつつ、神族として公平に扱う試練という形になったのだ。
そして、女神との試練という外側の戦いと、内側でのルゼロフ王の魂や守護獣との主導権の奪い合いという二つの戦いが起こったこと。その戦いの顛末と、その後の女神からの提案、クレアの今の立場についてまで、諸々を話し終えたのであった。
「立場は変わることになりますが、私としてはエルカディウスの危険な魔法技術は封印か破棄――或いは代替わりしてもおいそれと外には向けられないよう制限をしたいと考えています。それから今連携し、同盟している勢力との友好関係も、維持していきたいですね」
「それは――願ってもないことですな」
リチャードが言うとシェリーや各部族の主だった者達も頷く。
守護獣や防衛機構の力は強大だ。エルカディウスは当然のこと、アルヴィレトの魔法技術も高度なもので、今後を考えると大樹海に大きな影響力を持つ勢力が現れる、ということになる。クレアの代は良いとしても、その後は、と考えた場合、その巨大な武力が向けられることを危惧するものもいるだろう。その懸念をクレアは自分の代の内に払拭してしまいたい、ということだ。
クレアとしては火種を後世に残したくないのだ。だからエルカディウスの魔法技術に関しては封印や制限という形を望んでいるし、守護獣や魔法生物の扱いに関しても法的な立場を明確にしておくことで、人間達の都合で悪意のある扱い方ができないようにしておく、ということなのだろう。
クレアの言葉に、天空の王も静かに目を閉じてゆっくりと頷く。
そうなると、今後はクラリッサと良い関係を築いている者達――セレーナやニコラス、ルシアーナ、シェリル王女といった人物の重要性が増すか。
シェリル王女の政治的に重要になるというのは、女王としての地盤固めにもなるだろう。アルヴィレトとの同盟、友好関係の維持も含めてロシュタッド王国に所属する者としては歓迎すべきことだ。
リチャードは、クレアの考えや体勢作りへの協力を惜しむつもりはない。クレアは同盟を維持したいという方針を持っているのだし、そもそも今になってクレアを害するという考えは論外なのだ。
仮にクレアを害した場合、ゴルトヴァールも守護獣達も制御を離れてしまうし女神イリクシアとも敵対することになるだろう。
天空の王や孤狼、貴婦人に深底の女王といった人間に友好的な守護獣が軒並み敵に回り、好戦的な守護獣達を縛るものがなくなる。ゴルトヴァールという火種も、正当な後継者を据える方法もなく残ったままになる。
それは国の勢力がどうこうという話ではなく、人間にとっての悪夢の時代が到来する、ということを意味している。
だから、クレアが平和的な道を選んでくれるのは幸運だったと言うべきだろう。
もっともそれは今、同盟……連合軍に名を連ねている者達にとっての幸運であって、帝国の残存貴族達にとってどうかは知らない。
帝国以北の諸民族に圧力をかけようとするなら、それは同盟関係にあるアルヴィレトも敵に回るということだ。征服ありきで回っている帝国の社会構造自体を変えなければ立ち行かなくなるであろうから、今の形での帝国の維持は不可能になるだろう。
ともあれ、早い段階で今のような話を聞かせてもらえたのは有難い。安心できるというのもあるが、そうなるという前提の元に動けるのだから。
そうして――報告を終えてからクレア達は再び天空の王の背に乗り、大樹海の中心部――遺跡へと向かった。
領域主――守護獣達と話をするためだ。今度は、リチャードやルーファス、シェリーやロナもそれに同行することとなった。それだけ守護獣との関係性はロシュタッドやアルヴィレトの今後にとって重要な話であるからだ。
ロナも大樹海に住む者として気になるという名目で同行しているが、弟子であるクレアの今を見ておきたい、というのが実際のところだったりする。
そうして守護獣達の待つ遺跡が見えてくる。同時に、そこに凄まじい魔力を纏う一団が集まっていることも、天空の王の背から感知できた。




