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第340話 領域主と守護獣

 クレア達は王国と帝国を取り巻く現状について説明しつつ、結界塔の近くにまで移動してくる。情報交換はしたいが、エルンストへの備えを進めなくてはならないということもあり、対応するための情報を重点的に渡している、という状態だ。


 ルファルカも情報交換は(やぶさ)かではないが、まずは敵――エルンストに関する情報を共有してからと、クレア達の話に静かに耳を傾けて思案していた。


 結界塔の近く――城壁や結界塔の手前には大きな掘が作られており、街と城とを明確に隔てている。堀から下を覗けば、浮遊する無数の瓦礫や小島、その下に浮かぶ雲や瞬く星々という、異常な光景が広がっていた。


 浮遊している小島には何やら神殿めいた柱が立っていたり、何か古い建物の遺構のようなものも散見される。

 逆さまの大地が頭上にあるのなら、足下に空が広がっているのは道理なのかも知れないが。


「この下は……どうなっているんですか? どこまで広がっているのやら」

「空間の狭間と言えば良いのか。まともな空間ではない。小石などを落とせば際限なく落ちていくようだ。瓦礫や浮島に引っかかった場合はともかく、星々の彼方にまで落ちていけば我々でも戻って来られるかは分からない。情報にないからだ。あまり不用意に近付かないのが賢明だろう」


 ルファルカは何でもない事のように言った。

 宇宙に向かって落ちていくことになるのだろうかと、クレアはその光景を覗きながらも思う。見える範囲の星々の配置も、前世の知識とも今世の空とも違う。


「あの浮島の遺構はどういうものなのですか? 建築様式がエルカディウスのものとは違うように見えるのですが」

「我らの有する知識では、ゴルトヴァールが今の形になった時にはこの状態だったようだ。遺構については情報や記録がないな」


 ルファルカは自分の任務に関係ないことに対して情報を多く持っていないし興味を向けないという印象がある。


「勝手に成り立ちを想像するなら……ゴルトヴァールが通常空間と切り離される時に剥落した、というような感じかも知れませんね。崩れた遺構にも少し興味はありますが……」


 今は安全を確かめたり遺構を調べたりしているような時間でもない。エルンスト達に備えなければならない。


「これほどの結界壁だと、増幅器を使っても俺には突破はできないな」


 ウィリアムが結界を見上げながら言う。一先ずの確認事項ではある。ウィリアムが不可能だというのであれば、エルンスト達とて無理矢理の突破はできないだろう。


「とりあえず、二つの塔の装置を破壊、ないし解除されない限りは城に続く道は開かない、という認識で良いのでしょうか?」

「その通りだ。帝国の皇帝と言っていたが……強いのか?」

「かなりの強敵と思って頂ければ。率いている皇帝エルンストは確実に戦闘向きの固有魔法を持っています」

「固有魔法……。外の者はそう呼ぶのか」


 ルファルカが言った。


「他の人には再現できない魔法のことですが……エルカディウスでは違うのですか?」

「そうだな。こちらもその認識だが、固有魔法ではなく因子魔法と呼ぶ」

「因子……何のです?」

「名称の由来については守り人には情報がない」


 ルファルカはそう答える。

 ルファルカは知らないようだが、少なくとも固有魔法という、才能の一言で片づけてしまう言葉よりは本質に迫っているようにクレアには思えた。エルカディウスでは固有魔法について何か原理や由来が判明していたのだろう。


「では――領域主達については」

「領域主――。大樹海にて、特殊な魔力場の縄張りを形成し、知性を有する強力な魔物と言うことだったな」

「はい」

「領域主という言葉は知らない。実際を見ていないから話からの推測になるが、エルカディウスとの関わりもあるのだろう」


 ルファルカは少し思案していたが――やがて顔を上げる。


「私の知っている情報の中で、エルカディウスと関わりがあり、長じてそうなる可能性があるとするなら……守護獣達か」

「守護獣?」

「王家に仕える獣達だ。歴代の王と特別な儀式と契約によって結ばれた。それぞれの仕えた王がお隠れになった後は王都を出て鎮護の任についていたと聞く。王家の命には従うが、それぞれに自由意志を持ち、性質、性格、考え方が違うことから、危険視する者もいたのだ。だからそれぞれの仕えた主を失った後は、王都からは遠ざけられたと聞く」


