第295話 囚われた者達の行方
部屋にいた者達が落ち着いたところで、クレア達は改めて事情を説明していった。全員がアルヴィレトの者達というわけではないが、契約魔法で確認の取れている者達ということで、信用しても問題がない人物達ではあるらしい。
ただ、クラリッサ王女ではなく、クレアとして今どこで何をしているか。具体的にどんな魔法を持っていてどうやってヴァンデル達を倒したかについては話さなくても良い、と固辞された。
それを聞いてしまうと潜入工作中に捕まった際、情報を漏らしてしまうだとか、知らない魔法、固有魔法の類で無理矢理情報を引き出されてしまう可能性だってある、というのがその理由だ。
そのあたりは帝国国内に身を置いて活動しているが故だろう。
「何せ、知らなければ語りようもありませんからね」
そう言って彼らは笑った。
「分かりました。私達のことを信用してということでしたら、しばらくは話さないことにします。ただ――父は救出して安全なところにいる、ということだけは伝えさせてください。あなた方も……心配していると思いますから」
「そう……そうでありましたか。あの方も……」
感じ入るように彼らは目を閉じる。やがて彼らは頷くとクレアを見た。
「もう大丈夫です。お時間を取らせましたな」
「本題に入りましょう。危険を承知でここに来たと言うことは、目的もおありなのでしょうから」
男の言葉にクレアは頷く。
「はい。今後協力をしていきたいというのは勿論ですが――知りたい情報があるのです」
「勿論です。何でも聞いて下さい」
「情報がもう集まっているかは分かりませんが、周辺地域から連れ去れられた捕虜の行先を探しています」
捕虜については――ルーファスのこともあって反抗組織はその行先を追ってきた。大樹海方面の侵攻のために配備されている、という風に情報を追えている者は良い。
一方でその行先を追えていない者はこれまでにもいた。ヴェルガ監獄島に送られていた者達は、各民族、種族、部族の中心人物、その血縁といった――人質とする価値があると認められた者達だ。
だが、そうでない者達がいる。人質として扱われるわけでもなく、戦奴兵となりそうな者達であるにも関わらず、その行先が不明、というものだ。
そうした話を、クレアは既にシルヴィア達から情報共有されている。
「私達も、連れ去られる者達の扱いについては気にして追ってきました。帝国は巨人族にかなり執心している様子でしたし、彼らの輸送は目立ちますから注目していたのです」
「帝国の警戒度は上がっていますが、情報の収集と伝達は間に合いました」
反抗組織の者達がクレアを真っ直ぐに見て答える。
「聞かせて下さい」
「クラインヴェールという都市です。帝国中央付近と呼んで差し支えないでしょう」
反抗組織の者達は頷くと、その都市の名前を口にする。
その名に反応したのはウィリアムだった。
「クラインヴェールか……」
「何かご存じなのですか?」
「ああ。皇帝家の直轄地の一つだな。トラヴィスが統治を任されていたようだが」
「トラヴィス――」
第三皇子トラヴィス。増幅器を作り出し、ウィリアムとイライザを罠にかけた男。バルタークも同様に増幅器に仕掛けをされていた。作ったのがトラヴィスであることを考えれば、やはりバルタークに対しても罠を仕込んでいたと考えるべきなのだろう。
皇帝の命でそうしたのか、後継者争いに絡んでトラヴィスの意志でそうしたのかで少し話は変わってくるが、ウィリアムから聞く限り表面上は穏やかで人当たりが良い人物だという。
内心では何を考えているか分からない、信用のおけない人物、というのがクレア達の評価だ。増幅器を作るなど、高い魔法技術を持っているところも警戒に値すると言えるだろう。
そんな人物が統治している場所ということになる。エルンストがトラヴィスに任せている土地。何があるか知れたものではない。
「帝国の警戒度が上がっていることもそうですが、こちらも気を引き締めてかかるべきかと。トラヴィス自身は帝都に身を置き、名代を立ててクラインヴェールの統治をしているようではありますが――」
「不在でも警戒する必要があるだろうな」
「はい。罠を仕掛けていても不思議はありません」
グライフが言うとイライザは静かに頷く。相手が相手だ。仮に不在であっても油断できない。事実、増幅器に仕込んだ罠一つで一度イルハインの領地に送られて窮地に陥っている。バルタークの時も同じような機構を増幅器に組み込んでいた。
「しかし、話に聞く限りの人物像では――早めに動いた方が良さそう、というのもありますね」
クレアの言葉に皆頷く。
「クラインヴェールが目的地となるのなら、移動は問題ない」
言外に増幅器の残存魔力は十分にある、と伝えるウィリアム。
「そう言えば、帝国はあまり皇太子の話題は聞かないね?」
ニコラスが尋ねる。
「皇太子ルードヴォルグは病に伏せりがちで、下賜された領地で静養している……と聞く。或いは――皇太子が健康であれば後継者争いももう少し目立たなかったのかも知れないな」
ウィリアムが言うとイライザは静かに目を閉じた。
それが無ければバルタークがヴァンデルと競うように武功を立てるようなこともなく、トラヴィスが野心を抱かず、ウィリアムが軽んじられるような事も無かった……のだろうか。そんな想像をしても詮方ないことではあるのだろう、とイライザは少し自嘲するように笑った。
そもそも帝国が帝国である限り、後継者争いから逃れられるはずもないのだ。エルンストが帝位についた時も血が流れたというし、その前の代に遡ってみても血族同士や宮殿内部での暗闘はあったのだろうから。
いずれにせよ、今はクラインヴェールの調査と救出に集中すべきなのだろうとイライザは思考を切り替える。
「他の地域にいる別動隊の方々と連絡を取る手段はありますか?」
「あります。帝国の警戒度が高まっているということでやりにくくはなっていますが。ただ、帝国は北方に注力していたという状況から引き揚げが始まったようですので、ここに集まっているというのが主だった顔触れというのはありますね」
「そうでしたか。帝国が警戒し、周辺地域への侵攻が抑制された、というのは予想されていた動きではあります。今後の予想に関しても話しておきますと――」
クレアは大樹海侵攻についての話をする。大樹海に攻撃を企てているというのは反抗組織側も予想していたようだ。周辺地域から引き上げて警戒度を上げ、中央の守りを固める動きが予想されるというのならば、組織もそれに合わせた動きをすべきなのだろう。
「帝国が中央の守りを固めつつ南方侵攻を狙う、というのなら、地方から切り崩す好機でもある、と思います」
クレアはそう言って、自分達の計画について話をしていく。従属の輪を外し、偽物とすり替えることで支配体制を切り崩す。切り崩した者達で連合軍を形成し、容易には手出しをさせないようにする。帝国軍を相手にする時は徹底した首切り戦術で敵の司令官、参謀クラスを狙う。
「我らもそれに合わせて動く、というのが良さそうですな。中央の守りを固めるならば、確かに地方の警戒は甘くなるでしょうし」
「それもクラインヴェールの一件を片付けてから、とは思っています」
「では――人質の行先の情報収集を担当した私が随行致します」
クレアが答えると、反抗組織の女が胸のあたりに手をやって申し出た。
「方針については順次皆と共有していきましょう。帝国の動きを考えるなら、地方の監視は逆に甘くなるでしょうから」
今は人の動きが多いが、もう少し待てばそれが顕著になっていく。人の動きが多いというのは警戒されていても甘くなる部分も出てくるだろう。ならば、今は都市部ではなく、地方の情報収集をしてクレア達の支援をできるように準備を整えておくべきだと、反抗組織の者達は顔を見合わせて頷き合うのであった。
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