ひよこ、騙されていたことを知る
元の大きさに戻った白虎さんのブラッシングをする。
「うんしょ、うんしょ」
「あ~、そこそこ」
目を細めてブラッシングを受け入れる白虎さん。
「うお、ごっそりとれた」
持っていたブラシを見てみると、白虎さんの毛がいっぱいついていた。
白虎さんの抜け毛を瓶に入れて集めようとすると、魔王によって容赦なくゴミ箱に捨てられる。
「あ~」
「ばっちいから捨てるぞ」
「ばっちいって……いや、きれいなものではないんですけどね」
自分の抜け毛をばっちいと称された白虎さんは微妙な顔をしている。
そんな白虎さんの頭を、私はよしよしと撫でた。
「びゃっこさん、きょうはなにする?」
「ん~? そうだな、今日は騎士達に訓練をつけてやらないといけないから、一日中ヒヨコと遊んでやるわけにはいかないぞ」
「たたかいたいなら、ヒヨコがおあいてするよ?」
「いや、確かに戦うのは俺の趣味でもあるが、騎士達の指導は俺の仕事でもあるからな」
「へぇ、きゅうかちゅうなのに、まじめだねぇ」
確か、四天王のみんなは今休暇中のはずだ。休みは邪魔しちゃいけないから道場破りには行っちゃダメって、前に魔王に言われたもん。
「ん? 俺達四天王の休暇はもうとっくに終わってるぞ?」
「え?」
「ん?」
顔を見合わせる私と白虎さん。
そして、私はあることに気付いた。
「……まおー?」
微妙に私から目を逸らしている魔王を見上げる。
「……バレたか」
「ばれたかじゃないよ!」
さては、私を四天王のみんなに挑ませないようにしてたね。
ジト目を向けると、魔王が気まずそうな顔をする。
たしかに、フェニックスの時は突撃した私が悪かったけど、次からはアポを取ろうと思ってたもん。
ぷくぅと頬を膨らませる。
「……すまん」
「ヒヨコ、ちゃんといってくれたら分かるよ」
「そうだな、我が悪かった。もうしないから許してくれ」
謝りながら魔王が私を抱き上げた。
「しかたないから、こんかいはゆるしてあげる」
「ああ、ありがとうヒヨコ」
コツン、と私のおでこに自分のおでこを合わせる魔王。
私からもうりうりと頭を擦り付ける。
「でも陛下、こんな小さい子に決まりきった場所で大人しくしていろって言うのも無理な話ですよ。たまにはヒヨコを連れてどこかに出かけてもいいんじゃないですか?」
カカカッと、自分の後ろ足で耳を掻きながら白虎さんが言う。
そして、白虎さんの言葉に対し魔王が少し考え込む。
「……確かにそうだな。ヒヨコ、旅行に行ってみたいか?」
「い、いきたい!!!」
勢い余り、両手を上げて返事をする。
「とうさまもいっしょ?」
「ああ、もちろんだ。早速日程を調節しよう」
私の頭を一撫でした魔王は、私を抱っこしたまま父様のもとへと向かった。
そして、旅行の話を聞いた父様は、私と同様に瞳を輝かせる。
「旅行いいね! そういえば、ちゃんと遠出したことなかったもんね」
どこに行こうかな~と、父様が思考を巡らせ始める。
「魔界は広いから、いっぱいいろんな所に行って思い出作ろうね」
「うん!」
「ヒヨコはどんな所に行ってみたい?」
「ダンジョン」
「バトル脳だね。予想外の答えに父様びっくり」
瞳をぱちくりとさせた父様は、本棚から魔界の地図が載っている本を持ってくる。そして、本を開いて魔界全体の地図を私に見せてくれた。
父様は頭を突き合わせる形で、私は机の上にある本を覗き込む。
そして、父様の長い指が地図の上を滑る。
「ここが『帰らずの森』っていう森型のダンジョンで、ここが海の中にある『無空のダンジョン』。確かまだ最深部までは誰も攻略してないんだよね。あとは……」
「デュセルバート様、物騒なダンジョンばかり教えないでくれ。ヒヨコの目が煌々としている」
「おっとっと、ヒヨコが喜んでくれそうだからつい」
肩を竦める父様。
「あ、そういえば白虎の領地に観光向けのダンジョンがあったよね」
「それもそうだな。あそこならヒヨコも楽しめるだろう」
「んん? どんなとこ?」
「ふふ、それはついてからのお楽しみ~」
人差し指を口元に当て、いたずらっ子のような笑みを浮かべる父様。
「……ただ、旅行となるとヒヨコが迷子になるのが心配だ……」
「ああ、確かに」
魔王の懸念に父様が同意する。
「しっけいな」
「ダンジョンの中ではしゃいで、少し目を離した隙にどこかに行ってしまいそうだ」
「ああ、たしかに」
それにはヒヨコも納得だった。
ダンジョンの中だと、我ながら舞い上がって何をするか分からない気がする。
「……わんちゃんみたいに、ヒヨコにもおさんぽ紐つける?」
「……要検討だな」
冗談だったんだけど、魔王は割と真面目に検討をし始めていた。





