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第253話 勝利の祝宴

 戦奴兵達は解放まで捕虜という扱いではあるが、基本的には従属の輪から解放する。

魔法契約を受け、帝国側に寝返ったり内通したりしないと約束できるのならば、捕虜の身分からの解放だけでなく、ダークエルフ側について共に戦い、地下都市で暮らしてもいいし、帝国に戻るのでなければ、地下都市を出て自由にしてもいい。その場合、希望するなら南方に避難させる準備がある、とも伝える予定だ。


 戦奴兵に関しては戦いを望まない者に戦いを強要するつもりはない。敵兵として戦線に復帰してこないならそれでいいという方針である。


 帝国兵は強固な従属の輪をつけることで、兵力として復帰できないように。そして情報を漏らさないように強制力を働かせる。


 その上で人質交換の材料になりそうな者ならばそう使うし、そうでない者は折を見て解放といった形だ。

 どちらにせよ兵士として戦線に復帰しない、情報漏洩もできない、解放後に盗賊行為等もできないとなれば解放に問題は生じない。

寧ろいつまでも捕虜として抱えている方が物資を消費してしまうことになるだろう。ただでさえ増えた人員を管理する必要があるのだから。


 バルタークを含め、遺体、遺品については魔法で浄化と防腐処理を施し、隣国を通して帝国に返還される予定だ。その後は交渉を通じて進めていく。


 ただ、そうした細々とした後始末についてはクレア達にしかできないことを除き、ダークエルフ達が表立って処理する。


 クレア達は帝国から追われる身であるし、皇帝エルンストの目的から考えるならクレア達がこちらの戦場に関わっていたとなれば大軍を差し向けてくる可能性もある。


 帝国は大樹海側に注力している。だから、地下都市や巨人族の避難している山岳地帯で帝国の軍を撃退したとして、再編からの再侵攻はかなり後回しになるだろうと見積もっている。後はバルタークが戦死した事をどう見るかだが、面子にかけての弔い合戦、地下都市の攻略等を考えるのなら帝国の再編も大規模なものになる。


その場合、兆候は必ず察知できるし、今度はダークエルフ達にも準備する十分な時間がある。ウィリアムの補給により、外から援軍と物資を送り込めると言うことを考えれば、いくらでも消耗せずの有利な篭城戦が可能となるだろう。


「地竜門の周辺を作り変えてしまおうと考えているのよ」


 捕虜達や物資の後始末が進んでいく光景を眺めながら、リュディアは今後の防衛計画についてクレアに話をする。


「作り変える――。やはり精霊の力を借りて、ということですか」

「ええ。地竜門を覆うような形で要塞化してしまおうというわけね」


 リュディアが笑う。大階段から続く防衛設備を行軍できる道に作り変えたように、精霊の力を借りれば周辺地形ごと隆起させ、短期間に要塞化することができるというわけだ。


「でしたら更にその周辺に木々を広げますか。食料や燃料の確保、幻惑に奇襲等々、色々便利に使えるかと思いますので」


 周辺で戦闘になった際、クレア自身も優位に立ち回れるという目論見がある。幻惑させるための結界等も有効に働くだろう。


「それは良さそうね……。次に帝国が来た時に、かなり警戒させることができそうだわ」

「要塞作りに関しても案や助力を貰えると助かるのう。儂らにはない魔法技術がある故、防備を強固なものにできそうじゃ」

「勿論です。と言っても、巨人族の皆さんの加勢に行きますので、それほど長居はできないところがあるのですが」


 ウィリアムの固有魔法であれば行き来はできる。グロークス一族や獣化族の中からも一部は地下都市に駐留し、帝国に対抗していく勢力の一つとして動いていくという計画であった。人が増えた分は今回の帝国から接収した兵糧の他、王国から食料や物資の援助も予定している。いずれにしてもウィリアムと共に輸送と情報の共有、連携などを行っていくことになるだろう。