 危険視。つまりは反乱であるとか、王家内での権力闘争に利用されるという危惧だ。だから――王の代替わりと共に先王以前の守護獣達は基本的には王都から外に出され、内外の鎮護や抑止力として使われていたとルファルカは語る。


「なるほど……それは確かに……。領域主達と共通する部分がありますね」


 そして、守護獣達が領域主であるというのならば、それはそのままアルヴィレトの出自にも関わりがある話になってくる。

 イルハインの最期の言葉や、自分達がゴルトヴァールに立ち入れない代わりにクレアに都のことを託した事。エルカディウスやゴルトヴァールの情報を言葉にすることに制限が掛かっている理由。それらに説明がつく。


 であるならば、アルヴィレトはエルカディウス王家に連なる血筋で、ゴルトヴァールの在り方を危険視したが故に封印したということだろうか。

 ゴルトヴァールを支える根幹に関わる部分の術式に工作ができたのも、守護獣達に封印を守るように命令を下せたのも、そうした出自であるからというのなら納得できる部分ではある。


 国が滅ぼうとも守護獣達に自由を与えられなかった理由も、推測できる。永遠に近い命と巨大な力を有する彼らを解放した時、人の敵に回ってしまうことを恐れた。例えば、イルハイン等は自由にさせていたらかなりの被害を撒き散らしただろうし、会話や交渉はできても人とは違う種であると言うことを念頭に置かねばならない。


 そうだというのなら、永い時を大樹海に縛られ続けて尚、自分達との交渉に応じ、協力もしてくれた孤狼、トリネッド、天空の王や深底の女王には感謝しなくてはならないだろう。人類そのものや、命令によって縛った者の子孫であるはずの自分を、敵視しなかったということになるのだから。


 しかしもし、自分の出自に絡んで彼らに下っている命令を解ける可能性、変更できる可能性があるのだとしても、きっと完全に自由にさせるわけにはいかないのだろうともクレアは思う。当時の人々の危惧や判断に頷ける部分も多いからだ。ただ、トリネッド達のことを考えるならば、このままでいいはずがない。


 ゴルトヴァールや帝国のことを解決した後に、もっと自由且つ、平穏に暮らせるようにする、ぐらいのことはできるだろうか。




 クレアがそうやってルファルカとの情報の交換している頃。地上でも動きがあった。


『……増援も動き出したわね。帝国南方の国境。大樹海に面した都市群より増援が派遣されている。エルンストの動きに合わせ、南方に配備されていた軍を大樹海に進軍させてきたようだわ』

「目標は中心部や王国への打通、進軍路の確保と拡張ってとこかね。エルンストが動いたことまでは伝わっても、細かい戦況なんぞ知らないだろうによくやるもんだ」

「恐らく、クレア殿が動いたことで、戦奴兵達の戦力が削られたことを予想し、増援を投入してきたのでしょう」


 トリネッドの言葉にロナが応じると、辺境伯家の長男、ジェロームもその言葉に答える。

 前線の部隊もまた、エルンスト達がいなくなった後、クレアに連れられていなくなった戦奴兵達を再度確保する目的か、急速に進軍してきている。もっとも、ウィリアムの固有魔法で撤退しているから、追撃を試みたところで彼らが追い付けることはないのだが。


『後方から増援が来るというのを知っているから、追撃相手を見つけられなくても前線を急速に押し上げている。戦列が伸びているようね』

「合流されても面倒だ。少し早いが出鼻をくじく意味でも攻撃を仕掛けるか」

『異論はないわ』


 ロナの言葉にトリネッドが答え、孤狼と白狼が揃って好戦的な唸り声を上げた。

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― 新着の感想 ―
因子魔法に守護獣かあ 少しずつ謎が解かれていってますねえ
 トリネッドのような交渉可能な理知的な領域主たちはともかく、イルハインのような明らかに危険な領域主が残っていたのはなんでだろう。歴代の王が残したっていうのなら、危険な個体は処分して然るべきだろうに。
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