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第267話 信頼と共に

 そして、クレア達がヴェールオロフ達のところに戻り、増幅器の十分な魔力充填までは待機しつつ、状況にも注視ということになった。

 巨人族も反抗組織も戦い慣れているのか、適度な緊張感を維持したままで、士気と戦意は高い状態を保っていると言えるだろう。


「皆、戦意が高いな。これまでで戦い慣れているというのはあるだろうが、救出と反撃……何よりこれからの展望が開けたからなんだろう」


 そんな巨人族や反抗組織の人員を天幕から見て、グライフが目を細める。


「そうね……。グライフ君は悩んでいたけれど迷いが晴れたように見えるわ」


 シルヴィアはグライフの様子を見て言った。


「それは――そうですね。私も……戦うことに理由と場所を見出せました」


 グライフが静かに答え、近くにいたクレアがほんの少しではあるが穏やかに笑った。

 そんなクレアとグライフの様子に、シルヴィアは少し驚いたような表情を浮かべてから微笑む。グライフの理由と場所というのが何か察するところがあったからだ。

 クレアもまたグライフを信頼している様子が見える。シルヴィアにとってはグライフも小さな頃を知っているだけに少し気にかけていた相手でもある。


クレアとグライフがお互いを信頼しているというのはシルヴィアにとっては喜ばしいことだ。


 クレアならば、暗部の騎士といっても蔑むようなことも使い捨てにするようなこともないと、そう思えるから。グライフの家の業を受け止める、背負うというのは簡単なものではないし、主側が信頼すればこそ思い悩むこともあるのだろうが。


だが、ロナやセレーナ、ディアナにしろ、シェリル王女やウィリアムやイライザ、それにニコラスやルシアーナにしろ、周囲の人間関係に恵まれ、良い関係を築いてきたのだろうと見ていてそう思える。であるならば、道に迷うことはあっても周囲が支えれば道を誤ることはないだろうと、そう感じられるのだ。



 そうやって、戦意と緊張感を保ったままで静かに時間は過ぎていき――やがてウィリアムの準備も整ったのであった。




 巨人族の拠点に日の出の時間がやって来る。居並ぶ巨人族の戦士、反抗組織の面々、そしてそこに加わったクレア達。そうした顔触れを見回し、ヴェールオロフが口を開く。


「銀嶺の山々に新たな朝が来た。我らは元より住んでいた土地を帝国に追われて以来、この地に潜み、抵抗を続けてきた。しかし――その雌伏の時も今日終わりを迎え、我らは新たに得た友と共に新たな旅に出る。新たな地と仲間……。それだけではなく、新たなる戦いもそこにはあるだろう」


 ヴェールオロフが声を上げ、周囲の者達を見回す。よく通る声が、拠点に響き渡った。一旦言葉を切り、目を閉じて大きく息を吸ってから


「しかしだ。恐れず前に進もうではないか……! そこに待っているものは今までのようにただただ耐えるための戦いではない! 友を。仲間を助け、悪辣なる者の手から未だに苦しみ続ける者達を助けるための戦い! 名誉と意義を持つ戦い! そして未来を作るためのものだ! 我らが父祖の名誉のために! 我らが子らの明日のために! 武器を取り! 拳を握り、立ち上がるのだ!」


 ヴェールオロフが声を上げ、青い宝石の嵌った戦斧を頭上に翳す。一瞬遅れ、居並ぶ者達が手にした武器を頭上に掲げ、雄叫びを上げた。


 ビリビリと朝の空気が揺れる。

 二度、三度と声を上げて。そしてクレア達は動き出した。


「最初に目指すは帝国軍の駐屯している野営地だ。まずはそこを、派手に叩き潰すぞ!」

「おおぉおおおぉぉッ!」


 ヴェールオロフの言葉に、足を踏み鳴らし拳を振り上げ、巨人族の進軍が始まった。ヴァンデルを誘い出すための陽動でもあるが、これまで忍耐を強いて溜まりに溜まった鬱憤もある。それらを盛大に解放し、戦意の高揚にも繋げていた。派手に叩き潰せば、それは囮としても機能するであろう。


