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第326話 本陣の備え

 クレア達はそのまま帝国の侵攻部隊の調査を進めていく。


 前線で戦う部隊と督戦部隊がまず先を行く。次に配置されているのは不測の事態に対応する後詰めの戦奴兵部隊――或いは前線の部隊との交代要員となる部隊であろうかとクレア達は予想する。


「後詰めと交代、双方を兼ねているのかも知れないな。督戦部隊はどちらにも配備されている」

「侵攻の効率を上げるための交代要員というわけですか。交代制であるなら、督戦部隊も入れ替わりで休息を取る必要があるでしょうし」


 グライフの言葉を受け、イライザがクレアの映す光景を分析する。


 更にその後方に、工兵の役割を担う部隊、と言えばいいのだろうか。

前衛部隊が確保した進軍路を補強するため魔術師達で構成された者達がゴーレムや結界札などを用いて大樹海を切り拓き、進軍路を作っている光景。


 作られた進軍路を遡った先に、前線基地、或いは本陣が作られている。が、本陣を調べるのは少し躊躇われた。


「今まで見たことのない波長の結界が見えますわ」


 ……というセレーナの声で一旦糸の接近を控えた形だ。外から本陣の状態を確認することはできるし、どういう作戦で動いているかも見て取ることはできる。本陣にも戦奴兵がいると仮定した場合、侵攻効率を上げるための交代制を敷いているのならば、その部隊も入れ換えて前に出してくるだろう。


 何にせよ、全体像を把握してからだ。人数も今は連れてきていない。把握が済むまでは人数を揃えないし、エルンストやトラヴィスを発見したとしてもまだ手出しをしない、という作戦でもある。


「進軍ルートから少し外れたところに陣取って、そこから規模や編成をもう少し時間をかけて観察しようと思います。本陣は――見るからに防備が厚そうですし、慎重にいきましょう」

「異論はない。エルンスト達が前線基地まで出てきているかは不明だが、前線部隊の備えや戦いぶりを見るに、まだ余裕はありそうだからな」

「そうですね……。場合によっては探知魔法を掻い潜って犠牲が少なくなるように支援するかも知れませんが」


 対処できない規模と種の魔物だと判断すれば知られずに間引きしたり、接触する前に排除したりすることで、戦奴兵の犠牲を減らす。

 もう少し奥地に入り込めば、そうした魔物も出てくるだろう。


「領域主達の方々が侵攻を察知して直接出向いてくる、という事態だけは防げているようではありますが」

『そうねえ。好戦的な者達もいるけれど、基本的には自分の領域を守りつつ状況を見極めるつもりよ』


 というのがトリネッドからの返答だった。

 好戦的な領域主の場合、大規模な侵攻を察知すれば迎撃に出てくるという前例はある。が、それももう少し奥地に進んでからだし、何よりクレアが動いているから対応に動くタイミングを領域主達も見ている、というのもあるだろう。


 イルハインが討伐されていること。クレアが戦奴兵の犠牲を減らそうとしていること。そしてイルハインの言っていた、自分を縛る王家の血、なるもの。

 クレア達がまず対応し、孤狼やトリネッドと共闘するという方針。そういったものが領域主達の即時の行動を抑止することに繋がっているのだろうとクレアは思う。


 下手に介入することで「王家の血による行動の抑制」というものが自分達に向かうのを、彼らは望んでいない。

 こちらに好意的な領域主として孤狼、トリネッド。そして天空の王がいることも、だろうか。

 領域主同志が潰し合いをしたという記録は残っていないから、そうした領域主達との関係性の悪化をどれだけ重視するのかは不明ではあるが。


 共倒れになりたくないから戦いを避けているか。行動に制限を受けていて争いあえないか。そのあたりは定かではないから、関係性が悪化したとしても不利益はないのかも知れないが。


 ともあれ、帝国の探知魔法の網にかからないようにしながらも、偵察を進めなければならない。どのぐらいのタイミングで部隊が交代するのか。本陣にどんな戦力がいて、待機している戦奴兵はどのぐらいなのか。


 エルンストとトラヴィスがいるかは不明だ。トリネッドの糸が彼らの存在を感知していないところを見るに、まだ後方の都市部にいて前には出てきていないのかも知れないし、本陣の得体の知れない結界から見るに、彼らが本陣にいるのにトリネッドに感知できていないということがあってもおかしくはない。


