ひよこ、白虎さんと交流する
白虎さんは暫く魔王城に滞在することになったらしい。
いい機会だから騎士達の訓練に参加するんだと。なぜか訓練に参加する面子の中にヒヨコのベビーシッターズの三人も含まれてたけど、ヒヨコは知らなかったフリをした。
強くおなり。
ヒヨコの気分は親鳥だ。断じて面白がっているわけではない。
白虎さんの頭の上で揺られながら三人の健闘を祈った。
「―――白虎、夕食は我らと一緒で良いか?」
「ええ、ご相伴に預かります」
魔王の言葉に白虎さんは頷こうとしたけど、頭の上の私がズリ落ちそうになって慌てて動きを止めた。
私はぴよぴよと白虎さんの頭の上を歩いて元の位置に戻った。白虎さんの頭の上あったかい。
目を瞑って寛いでいると、父様が白虎さんに恨めし気な視線を向けた。
「ちょっと白虎、我の子を誑かさないでくれる?」
「とんだ言いがかりですよ。このヒヨコが勝手にテコテコよじ登って俺の頭の上を陣取ってくれたんですから」
「いごこちばつぐん」
「ガーン」
素直な感想を言うと父様は何やらショックを受けたようだった。
「ひ、ヒヨコは父様よりもその獣がいいっていうのかい?」
「獣て」
白虎さんが半眼でツッコむ。
「ん~。こうおつつけがたい」
「そんな難しい言葉知ってて偉いねヒヨコ。でもそこは父様って言ってほしかったなぁ」
ふよふよと空中に浮いた父様が私を抱き上げ、うりうりと頬ずりをする。
そして父様は私のふわ毛に鼻を埋めたまま停止した。ひよこ吸いだ。
そんな父様を白虎さんはまあるい目で見上げていた。
「デュセルバート様がこんなに子煩悩だなんて知りませんでした」
「我も知らなかったよ。まあ子煩悩さならそこの魔王も負けてないけどね」
「もちろんだ」
なぜか自慢げにそう言う魔王。
そんな魔王を見て白虎さんが笑った。
「はは、お二方とも大分変わられましたね」
「嫌かい?」
「いえ、いいことだと思いますよ。二人とも雰囲気が柔らかくなりましたし」
そう言って白虎さんが目を細める。
「それに、大事な人ができたからかお二方共生き生きしてますよ」
「そうか?」
「はい。陛下なんか特にそうですよ」
自覚はないようで魔王が首を傾げる。
確かに、最近の魔王は結構所帯じみてきた感じがするよね。ヒヨコのお世話も大分板に付いてきたし。
今だって父様から私を受け取り、若干乱れた私の毛並みを整えてくれている。
そんな会話をしていると、あっという間に食堂に到着した。
白虎さんがいるからか今日は床に座って食べるスタイルらしい。いつもの長いテーブルが端に寄せられ、部屋の真ん中には見慣れないラグが敷かれている。なんか模様の入ってる高そうなラグの上にはクッションがいくつも置かれていた。
すごい……くつろぎの空間だ……。
新鮮な空間に私のテンションは爆上がりだ。
「ぴぴっ」
「お、ヒヨコが嬉しそうだ」
魔王の手からぴょこんと下りてぴよぴよとラグの上を歩く私を父様が微笑まし気に見守っていた。
そして白虎さんもラグの上に横になる。白虎さんは大きいから、横になると長方形のラグの長辺と同じくらいの長さだ。
魔王と父様もそれぞれラグの上に等間隔で座る。
私はどこに行こうかなって思ったけど、やっぱりモフモフの誘惑には勝てなかった。
横向きに寝転がってくつろいでる白虎さんの腹毛にもふんと埋もれる。白虎さんの腹毛は柔らかくて長めなのでひよこサイズならすっぽりと埋もれて見えなくなっちゃう。
「ヒヨコ、またねちゃいそう……」
「こらヒヨコ、ごはんはきちんと食べろ」
魔王に項のあたりを摘ままれて白虎さんの毛の中からズボッと引っ張り出される。
「あ~」
「あ~じゃない。今寝たら朝までいっちゃうだろ」
そして魔王は膝の上に私を乗せた。
そのタイミングで食事が運ばれてきて私達の前に並べられる。白虎さんがいるからかいつもよりも大分量が多い。あと肉料理も。
「ほらヒヨコ、あーん」
「あ~ん」
魔王が私の口にサラダを入れる。その様子を白虎さんが意外そうに見ていた。
「本当に子育てしてるんですね。陛下が給餌する姿なんて生きてる間に見られると思わなかったです」
「我もまさかひよこを育て始めるなど想像もしてなかった」
私も魔王に育てられるなんて思ってなかったよ。
人生何があるか分からないね。もう人間じゃないけど。
そんなことを考えながら、私は口の周りについたドレッシングを魔王に拭われていた。





