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第314話 目覚め

 ローレッタとオルネヴィアは――果たしてそこにいた。


 繭が解け切る前にクレアはその身体に毛布を掛ける。その、ローレッタの姿を目にしたシルヴィアが声を上げた。


「ローレッタ……小さく、なっている?」

「それに竜も……こんなに小さな子だったなんてことは、ないわよね?」


 シルヴィアとディアナが声を上げる。シルヴィアの記憶にあるローレッタは大柄で隻眼の女傑で、2人よりも年上であった。だが、今のローレッタはまだあどけなさの抜けない少女と呼べるような年齢だ。シルヴィアやディアナがまだ、小さい頃に見たローレッタの姿である。


 オルネヴィアも、クレアの話にあったような黒竜ではない。そもそも話の通りなら糸繭に入りきるはずのない大きさだ。

 だが、繭が解けて現れたのは、小さく可愛らしい幼竜であった。うつぶせになったままで寝息を立てている。


「んん……何と言いますか。恐らく私の魔法と、お二人の意志が反映された結果なのだと思います。因子は揃っていても、構成するための材料は足りないので……」

「揃って小さくなることで、帳尻を合わせた……みたいな感じかしら?」

「だと思います」


 クレアが言うと、一同納得したようにローレッタとオルネヴィアを見る。


「う……ん」


 ローレッタは小さく声を上げて眉根を寄せ、それから薄く目を開く。


 ローレッタは額に手をやり、自身の手を見て驚愕の表情を浮かべる。


「わ、私は……。そう、か。姫様の魔法で……」


 左右の目の色が違うが、両目とも開いている。それから周囲に視線を巡らせ、すぐに近くにいるクレアやオルネヴィアに気付いたようだった。


「姫様……!」


 そう言って、クレアの下から手を取る。


「良かった……本当に……! お怪我は、お怪我はありませんか……!?」

「私は――大丈夫です。ローレッタさんこそ、身体の不調はありませんか?」


 クレアに問われたローレッタは、少し身体の調子を見た後に、笑みを浮かべて応じる。


「問題ありません。見えなかった左目の視力も戻っていますし、声まで若返っているようで……これは恐らく、オルネヴィアと私の願いが合致したためでしょうな」


 ローレッタは穏やかに笑って、傍らのオルネヴィアの背を軽く撫でる。それで、オルネヴィアも気が付いたようだ。薄く目を開けて、クレアとローレッタを見やる。

 そのオルネヴィアの瞳は澄んだ赤。煌めくルビーのような色合いだ。ローレッタの左目と同じ色をしていた。黒色の鱗もよく見ると複雑な構造色の光を有していて、細身のシルエットの、美しい竜だ。


 黒色赤目ということで、成竜ともなれば一見威圧感もあっただろうが、目に理知的な輝きがあり、幼竜の今は美しさや可愛らしさが勝る。


「オルネヴィアさんも、体調に問題はありませんか?」


 クレアが尋ねると、オルネヴィアは自身の身体をあちこち見てから軽く四肢や翼を動かし、問題ない、というように喉を穏やかに鳴らした。


 その反応で少女人形は安堵したように胸を撫で下ろしていた。上手くいったという感覚的な部分はあっても、直感的な魔法であるが故に、結果はクレアからしても未知数であるからだ。ローレッタとオルネヴィアが若返ってしまったのはそれだけの材料がなかったというのは分かるが、目が治って色が違っているのは――オルネヴィアがそうなるようにと協力をしたからなのだろう。


 縁の糸で垣間見た時は、ローレッタもオルネヴィアも互いに不干渉であったのに、今は割合親密な距離感で、お互いの無事を喜び合っているのが見て取れた。クレアが見た記憶はローレッタにも見えたし、オルネヴィアもまたローレッタの想いに触れた。


 大切な人を守りたかったという後悔も、制御システムの動きを押し留め、自らを滅ぼしてでもクレアを守ろうとしたという想いも同じなのだ。あの、暗く希望のない日々を、共に過ごし、同じ痛みを、記憶を、共有してきた。