 エルンストとトラヴィスの所在次第で敵軍の戦力は大きく変わる。戦奴兵達の救出の方法も変えなければならない。その二名の所在。それ以外に固有魔法を保有するような強力な戦力はいるのか。魔法道具の備えは。そうした部分を明らかにしてから動くべきだ。


「部隊の動きはこのまま偵察を続けるとして……。本陣の内情調査や対処方法を決めるには、結界の解析結果次第ですね」


 どちらにせよ部隊の動きに関する観察が必要だ。戦奴兵達の被害が広がらないように周囲の状況を監視しつつ、クレア達は観察を続けていった。




「――前線で戦闘する部隊。後詰めの部隊。それに本陣で休息を行う部隊。3班での交代制か」

「陽が落ちるまでの間前進し、安全確保されたエリアに専門の部隊が道や空間を確保。あるい程度の距離を稼いだところで本陣を前に進めて前へ前へと前進する……というわけだな」


 交代制を敷いているのは戦奴兵達を気遣ってというよりも、効率的に部隊を前進させるためのシステムではあるのだろう。


 これで人質や捕虜の解放がなければ、もっと多くの他種族、他民族が戦奴兵とされ、より強力な編成がされていたはずだ。特に全身を魔法の武器防具で固めた巨人族の強固さ、打開力は特筆すべきものがある。大抵の魔物を抑え、寄せ付けない。より多くの巨人族がいれば、それだけでも大樹海奥深くへと侵攻できていただろうし、実際皇帝の当初の思惑としてはそういう計算だったのではないだろうか。


「結界の方は――厄介ですね」

「姫様でも対処の難しいものなのですか?」


 ローレッタが尋ねると、クレアが頷く。


「そう……ですね。セレーナさんが気付いてくれましたが、表向きありふれた防護結界に見せかけた上で、侵入者の感知を重視していて、その判別方法といったものを時折変化させているようです。こちらに動向を読まれないようにだと思いますが、変化させるまでの時間もまちまちです。一度変化を見せた後またすぐに変化、ということもありました。こちらが対処しにくいようにそうしているのでしょうね」


 クレア達が潜入工作に長けた相手だという前提に立った対策だ。監獄島やクラインヴェールでの出来事が、こういう形での対策をとらせているのだろう。


「前線をここまで厳重にしている、ということはエルンストかトラヴィスが前線の本陣に来ている、ということだろうか」

「ここまで手間をかけて緻密にやっているとなると、遠隔でも結界の性質を操作や変更するというような組み方をしていても不思議ではないですね。変化しても共通しているのは感知に重きを置いた結界である、ということです」


 変化しても何種類かの判別法を同時にリアルタイムで検知している。多分契約魔法であるとか許可制度であるとか……いくつか事前に用意した判別手段を人員に施した上で適宜切り替えている。術者がやっているなら相当な魔力を消耗するし、魔法道具などで補っているのなら触媒なりなんなりを相当な勢いで消費するだろう。


 監獄島やクラインヴェールの施設のような施設はずっとあるものだから、こんな結界の運用法をしていたら持続させるのは難しい。しかし、侵攻の間だけであるならば。

 リソースの消耗を惜しまないのならば可能だ。短期的な運用を視野に警戒度を最大限に高めているというわけだ。


 問題は……探知手段の諸々を掻い潜ったところで、リアルタイムで更新し続けているのだから騒動が起こってそれが途切れれば、すぐに維持している者、或いはさせている者の知るところになるということだ。


「探知……しかも判別か。判別手段に重きを置いているということは、魔物よりも人間を警戒しているということだな」

「魔物なら普通の防護結界で十分だからな。この場合、皇帝の目的を考えるなら――」


 グライフとウィリアムの言葉に、視線が集まった。


「私、ですか」


 視線を向けられたクレアは静かに応じる。恐らく、本陣に襲撃や工作を仕掛けてくることを想定しての罠なのだろう。

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― 新着の感想 ―
対個人への備えをここまでしてるとなると隙を見つけるのは難しそうですねえ
 準備万端、クレアを待ち構えている…… とエルンストにすら見せかけて、更に裏があるということをトラヴィスあたりはやりそうだなぁ
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