「またすぐに出発するにしても、それまでは地下都市でゆっくりと過ごしていってもらえると嬉しいわ」

「すべきことを済ませたら祝勝の宴だろうか」

「そうねえ。篭城戦もあって、みんなにも我慢をさせてきたし。クレアさん達も、今回の勝利の立役者だもの」


 リュディアとミラベルがそう言って頷き合う。


「ありがとうございます。その宴には参加させて頂きたく思います」


 クレアもその招待に応じる。死者は出ているが、だからこそダークエルフ達の勝利を祝うことが弔いになる部分もあるだろう。皆、勝利を信じて戦ったのだから。




 戦いの後始末は続いていった。

 宴を待つまでの間、クレア達はリュディア達との話し合いを行ったり地竜門周辺に木々を生やしたりしつつも、地中を泳ぐ魚魔物の養殖場や地下に生えるキノコの栽培場などの見学を行い、ダークエルフの文化などについても学んだりした。


「見学なら儂らの施設も見ていくと良いぞ」


 そうクレア達を誘ったのはドワーフ達だ。

ドワーフ達が動かしている施設は鍛冶場や工房、採掘場。それに酒造蔵である。


「武器も良いものが作れるが、酒造を行う環境としても中々のものでの!」


 ドワーフ達は酒造蔵を案内しつつそんな風に言った。


「ただのう。帝国が攻めてきたということもあって、原材料が入ってこんのじゃ。新しい酒の仕込みができん」

「うむ……。あんたらが融通してくれると助かるんじゃが」

「それなら……やり取りする物品の中に入れておくというのはどうかしら? 酒造りにしても大体の原材料は商会が融通できると思うし」

「そうですね。お酒の仕込みということなら、そんなに頻度も高くなさそうですし」


 ディアナの提案にクレアが同意するとドワーフ達は顔を見合わせ、にかっと嬉しそうに笑ったのであった。

 ダークエルフ達だけでなく、ドワーフ達との友好関係、交流を深めておいて損はない。帝国に対抗するのなら味方は多ければ多いほど良いのだから。




 そうやって地下都市の住民達と交流や見学もしつつも1日、2日と過ぎていき、クレア達は宴の日を迎える。


 塔のバルコニーから準備が整えられた広場に向かって、長老達が声を上げる。


「我らを包囲していた帝国軍は、皆の力で撃ち破られた! 今日は勝利を祝す宴である!帝国の野心は潰えたとは言えぬし、問題もまだある! 予断を許さぬ状況でもあろう! しかし我らは長らく忍耐の日々を過ごしてきた!」

「同時に今日という日を迎えることの出来なかった仲間達を思い、先に旅立った勇者達に感謝の想いを捧げ、勝利の報告を伝えるとしようではないか!」

「そして、義によって駆けつけてくれた友にも敬意と感謝を伝えよう! 彼ら無くして今日の大勝もまた、無かったであろうからな!」


 長老達がそうバルコニーから声を響かせると、大歓声が上がる。


 そうして長老達が酒杯を掲げ、乾杯の音頭を取って宴が始まる。

 情報の秘匿もあるからクレア達がどのように戦って誰を撃破したかというのは公にはできないものの、その協力が帝国軍撃破において大きな役割を担った、という情報は周知されているのだ。


「貴女方のお陰だ。改めて礼を言わせて欲しい」

「お陰で友人の敵討ちができた」


クレア達は事情を知るダークエルフの精鋭達に囲まれており、精鋭達は乾杯しつつもクレア達に礼を伝えてくる。


「こちらこそ。部外者である私達を信用して、作戦に命を預けて下さったことに改めて感謝を」


 クレアがそう応じる。

精鋭達はウィリアムの転移によって包囲戦の初動から作戦に加わった面々だ。諸々の事情を知っていて、魔法契約によって秘密の厳守を誓っている者達でもあった。

精鋭達の内から巨人族の救援に向かう面々も選出されるということで、今後の帝国との戦いでも頼りになる顔触れと言えるだろう。


 そうやってダークエルフ達と交流をしながらも、宴の席は幕を開けたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] またひとつ帝国との戦いに勝利できましたね! 王子まで討ち取られたら流石の帝国でも大きく動くのかなあ?
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