猫 (短編)
我の名は犬という。だが、我は人間という種族の中では猫というものらしい。わが主人が、我のことを犬という種族のものと勘違いをして引き取ったことからこの名がついた。わが主人はこんなへんてこな勘違いをしてしまうほどの阿呆だ。我ながら、妙な奴に引き取られたなと思っている。そういえば、前の主人はへんてこなしゃべり方をしていた。語尾に「是よ」とか、「出陣ジャー」とかいう言葉を発していた。今回の主人は変なしゃべり方をしてないのである。人間というものは気持ちが悪いなと思った。
「おや、朝ごはんの時間だ。今持っていくぞ」
おっと朝ごはんのようだ。主人は焼いた固くて塩辛いものを我に投げてきた。いつもこれだ。主人は焼いたイカなるものを日が昇る前に一回、日が傾くころに一回投げて来る。
実は我、このようなものが好きではないし、好みではない。出されたから仕方なく食べてはいるが、学生と呼ばれるものがくれるコロッケなるものの方が好きである。我が固いものを器用に食べていると、ご主人が靴を履き外へ出ていった。人間はいちいち履かないといけないので大変だなと思った。ご主人は水を投げる仕事をしているらしい。水は我らにとっても必要なものだ。なのに、それを投げるのか人間とはよくわからぬものである。我がそれを知ったのは、主人が箱形で音がするものに向かってそれについて叫んでいたからである。我は発情期なのかと思い、足をなめてやったら、急にこちらを向き、抱きしめてきてすっぱい水を塗りたくられた。ああそうか、人間の生殖は目や鼻からするものだと思った。この話を我の友達である145}「;:」@に聞くと、どうやらその水は我もあくびをしたときに出る涙というものと同じものらしい。彼女は、野良猫で人間には飼われていないが、ここ一帯を占拠している群れのボスなのだ。ご主人が出ていくのを確認し、我は猫用の小さな扉から、外に出る。最近気になった疑問を尋ねようと我は彼女のもとへ、急いでいった。彼女の住処は、人間の小さな町を抜けた先の古びた家にある。彼女はいつも小さな町から、食料をもらっているらしい。我が古びた家の中に入り、彼女に挨拶をし、こんな質問をした。
「なぜ人間は、あんなに二足歩きができるのか」
我は、暇なときよく二足歩きをしているのだが、数秒しかできないから、疑問に思ったのだ。だが、質問の答えは、我が思っていたものとは異なっていた。
「お前、ほんとに猫なのか。なんか気分が悪いや」
彼女はそっぽを向いて、歩いて行った。
我はなんだか寂しくなり、ふらふらしながら、家路についた。その後、我は彼女に話しかけることをやめた。そうして我は主人と二人ボッチになった。そういえば昔、彼女にこういわれたことがある。
「猫は気ままなものだ」と。だが犬という名をつけられた我にはわからなかった。名は体を示すという前の主人が言っていた言葉の意味がようやく分かった。そうして我は家に引きこもるようになった。
我が家に引きこもるようになってから、数日のこと。最近、昼寝をしていると扉をドンバンドンとたたかれ邪魔される。そのあと、おっかない顔をした人間が主人の名前を呼びながら「そろそろ返していただけませんか、また膨れ上がりますよ、いるんでしょうわかっているんですから、速く扉を開けてくださいよ」
ご主人は、この声がしているとき、いつも布団にこもって「いない、いない」とつぶやいていた。
翌朝、主人はなぜか外に出ない。元気がなさそうなので、足をなめてやった。前と同じように我に抱き着き涙を流していた。
あれから、数日が過ぎ外も日に日に寒くなっていった。あの怖い扉たたきの野郎は、毎日現れた。主人と我は、あの日から外に出ていない我と主人やっと心が同じようになったと思えた。
次の日、主人が珍しく外出し、先刻の名残を外から大量に持ってきた。主人がそれにいつも我のご飯を用意するときに使う機械を使ったところ、あたり一面紅葉が咲き、次第に暖かくなってきた。我は猫ながら、あたり一面の紅葉を美しいと思った。