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第280話 技と力

 息つく間もなく、凄まじい密度の攻防が続く。瞬き一つの間に無数の攻防を重ね、ヴァンデルとセレーナ達は切り結ぶ。入れ代わり立ち代わりで味方の消耗を抑えつつヴァンデルを疲弊させる作戦であったが、少し計算は違った。


 それでも全員でヴァンデルの攻撃を分散させ、体力と魔力を削る形にはなっている。本体と影が分かたれて動いているから攻撃力が下がっているという面は確かにあるのだから。正面からセレーナ。後方からルシアとヴェールオロフ。ならば全員の危機を補うのはニコラスだ。攻防の形勢と味方の動きに合わせて武器群を操り、ヴァンデルの動きを妨げるように時折本命の刃を高速射出して妨害と牽制を行う。


「2! 狙撃!」


 セレーナの声から僅か遅れて、ヴァンデルもまた鋭く尖らせた魔力の刃をニコラスに向かってすさまじい速度で射出してくる。ニコラスは目を見開いて身体を逸らしながら横方向へ飛翔。回避方向を読むように偏差で放たれていた魔力刃を自身の剣で弾く。

ニコラスが安全圏からの攻撃ができるのかと言えば、それは違う。離れ過ぎれば細かな攻防を把握できず、武器群を操るのも間に合わなくなるからだ。


「僕の方に飛んでくるのは自分で何とかする! 至近の攻防に集中して!」

「承知しましたわ!」


 ニコラスの声に、セレーナが答える。そう。これでいい。ヴァンデルも後方への牽制に対する期待値が高くなるというのなら、ニコラスに一手割く頻度が増える。であれば、単に武器群を操っているよりも仲間達の負担をより減らすことができるのだから。自分だけが安全を確保しての戦いなど、望みはしない。


 そうやってニコラスが攻めの姿勢を見せて尚、攻防は拮抗していると言えた。

それでいい。消耗と足止めという、当初からの目標は継続している。


「1、3! 回避!」


 セレーナが叫ぶと同時にルシアとヴェールオロフが風に乗って後方へ飛ぶ。ヴァンデルの背から巨大な足が現れ、地面を踏み砕いたかと思うと、下から上へと凄まじい勢いで吹き上げるような衝撃波が地面ごと抉り飛ばす。二人が下がった穴埋めというようにニコラスの武器群が空気を切り裂きながら飛来。上下左右からヴァンデルに時間差を持たせて叩き込まれる。


 弾く。弾く。ヴァンデルの影がその両腕を縦横に振るい、殺到する弾幕を弾き散らす。その攻防の只中にあって、セレーナとヴァンデルの近接戦闘は変わらず継続している。


 打ち込もうとするかのように後ろに引いた左拳に膨大な魔力が移動する。セレーナは一瞬、足を止める。手にした竜牙の細剣に魔力が凝縮。踏み込みながらもセレーナの視線はヴァンデルの右足に向いた。


 その右足が、跳ね上がる。巨大な魔力の衝撃波が斬撃のように雪原を薙いでいた。セレーナは――皮一枚の距離でヴァンデルの攻撃範囲外から逃れながらも、左拳目掛けて閃光のような魔力刺突を放っていた。刹那、遅れて左拳で払うように飛来する刺突を迎え撃つ。


ヴァンデルは隠蔽結界で右足を覆っていたのだ。体内を移動させた魔力を、攻撃のためにそちらに残していると悟らせないために。互いの攻撃は不発に終わったが、ヴァンデルはにやりと笑った。セレーナの目が、隠蔽結界そのものすらも捉える――或いは攻防の中にあっても隠蔽を見切ることができる――と理解したからだ。


 稀有で有用な才だ。戦いだけでなく、様々な場面で恩恵を得られる固有魔法だろう。確保できるのなら、巨人族以上の戦果と言えた。

生け捕りにするには強敵であるのは間違いない。だからこそヴァンデルは高揚を隠しもしないが。


「くく……。死んでくれるなよ?」


 離れた位置に着地して相対する。剣を構えるセレーナにヴァンデルは言った。


「……私達の剣も貴方の命に届くということをお忘れなきよう」

「そうでなくては面白くない」


 セレーナの返答にヴァンデルは牙を剝くように笑って、魔力が高まる。次の瞬間、一気に両者の間合いが潰れた。互いに真っ向から突っ込んだためだ。合わせてルシア達も動く。再びその場にいる者達がヴァンデルを中心に切り結ぶ。


 暴力と技術が融合した連撃。それをセレーナは見切って受け止め、流す。流して反撃を見舞う。動きと魔力の流れが見えていなければできないような動きだ。並みの技量であればそうやって力の流れを逸らされれば体勢を崩されたところを斬り伏せられるが、ヴァンデルに限ってはそうはならない。攻防に余力を残している証左だ。流れに逆らわずに動き、即座に反撃への反撃を重ねて。


 いくつもの剣戟の音。無数に弾ける火花。刺突を皮一枚で掠めるような距離で躱し、火の出るような至近へと踏み込む。下から上へ。臓腑を抉り、天へと突き抜けるような伸びあがる掌底。身を翻しながら回避。離れるための動作から、魔力を込めた斬撃波が下から上へと一連の流れのままに放たれる。影の足で踏みつぶして追いすがる。


