表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/407

第34話 従属の輪

「――手紙には、何が書いてあるのでしょうか?」

「……一足先に確認しておきましょうか。手紙自体に魔力は感じませんし」

「……そうですわね。私にもおかしな反応があるようには見えませんわ」


 セレーナが毒物等の妙な仕掛けがなされていないか、目の感知範囲を広げる術で手紙を確認してから言う。

 安全が確認されたところで、丸められた手紙を開いて二人はそれに目を通す。


「……ギルドの調査隊に潜伏し、大樹海南部を調査中。彼らは帝国の諜報活動が活発化していることに警戒を払っている様子。調査隊が未発見の遺跡を発見。墓守もいたが大樹海に住まう黒き魔女とその弟子2名にて討伐された模様。遺跡内部の潜入調査に加わる。隠された扉があったものの、それを開いた鍵らしきものも確認された。正体不明の書物も発見。奪取を狙うが、監視も厚いため、報告を先に入れる。恐らく書物はギルドや辺境伯の元に届けられ、その管理下に置かれるものと思われる、と」

「……経緯が全部書かれていますわね……」


 手紙を広げて朗読するような仕草の少女人形。クレアの朗々と響く声にセレーナは眉根を寄せる。二人から視線を向けられる縛られた男であったが、木の根に背を預けて座ったまま、何も言わずに目を閉じていた。


「何も話してくれそうにありませんわね」

「とりあえずロナが戻ってくるまで待っていましょうか」


 ミミズクと男を取り押さえたクレアとセレーナがそのまま待っていると、やがて暗闇の中から複数の足音が聞こえてくる。

 その人物達の姿を見ると、縛られている男が驚愕の表情を見せた。


 ロナを先頭に後ろから男達がぞろぞろとついてきたのだ。但し、その男達は目が虚ろで、表情もどこか魂が抜けたかのようだ。


 クレアとセレーナは男達の姿を興味深そうに見やる。弟子としては師であるロナがどんな術を使ったかが気になるところなのである。


「待たせたね。そっちの首尾はどうだい?」

「こっちも問題ありません。本人もミミズクもこの通りです」

「私もクレア様も怪我もなく無事ですわ。手札もほとんど見られていないかと」


 クレアとセレーナは手紙の内容も説明し、ロナは満足そうに応じる。


「よし。それじゃあ、連中を野営地まで突き出しに行くとするかね。あんたも大人しくしてな。でないとこいつらみたいになるよ」


 縛られた男にそう言ってロナは歩き出す。ロナの連れている男達もぞろぞろと機械的についていき、縛られた男も仲間達のような状態になるのは嫌なのか、項垂れたまま歩き出した。クレアとセレーナも、男の動きを確認できる位置取りをしながらもそれに続く。


 程無くして野営地に到着し――見張り役であった若い冒険者がそれに気付いた。


「魔女殿……? 戻って来たんですか?」

「ちょいと気になる輩が調査隊に紛れててねぇ。怪しい動きをしないか、帰ったふりをして監視してたら尻尾を出したってわけさね。もっとはっきり言っちまえば、帝国の諜報員じゃないかって疑ってる」


 そうロナが言うと見張りの冒険者はロナ達と縛られている男や表情が虚ろな面々を何度か見比べるように視線を動かし「す、少し待っていて下さい! 報告してきます!」と、慌てたように野営地の中に引っ込んでいく。

 やがて報告を受けたのであろうギルドの調査員が、グライフやルシアを連れて戻って来るのであった。




「――いやはや……結局遺跡の解決ばかりか、帝国の諜報員まで捕えてしまうとは」

「帝国の諜報員と確定したわけじゃないけどね。魔力探知をしてたらこっちに敵意や害意を向けてるのまで感知しちまって、どうも怪しいと思ってたのさ」

「そういう事でしたか。見た所、術で言う事を聞いているようですが、この状態で情報を引き出せないのですか?」


 調査員が尋ねるとロナは首を横に振る。


「そいつは無理だね。眠らせたままこっちの思うように動かしてるようなもんで、今のこいつらは意識があるわけじゃない。受け答えはできないよ。というか、心を操るような術は仕掛ける側としても意味が重くてね。滅多なことじゃやりたくはない邪法なのさ」