 クレアとヴェールオロフ王達は揃って動き出す。巨人族が周囲を固めて動くことで、クレア達や反抗組織の者達が目立たないようにしている。とはいえ、襲撃を仕掛けるその瞬間までは隠蔽結界によって隠れて動き、攻撃開始の直前まで察知されないようにする。


魔法兵や魔法道具の装備で巨人族の動きを止めにかかる、というのがヴァンデル以外での帝国兵の常道だ。ただ、巨人族の耐久力も並みではないために、多数で囲まなければ効果も低い、というのが現状だ。だから多勢に囲まれるという状況を作らせないためにも隘路での高所からの待ち伏せ。指揮官を叩き潰すようなタイミングでの落石であるとかそういった戦い方にシフトしているのだ。指揮系統を狙って混乱させることで戦奴兵の効果的な運用も難しくしている。


勿論、ヴァンデルがいるから正面切って戦わないというのが前提としてあるのだが。


 いずれにせよ、今回は山岳地帯に駐屯している敵兵は戦奴兵以外、逃さず叩き潰して良い。帝国側に与える情報は少なく。しかし確実にヴァンデルが出てくるように仕向ける。


 帝国軍の駐屯地は山岳地帯にいくつかある。進軍ルート上に存在する駐屯地をいくつか潰し、勝手に帝国側の飛竜に発見させればいい。


 クレアは風景を映すための光ファイバー構造の糸を高く高く伸ばすと、望遠で敵本陣――要塞周辺が見えるように配置する。


「見ることができるとは作戦会議で聞いていたが……敵本陣がこのような遠方から見えるか……。便利なものだな」


 拡大されて映し出される景色に、ヴェールオロフが目を瞬かせる。敵の要塞の様子が手に取るように分かる。ヴァンデルが兵を率いて出撃すればリアルタイムで察知できるというわけだ。加えて言うなら、望遠で覗いているだけなのでヴァンデルの感覚が如何に鋭かったとしても感知することは難しい。


仮に視線を感じるなどと言うのなら何か予感するものはあるかも知れないが、具体的にどうこうというのはないだろう。もしそれで真っ直ぐに自分のところに向かってくるほどであるならば、それはそれで望むところなのだ。元々ヴァンデルは捨て置けないのだから。


 迷道結界を抜けて、クレア達は山岳地帯を移動していく。姿を隠さず、目的地も分かっているならば歩幅の大きな巨人族の移動速度は早い方、と言えるだろう。クレア達はクレア達で、そんな巨人族の行軍速度についていくために4つ足のゴーレムを作り、その上に乗る事で体力の消耗を減らしつつ山岳地帯を移動していった。


 道中、見張りと合流しながら移動を続け――やがてクレア達は最初の目標地点へと到着する。帝国軍の山岳地帯内部での拠点。キャンプ地だ。緩やかな見通しのいい斜面に、帝国軍が天幕を張って朝食の準備を進めているところだった。クレア達はより高所の斜面からそれを見ている、という状態だ。敵の探知魔法よりもクレアの展開している隠蔽結界の方が高度で、帝国兵は感知できていない。


「さて――では始めましょう。合図をしますので、それから攻撃を開始してください」

「戦奴兵対策を行う、という話だったな」

「はい」


 ヴェールオロフの言葉に頷いて、クレアは糸を伸ばしていく。探知魔法で戦奴兵の位置を把握。行動不能にする術と消音結界を同時展開して機能不全に陥れるという対策だ。ダークエルフの地下都市の時とは違う。小規模な部隊程度ならばそれで事足りてしまうということだ。

 糸を地面に沿って広げ――広げて目標を見定め――そしてクレアは動いた。

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― 新着の感想 ―
クレアによるサポートは戦場において大きくアドバンテージを稼げますねー 1人で何人分の働きをしている事か
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