おつかいをするひよこ
「ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ」
ひよこは賢いので魔王の言いつけは忘れない。ちゃんと鳴きながら廊下を走る。
長い螺旋階段を下りていけば目的のフロアに着いた。
ここを左!
左を向き、ててててっと廊下を走って行くと突き当たりに大きな扉が見えた。きっとここだ。
「ぴぴっ(ごめんくださ~い)」
このふわふわの手でノックしてもなんの音も鳴らないので嘴で二回つつく。すると中から男の人の「は~い」という声がした。
内側から扉が開かれて男の人が顔を出す。
「お? 誰もいねぇ。コンコンダッシュか?」
男の人から私は見えていないようだ。身長差がありすぎるもんね。
「ぴ!」
一鳴きすると男の人が私に気付く。
「お、お前噂のひよこだな。ちっちぇ~」
「ぴ」
男の人がしゃがんでその大きな手を差し出してきたので私はその上にぴょこんと飛び乗った。
短髪の青年の銀髪をかき分けるようにしてこめかみから二本の立派な角が生えている。この人が品のないドラゴンさんか。
「ぴ(しょるいちょうだい)」
両手をドラゴンさんに向けて突き出す。
「おう、ジジイから連絡きてるぜ。一人でおつかいできて偉いな~」
「ぴぴっ」
ドラゴンさんが指で頭を撫でてくれる。がさつかと思えば意外にも繊細な力加減。
「ちょっと待ってろな~」
ドラゴンさんは私を机に置いて山盛りの書類を漁り始める。
少しして何枚かの書類を私に差し出してきた。
「ん? お前が背負ってるこの風呂敷に入れればいいのか? って、これ亜空間式無限収納機能付いてんじゃねぇか。たかだか城内で書類を受け取って来るだけなのにこんな高価なもの持たせんなよな。あのジジイどんだけお前のことかわいがってんだ……」
「ぴ?」
何を言ってるのかよく分からない。もしかしてジジイってゼビスさんのことかな。ゼビスさん全然若そうだけど。外見だけならこのドラゴンさんとそんなに変わらなさそうに見える。実は年取ってるのかな。
「じゃあここに入れとくな――って、これ提出期限まであと一分じゃねぇか! ひよこ、お菓子も出さねぇで悪いがちょっと急ぎ目で陛下に届けてくれるか?」
「ぴ! (わかった!)」
ドラゴンさんには私の言葉は伝わらないので敬礼して答える。
ドラゴンさんに部屋の扉を開けてもらい、手を振って私はまた走り出した。
「ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ」
ドラゴンさんの書類を間に合わせるために私は魔法を使って走る。
階段を駆け上がり、廊下を疾走する。もう道はばっちりだよ。
バキッ!
「ぴ?」
何か変な音はしたけど、私は無事に魔王の執務室に辿り着いた。目の前には目を見開いた魔王とゼビスさん。
……? なんだろう。なんかおかしい気がする……。
魔王がはぁ、と大きく溜息を吐いた。
「ヒヨコ、後ろを向いてみろ」
「ぴ?」
私はくるりと後ろを見た。
「ぴ……(あ……)」
きっと高いであろう魔王の執務室の扉の下の方には、ひよこ型の穴が開いていた。そういえば身体強化をかけたままだった気がする。
「その扉のことは一旦置いておいて、とりあえず書類をくれるか?」
「ぴ……(はい……)」
私は風呂敷を魔王に渡した。
魔王は風呂敷から書類を取り出して確認する。
「うん、確かに受け取った。ありがとうなヒヨコ」
魔王に頭を撫でられる。
「ぴぴ! (えへへ)」
「さて、じゃあ次はお小言の時間だ」
「ぴ……」
それから、私は魔王にきちんと前を向いて歩くこと、無闇に物を壊さないことなどをこんこんと言い聞かされた。
怒られはしなかったけど、魔王の小言はとっても長かった……。
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