ひよこ、ダイエットを決意する
「ヒヨコあ~ん」
「あ~ん」
ぱくっと父様の手からチョコレートを食べる。給餌だ。
おいしい。
口の中でとろけるミルクチョコレートを父様の膝の上で楽しむ。とっても幸せ。ここがヒヨコの巣。
チョコが溶け切ると父様が私の口元まで紅茶の入ったカップを持ってきてくれたので、嘴を使って紅茶を飲む。
ん~、おいしっ。
ヒヨコはストレートで紅茶を愉しめるひよこだ。
もぐもぐぴよぴよとおやつタイムを楽しむ私を、魔王がジーッと見つめてくる。
「? まおうなに?」
「ヒヨコ、最近少しばかりお菓子を食べ過ぎではないか?」
「そう?」
確かに、前よりも食べる量が増えたかも?
でも、前に体重が増えたのは成長したからって分かったし。まだ食べてもいいよね?
ぴよっと魔王に向けて首を傾げる。
すると、魔王が近付いてきて私のふわふわほっぺをむにゅっと摘まんだ。同時にお腹もさわさわされる。
「ヒヨコ、人型になってみろ」
「ぴ?」
コテンと先程とは逆側に首を傾げつつ、私は人型になった。なんて素直なひよこなんだと我ながら思う。
ぴよんと人型になると、なんだかちょっとだけ体が重たい気がした。
「む?」
その場でぴよぴよと跳ねてみる。やっぱり、心なしか体が重い気が……。
自分のお腹に手を当ててみる。摘まめた。
自分の顔に手を当ててみる。もちもち。
「……ヒヨコ、ふとった……?」
愕然とした私が魔王を見上げると、痛ましい顔をした魔王がゆっくりと頷いた。
「せいちょうきじゃなくて……?」
「ヒヨコ、現実を受け止めろ」
魔王が目を瞑ってフルフルと首を横に振る。
がーん。
くるりと振り返って父様を見上げる。
「とうさま、ひよこ、ふとった?」
「え~? そんなことないんじゃない? ほ~ら、こんなに軽々持ち上げ――」
グキッ
「あたっ!」
私の脇に手を差し込み、高い高いしようとした父様の腰から変な音がした。
そして腰に手を当て、痛みを堪える父様。
「とうさま……?」
「いてて。いや~、ちょっと記憶よりも重かったから父様の腰がちょっとびっくりしちゃったみたい。大丈夫大丈夫、もう治ったから」
腰をさすりながらそう言う父様。
「きおくより……おもかった……」
ヒヨコしょっく。
「大丈夫大丈夫、ヒヨコはまるっとしててもかわいいよ」
「……ヒヨコ、まるっとしてる……?」
「あ」
父様はやべっという顔になる。
やっぱり父様もヒヨコのこと丸くなったと思ってたんだね。やばい、父様の「大丈夫」はあてにならないよ。
以前よりもモチッとした手で魔王の袖を掴む。
「まおー、ヒヨコ、ダイエットする」
ヒヨコは決意しました。
このままじゃあどこが首でどこが背中なのか分からない饅頭ひよこになっちゃう。
「ヒヨコ、あしたからはおやつたべない……ちょっとしか」
「……」
早速決意が少し揺らいだ私を、魔王が可哀想な子を見る目で見下ろしていた。





