それはあまりにも
頬を伝う雫。何か、夢を見ていた。とても悲しい、悪夢のような結末を見ていた。それを知ってるはずなのに今の私は何も知らない...?分からない、分からない。
頬を流れ落ちる悲しみを拭って、身体を起こす。硬い床の上で寝てしまったから、身体が少し痛い。
とぽとぽとぽ。....コト。ごくごくごくごく。ぷはぁー。ミルクの甘味に少し頭が起きる。
春先。三寒四温も真っ只中の季節は、夜にかけて少し冷え込む。ところどころと咲いている桜はもう散っていて、あまりにも儚い。
携帯の着信が鳴る。
黄昏ていた私は、その音が日常の縮図のようで、ハッとして常識を纏う。画面には、彼女からのメッセージがあった。
夜ご飯、何がいい?私はカレー
私もカレーがいい
野菜室には、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも。冷蔵庫には豚肉。さて、カレーのルーだけ無い。
カレーのルーがない。
先にお米炊いとくね
了解
ありがとう
白く濁った研ぎ汁をシンクに入れる。
からからから。お米も一緒にシンクに入っていく。
失敗しちゃった、、、。まぁ、いっか。
簡易の音楽がなって、炊飯器は意気揚々と米を炊き始めた。
私の日常は、今日のそこ、までだった。
いつまでも彼女は帰ってこなかった。私は焦って、探して、見つからなくて、翌朝届け出を出して、見つからなくて、見つからなくて、そのまま分からなかった。いつしか諦めて、でも私は何もできない歳になっていて。あまりにも呆気なさすぎて、死神に早々と命を渡して、滔々と人生を語った。
彼女は、分からなかった彼女は。
長らくそこにいた。って言って、包丁で刺されるのは痛かったって言って頬を膨らませた。涙が出て、嗚咽がでて、助けられなくてごめんねっていくつも謝った。
誤った。
頬を伝う雫。何か、夢を見ていた。とても悲しい、悪夢のような結末を見ていた。それを知ってるはずなのに今の私は何も知らない...?分からない、分からない。
分からないはずなのに、何度も分からないこれを、知ってる気がして。
すぐ家を飛び出して、彼女を抱きしめに行った。
彼女は驚いていたけど、私の記憶はそこで終わっている。
衝撃と生々しい、痛みが熱に置換されて.....。あぁ....ダメだ.....。
頬を涙が伝っている。
貴方はどうして、いつも、いつも、私からその、刃を遠ざけて、私の手の中からいなくなってしまうの?
ぬるいぬるい牛乳を、携帯の着信音もなしに、桜の散る姿に興味もくれず、ただ、飲む。