 ロナの言葉に少女人形とセレーナは揃って頷く。

 そういう術は呪いの類だとロナから教わっている。一応小人化や羽の呪い等は魔法の鞄に収めることを目的とした使い方をしているが、自分の所有物へ使うぐらいに収めておくのが無難、というのがロナの弁だ。他者に呪いをかけるというのは呪いを返された場合もそうだが、怨みを買ってしまった場合も、後々まで尾を引く可能性がある。


 呪いをかけた相手とはそれが解除されたとしても悪縁が残っている。

 相手からも呪い等でのアプローチがしやすくなるし、仮に呪いがかかったまま――或いはそれによって術者への怨恨の感情が強いままで相手が死亡した場合、呪いや怨恨の力が上乗せされた強力なアンデッドとなって直接復讐に来るという可能性もあるのだ。つまり、他者に用いるのが強い呪いであればあるほどリスクも高まるのである。


 だから呪いの類は対処法を学ぶことは必要でも、生半可な気持ちで他者に用いるものではない。それこそ呪いを専門としているような外法の術者にでもなるか、そこまでしてでも成し遂げたいことがあると言うのならともかく、そんな生き方は必要もないのにわざわざ選ぶ必要はないとロナは伝えているし、クレアもセレーナも同感であった。


「邪法の類ですか……。それは確かに、使って欲しいとはお願いできませんね。まあ、彼らから情報を聞き出すのは他の方の役割でしょう。今のお話は忘れて下さい」

「そうさね。こいつらと手紙はあんたらに引き渡すよ。こいつは魔法を使える。で、こっちは持ち物からして魔物使いのようだね。そこの二人は剣士か斥候ってとこか」

「分かりました。その上で安全に移送できるように対策をしましょう。魔物はどうなさいますか? スターオウルは瞳や羽根、爪にも値が付くはずです」


 調査員は鳥籠に入ったミミズクに目を向ける。魔物ミミズクは人の言葉が分かるのか、その言葉に目を瞬かせ、首を巡らせてクレアを見やる。懇願するような視線を向けられて、少女人形は少し頬を掻いた。


「あー……えっと。戦いや狩りの場で仕留めた相手ならともかく、一度無力化した相手を改めてというのも、少し気が引けますね」


 クレアがそう答えると、ミミズクはそうそう、というように勢いよく首を縦に何度も振る。


「ふむ。言葉も理解できるし、意思疎通ができる。魔物使いとの関わりの中で色々覚えたんだろうが……あんまり主人との関係は良好じゃなかったみたいだね」

「と言いますと?」

「足輪を付けてるだろ? そいつは勝手に外そうとしたり命令に逆らうと苦痛を与えるって類のもんだ。スターオウルは賢いからね。そういう頭のいい魔物には、信頼関係が築けてるなら使いたがらない魔物使いも多いんだよ」


 ミミズクの足首に着けられた金属の輪を指差すロナ。


「……従属の輪だな。王国では刑期中の罪人以外に用いることが禁止されている」


 グライフが静かな口調で言った。


「……それは何と言いますか。苦労なさったのですわね」


 セレーナが気の毒そうに言うと、ミミズクは俯いて小さく声を漏らしていた。


「と言っても魔物だし、従属の輪がある以上は逃がすというわけにもいかないわよねぇ」

「捕らえられている状況では何もできませんが、自由にした時に魔物使いを助けるために動かれたら困りますもんね」


 ルシアの言葉に少女人形が思案しているような仕草を見せる。


「ま、そいつはこっちで引き受けるか。いくつか弟子に教えられる事が増えた」

「分かりました。ではお任せします」


 一先ずギルドには引き渡されないと知って、スターオウルは安心したように息をついていた。


「人との関わりが長かったからでしょうか、仕草に人間臭さがありますね」


 そんなスターオウルの姿を見て、少女人形が腕組みしつつうんうんと頷くのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 さっそくモフモフが…!(笑)
[一言] ちゃんとこちらが何を話しているのか理解してるっぽいですねえ 賢い子ですわ
[一言] 従魔1号? スターオウル側からしても森の中で暮らせたほうがQOL良さそう。
2023/08/30 05:27 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