 ヴァンデルがセレーナを撃破するために選んだ手段は――物量だった。四肢全てにこれ見よがしに隠蔽結界を纏い、その内側にそれぞれ異なる技を放つ事前準備のような、不穏な魔力の動きを見せたままで迫る。セレーナは僅かに眉を顰めるも、することは変わらない。ヴァンデルの上手を行き――全力の魔力刺突を叩き込む。それだけだ。


「はああああっ!」

「おおおぉぉ!」


 咆哮しながら切り込んでいくルシアとヴェールオロフ。セレーナを物量で仕留めるために影の圧力が弱まったことを察したからだ。だが、それは安心できるような話ではない。危険を孕んだものでしかない。だが今ならば。影の守りを突破してヴァンデルに刃が届くと肌で感じ取れる部分があった。


 ヴァンデルの影は弾力のある雲と言えばいいのか。強靭な癖に手応えがない。武器の刃渡りよりも分厚い壁、或いは盾として機能している。だというのに攻撃に転じた時は十分なほどの殺傷力なのだ。だから二人はヴァンデルのリソースを分散はできても、それを突破し切れずにいた。だが、今ならば――。


 暴風と低温。ルシアの魔法とヴェールオロフの魔斧が唸りを上げて、ヴァンデルの影が揺らぐ。形を崩す。


「離れてください!」


 崩れる影を目の当たりにし、突破できると。そう判断したその瞬間だ。セレーナの警告が飛んだ。

 崩れる影は魔力の塊に戻されたに過ぎない。自由になったリソースを、ヴァンデルは術の行使のために使った。簡単な拘束術。しかし、ヴァンデル本体に意識を向けたところにそんなものを使われて、通ってしまったら致命的な隙となる。それを補うようにセレーナと、ニコラスが僅かに遅れて反応するが――。


「見え過ぎているというのも、難儀なものだな!」


 ヴァンデルの声。四肢に展開した魔力。影が崩れて周囲に飽和した魔力。術として行使されようとしていた魔力。セレーナが刺突を見舞おうとするその瞬間、それらの制御を――ヴァンデルは敢えて途中で全て放棄した。


 矛盾する魔力の動きが衝突。爆発を起こしてヴァンデル本体ごと周囲を巻き込む。ニコラスの武器群が揺らぎ、弾かれて。離脱しようとしていたルシアとヴェールオロフが猛烈な風にたたらを踏む。


 セレーナは爆風の中からから後方に突き抜けるように、大きく後方に跳んでいた。着地するも、苦痛に顔を歪めて片膝をつく。


 爆発の瞬間。それに乗るように推進。セレーナの攻撃を避けようともせずに脇腹に右拳を叩き込まれたのだ。


 手応えは、あった。爆発の瞬間、セレーナは寸分違わずヴァンデルの心臓目掛けて刺突を叩き込んだ。そのはずなのだ。


「臓器を――。体内の心臓を、影で動かした……? そんなことが……」


 セレーナが呟くように言う。


「本当に、よく見えているな」


 舞い上がる雪と埃の中から声がして、確かな足取りでヴァンデルが現れる。


 胸の部分に血が付着している。セレーナの刺突は確かに届いていた。だが、技とも言えない力技で盤面を壊しにきたのだ。

 その姿を確認し、セレーナは細剣を構えて立ち上がる。ヴァンデルは僅かに眉根を寄せる。


「それに、防具だけでなく、まだ何か手札があるな。今ので完璧に仕留めたと思ったのだが、攻撃がずらされた」


 防具。竜素材の防具に加えて、クレアの作った防殻の魔道具だ。が、大きなダメージを通されたというのも間違いない。ヴァンデルの傷は――浅くはないが、断裂したであろう組織を影が補っているのがセレーナの目には見えた。

 攻撃をずらしたというのは、魔眼による幻術で僅かに間合いをずらしたためだが、そちらまでは完全に見極めたわけではないらしい。


「その影で、傷を補えるというわけですわね。……体内の急所も、ずらすことができる」

「そういうことだ。俺の方は戦いに支障ないが、お前はどうかな? ここまでと同じように戦えるか?」


 そう言われたセレーナは、薄く笑う。


「ふ……。勘違いしているようですが――私達のここでの戦い……その第一目標は、時間を稼いで場を繋ぐこと。それから――できるだけ多くの情報と手札を引き出すことですわ。今の魔力暴走による自爆攻撃や体内の操作を、先んじて見せることができたのは、僥倖ですわね」

「何……?」


 ヴァンデルが眉根を寄せる。その瞬間だ。戦場に、上空から何かの影が降りてきた。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!


別作品の告知となりますが、コミック版境界迷宮と異界の魔術師13巻が来月12月25日、発売予定となっております!

詳細は活動報告にも記しておりますので参考にして頂ければ幸いです。


今後とも両作品のウェブ版の更新、書籍、コミック版共々頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
真打登場!
多対一にも関わらず全然余裕はありませんでしたがきっちり時間は稼げてましたもんねー! そろそろ戦いも終盤へと突入しますかな
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