オルネヴィアが人とは対話をしたくないと思っていたからこれまで互いのことを知らずにいたが、それも帝国との経緯から人間不信であったから、無意識的にであれ情を移したくないとそうしていたところがある。


 ただ、知ってみれば信用に足る相手だと思えた。クレアもそうだったが、ローレッタも……それにその身の回りにいる者達も、良い香りがする。


 洞窟で静かに暮らしていた頃の記憶を思い出し、オルネヴィアは目を閉じて巫女のことに想いを巡らせた。

 そんなオルネヴィアを見て微笑み、ローレッタはクレアと一緒にいる面々を見て、立ち上がってから一礼する。


「ルーファス陛下、シルヴィア殿下……ディアナ様も……。またお仕えできる日が来ようとは……」

「ああ。久しぶりだ。貴女が無事に帰って来てくれて、嬉しく思っているよ」

「まずはゆっくり身体を休めてね、ローレッタ」

「そうね。私達の中でも一番大変な境遇だったんだもの」


 ルーファス達はローレッタに穏やかな口調と表情で応じる。


「勿体ないお言葉です」



 それからローレッタはグライフ達にも視線を送った。


「シルヴィア殿下やディアナ様はあのように言ってくれているが……少し身体を休めたら訓練に付き合ってくれると助かる。何しろ、子供に戻ってしまったので大分感覚も違っているだろうからな」

「俺で良ければ喜んで」

「昔指導して頂いた御恩を返したく思います」


 グライフやジュディスが笑って応じる。


 そうしている内に他の繭で眠っていた者達も、一人二人と、繭が解けて目を覚ましていく。キメラとして組み込まれていた魔物達は鳥やトカゲ、狼など様々だが、どの魔物も暴れ出すようなこともなく、大人しくしながらもクレアに感謝の意を示していた。


 やはり、人間やエルフ達の記憶、認識を共有しているのだろう。帝国に対してはともかく、同居人やクレア達に対しては感謝の想いが強い。クレアがユリアン達――帝国に捉えられた者達を助けて回り、共に行動しているということも、好印象を与えている要因になっているのだろう。


「まさか……本当に元に戻れるなんて……」

「良かった……本当に」


 自身の身体を見て喜び合い、抱き合ったり手を取り合ったり、涙を流し、クレアに感謝の言葉と想いを伝えてくる。クレアは静かに頷きながら応じているが、少女人形は嬉しそうに肩の上で身体を揺らしたりしていて、上機嫌だというのが分かる。


 そして、最後に残った繭がある。クレアが最上階から救出してきた人物が包まれた繭だ。


「残るはこの方だけですわね」

「キメラにされていたわけではないようですが、あの施設で一番重症だったと思います。再構成に時間がかかっているのは秩序だった状態ではなかったから、ですね」


 キメラにされた者達は、まだしも人の形をしていた。最上階の人物は、一言で言ってしまえば人間の形ですらなく、膨れ上がった肉塊のような状態だったというのが正しい。


「人としての因子は揃っていますから、ああなっていた原因を取り除き、再構成を行えば……元に戻るとは思います」


 再構成に時間がかかるのは仕方がない。だが、それももう少しで終わるだろう。


「けれど……元の状態が、こうなのかしら。それとも、過酷な生活で弱っているから、かしら」


 シェリーが手を翳して探知魔法を放ち、眉根を寄せる。


「と言いますと?」

「生命力があまり強くないわ。元の状態に戻っても、治療や静養が必要かも知れないわね」

「……私の術は元の状態に戻すものですから……確かに元々そうであるならそうなりますね」


 クレアはその人物の無事を祈るように、静かに繭に視線を向けた。

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― 新着の感想 ―
竜の巨体がベースだったらローレッタさんは巨人族サイズにでもなってたのかねえ?w 他の方々も無事に目覚めたようで何よりですわ
 ああ、やはりローレッタもオルネヴィアも小さくなっちゃったか。そして肉塊になっているのは…… グレアムとエルザの母親か?
誰だろう、虚弱なのにキメラにしたくなる人って 魔法使いかな???
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