ひよこ、気付かぬうちに強化してた
ある日の穏やかな昼下がり、私は日向ぼっこをしながらうとうとしていた。
ちょっと昼寝しよ……。
「―――ぎゃああああああああああああああああ!!」
突如聞こえてきた叫び声に、私はぱちりと目を開く。
「……せっかくねようとしてたのに……」
ヒヨコの眠気は、無粋な悲鳴によって霧散してしまった。
若干ムカッとしつつも私は起き上がり、悲鳴がした方へと向かった。ほとんどなくなってしまった睡眠欲よりも好奇心が勝ったのだ。
ぴぴぴぴっと走って悲鳴がした城の外、訓練所へと向かう。
訓練所に到着すると、そこにはいつもの騎士さん達と青髪達、そして見慣れない白い虎がいた。
「とらしゃん……かわいい」
「ヒヨコお前、この惨状見てよくそんなこと言えるな……」
いつの間にか私の後に来ていたオルビスさんが呆れたようにそう言う。
「白虎が暴れて騎士達が蹂躙されているっていうのに」
「あれはあそんでるだけでしょ。とらしゃんはほんきじゃないよ」
「……分かるのか、流石だな。あんだけ騎士達が吹っ飛ばされてんのに。ついでになぜか青髪達も」
あ、ちょうど今青髪が吹っ飛ばされた。
「ところで、あのとらしゃんはだれ?」
「ああ、ヒヨコは知らなかったか。四天王の一人、白虎だ」
「ほほう、あのとらしゃんが」
どうりで強いわけだ。是非とも手合わせしてみたい。
ヒヨコのバトルジャンキーな心が疼いちゃう。
ポンポン吹っ飛ばされている騎士や青髪達を見てオルビスさんが呟く。
「にしても、あの青髪達は異常にしぶといな。耐久力だけなら他の騎士達より優れてるんじゃないか? 普段からボコられ慣れてるのか? ……あ」
オルビスさんの視線が私に向く。
……ぴ?
「つまり、あおがみたち三人があたり強いのはヒヨコのおかげってこと?」
「かなり好意的な解釈をすればそうなるな。ヒヨコのおもちゃ代わりにポンポン吹っ飛ばされてるの、最近は割と同情的に見てたんだが意外と役に立ってたんだな」
「ヒヨコってばいいしごとしてたんだね」
無意識に青髪達を強化してたなんて、ヒヨコってば育成の天才かもしれない。意外な才能だ。
とらしゃんは一通り暴れ終わるとこちらを向いた。
「ふぅ、前に来た時よりも中々骨があるのが増えたな。いいことだ」
白虎がのっしのっしとこちらに向かってくる。おっきな前脚がとってもかわいい。
「お、お前がヒヨコか」
「うん、はじめまして」
「こんな小さいのにきちんと挨拶できるのか、偉いな」
とらしゃんは私の頭を撫でようとしたようだけど、踏みつぶしちゃうと思ったのか上げた手をひっこめた。別に潰れないから撫でてくれても良かったけどね。
「ところでヒヨコ、お前かなり強いよな?」
「うん」
「お、謙遜なしか。それもそうか、元はあの聖女様でデュセルバート様の娘だもんな。一つ手合わせ願いたいんだが、どうだ?」
「もっちろん。ぜんりょくであいてするよ」
「あ、いや、全力だと俺が死ぬ恐れがあるからほどほどに、な」
とらしゃんはそう言って苦笑した。
戦闘狂かと思いきや、意外と冷静な判断ができる人……もとい、虎らしい。





