ひよこ、一人ねんねをする
父様が出かけちゃったので、ヒヨコは魔王と仲良くお留守番だ。
魔王は執務机に座り、ペンを握っていない方の手で私をにぎにぎしている。こうすると仕事がはかどるらしい。
「まおーはとうさまについてかなくてよかったの?」
「ああ、ヒヨコ一人で留守番させるわけにはいかないだろう」
「……ひよこ、ひとりでもおるすばんできるよ?」
そう言うと、ちらりと私を見て魔王が薄く笑った。
「そうか? 自分では気付いてないようだがヒヨコは大分甘えん坊だぞ」
「そんなことないよ。ひよこ、ひとりでもおるすばんできる」
「昼間はいいかもしれないが夜は一人で寝られないだろう」
「ねられるよ!」
魔界に来る前は一人で寝てたし。……最近は魔王の枕元で父様に埋もれて寝てるけど。
「ひよこ、きょうはひとりでねる!」
確か、一応ヒヨコ用の部屋がどこかにあったはずだ。今日はそこで寝よう。ヒヨコ姿だったら特にベッドの準備とかもいらないし。でもひよこ用の籠ベッドだけは持っていこう。
魔王は、私の一人で寝るという言葉に片眉をクイッと上げた。
「我はヒヨコがいないと寂しいが、今日は一緒に寝てくれないのか?」
「うっ……うん」
なぜか私は意地になっていた。もう後には引いちゃいけないような気持ちになっていたのだ。
魔王は「そうか」と言って、それ以上強くは引き止めてこなかった。
そして夜。
自分の部屋の前で魔王に寝る前の挨拶をする。
「じゃあまおう、おやすみ!」
「ああ、おやすみ。寂しくなったらいつでも来ていいからな」
「だいじょうぶ! ひよこひとりでねれるもん!」
「そうか」
魔王は私の小さな頭を指先で撫で、部屋のソファーの上に置かれた籠の中に私を置いた。
「じゃあおやすみヒヨコ」
「おやすみなさ~い」
もう一度私の頭を撫で、魔王は部屋を出て行った。
パタンと扉の閉まる音を最後に静寂が襲ってくる。
「……」
なんか、静か。
最近はいつもそばに誰かいたから、こんなに静かなのって久しぶりかも。
心なしかいつもより外は暗いしなんか肌寒い気がする。
話し相手もいないし、さっさと寝ちゃお。
―――ねられない。
体感では一時間くらい経ったけど、全然眠れない。眠気が微塵もやってこない。
いつもならとっくに寝てる時間帯なのに……。
「まお~……」
癖で魔王の名前を呼んじゃったけど、そういえばここに魔王はいないんだった。
「…………ぴぃ」
さびしい。
「うえええええええん! まお~!!!!」
結局、私はぴぃぴぃ泣きながら魔王の部屋へと走った。
魔王が言った通り、私はいつの間にか甘えん坊になってたようだ。
私の悲痛な鳴き声を聞いた魔王は寝てただろうけどすぐに起き、私を出迎えてくれた。
ぴょこんと跳ね、魔王の頬にひしと抱き着く。
「まお~……」
「よしよし、まだヒヨコに一人寝は早かったな」
ゆっくりと魔王が背中を撫でてくれる。それだけで眠気がやって来た。さっきまではあんなに眠れなかったのに。
「ぴぃ……」
「はは、眠そうだな。もう夜も遅い、お眠り」
「ぴ」
あったかい手のひらに包まれると、あっというまに私は眠りについた。
その日は、魔王の首元にべったりとくっついて朝まで眠っていた。





