第161話 カールとの再会
自身の庵も完成し、クレアは無事に独り立ちを果たした。
ロナの庵にあった元々の部屋はクレアが訪問してきた時のためにそのままになっているものの、生活する場は移る事となる。
自身の庵と開拓村で暮らしつつ、時折ロナの庵に出向いたり、領都で顔を合わせたりといった暮らしへの変化だ。
開拓民の公募もかかり、そこにアルヴィレトの関係者も入ってきている。
開拓民として村の住民となるだけでなく、冒険者や出入りする商会関係者という形でもアルヴィレトの民が入ってくることになるだろう。
開拓村の建築、開発等はさておき、鉱山竜が討伐されたことで起こった余波も落ち着き、王都側も討伐者への褒章を行う用意が整った。
劇場での公演予定日も近付いており、クレアの独り立ちの祝いも問題なく行えるということで、新しい生活もそこそこに今度はロナ達と共に王都へと向かう事となったのであった。
「王都の友人と観劇をしたり独り立ちの祝いをしてくれるという事ですので……皆で王都に出かけてきます」
「おお、そうなのですか」
「道中お気をつけて。グライフ様やロナ様が同行していらっしゃるようですし、何事もないかと思いますが」
クレアが話をしに行ったのは、開拓民達が集まっている天幕だ。クレアに応対したのはアルヴィレト出身の者達で、壮年の精悍な男と、若い女、女の父親で魔術師の初老の男だった。
南部からやって来て開拓民として加わり、アルヴィレトに限らず他の面々の家の建築や畑の開墾を手伝う等々、精力的に開拓を行っているため、村民からも一目置かれて中心人物になっている。そうやって動いているのは評判を良くしておくためでもあるし、他ならないクレアが家を構えている場所だからでもあるだろう。そういう目的や理由があるにしても信頼されるのは当人達の気性、気質が大きいだろう。
「チェルシーもお祝いに参加で不在です。ポーションは天幕に置いておきますので、怪我等をした場合は使って下さい」
「それは助かります。勝手な持ち出し等が起こらないように監視も置いておきますぞ」
開拓村側からフォネット伯爵領経由で王都へと向かうルートでの移動だ。
街道の整備状況はまだまだだが辺境伯家が街道の巡回頻度を上げており、治安はかなり良い方だと言える。道の状態は良いとはならないものの、行商人、隊商達も積極的に行き来し始めていた。クレア達は箒に乗って移動しながらもそうした様子を空から眺める。
ディアナもまた箒での移動になっていた。ロナと魔法技術の交流をしたことで、箒による飛行術を教えてもらった形だ。元々実力のある魔術師で魔力の扱いに慣れているということもあって、飛行術もしっかりと身に付けることができた。
クレアやセレーナと違い、まだ日が浅いために曲芸じみた飛行はできないが、既に移動だけならば安定していて問題はない水準だ。
「大分飛行にも慣れてきましたね」
「そうねえ。クレアちゃん達もコツを教えてくれるし。もっとうまくなったとしても、クレアちゃんみたいに竜と空中戦をできるようになれるとは思えないけれど」
クレアの言葉に笑って応じるディアナ。自分の意志で空を飛ぶのは心地の良いものだ、と眼下を巡回している辺境伯家の兵士や、それと挨拶をしている行商人、冒険者達を眺めながら思う。
「道もかなり整備が進んでいるようだな。辺境伯は動きが早いな」
「そうですねえ。もう少しすれば伯爵領側との行き来がもっと楽になりそうです」
街道沿いの宿場町の開発も進められているらしい。道がもっと整備されれば乗合馬車も行き来しやすくなるだろう。公的な部分での伝達、運搬の速度を上げられるようにするというのは、ルシアやニコラスからの情報だ。
クレアが開拓村に居を構えていることから、そういう情報も貰えるようになっていた。
そうやってクレア達は辺境伯領からフォネット伯爵領へと入っていく。
鉱山側のルートは少し前まで寂れていたが、今は人が戻ってきている。伯爵領側でも道の整備は進んでおり、巡回も行われている様子だ。
伯爵領の鉱山も再開発が進むという事で、人の流入が急速に増えているという話だ。仕事があれば人も集まる。規模の話もあって、その集まり方は開拓村とは比較にならない。
開拓村に関して言うならクレアが居を構えているものの、それを積極的に喧伝しているわけではないから、外から見れば大樹海に近い立地の開拓村という位置付けでしかない。
全体として開拓村の今の立ち位置を見るならば鉱山再開発の一連の流れで辺境伯領側に新しい村が出来たという、ただそれだけの話ではあるだろう。
クレア自身も目立ったりしたいわけではないから、この状態で良い。
商会に関して言うのなら、危険な土地でも商売するというスタンスと共に、クレアとの人脈も最初から明確にしている。結果、まだ目立っていない開拓村にも問題なく注力できる、というわけだ。
ともあれ、伯爵領の再開発も順調に進んでいるようで、鉱山近くの廃村や寂れていた村を再利用している様子も見受けられた。鉱夫や職人が仕事を求めてやってきているという印象である。
「商会も協力しているようですし、再開発の速度は上がっていそうですね」
「そうね。手紙には物資や魔法道具に関する話もあったし」
フォネット伯爵領は長年力を失っていたという事もあって次第に人も離れていった。
ダドリーのような輩に目をつけられもしたが跳ねのけていたということもあり、商売的には空白地帯になっていた部分もあるのだ。そこに商会が一早くから再開発のために名乗りを上げて収まった形である。
「ふうむ。昔の賑わいまではもう少しってところかねえ。何にせよ良い事だ」
過去のフォネット伯爵領を知るロナもそんな感想を口にする。
鉱道を補強するための物資が運び込み、土砂を運びだしている作業風景。鍛冶の金槌の音に炊事の煙。忙しないながらも賑わいのある村の様子を眺めつつ、クレア達は道沿いに辺境伯領の領都へと向かっていった。
街道を進んでいくと、丁度巡回の部隊が領都に向かって進んでいくところであった。
「お兄様の部隊ですわ」
部隊を指揮しているのはカールだ。それを見て取ったクレア達は高度を下げ、小人化等も解除してから声をかける。
「こんにちは」
「ああ。そろそろ来る頃だと思ってた。少し早めに巡回を切り上げて戻って来たんだ」
クレアが声をかけるとカールは笑顔で応対してからロナに気付き、一礼した。
「ロナ様とお見受けします。フォネット伯爵家のカールと申します」
「ああ。よろしく頼む。堅苦しいのは苦手だから適当にしてくれると助かるよ。あたしは貴族でも何でもないしね」
「わかりました」
カールはロナとは初顔合わせになる。互いに自己紹介を済ませ、クレアの独り立ちとその祝いに関する話であるとか、セレーナの王都での褒章の話等をしながら領都へと向かう。
また、セレーナの褒章に合わせ、フォネット伯爵家の面々も揃って王都に向かうことになっている。竜討伐と鉱山再開発の祝いでもあるからだ。
クレア達は目立ちたくないから登城しないが、シェリル王女はセレーナが顔を見せればそれと気付き、クレア達が竜討伐のメンバーだったことにも思い至るだろう。秘密を共有し合っているシェリーやポーリンが、それで何か余人に情報を漏らすということもないだろうから問題はないのだが。




