ひよこ、太った……?
ある日、父様が私を見て言った。
「あれ? ヒヨコ太った?」
「ぴ?」
なぬ?
父様に言われ、自分の体を見下ろしてみる。
うん、いつもと同じ黄色い毛がふわっと生えてるだけだ。ただ、最初の頃よりもちょっとボリュームがあるような……。
「ちょっと重さを量ってみようか」
そう言うと父様は私をひょいっと摘まんで手にのせ、調理場へと向かった。
「ちょっとお邪魔するよ~」
中には見知った顔の料理人さんが何人かいた。だけど父様は人がいようがいまいが一切気にしない。
父様は調理場の中をズンズン進み、小麦粉の重さなどを測る料理用の計量器の上に私を乗せた。私も空気を読み、数字がブレないように大人しく伏せをする。
なぜか部屋の中にいるみんなが静まり、ゴクリと唾を飲み込む音すら響き渡りそうな静寂の中、父様が口を開いた。
「―――明らかに増えてる……!!」
「がーん……!!」
ヒヨコ、ショックだよ。
***
失意のヒヨコは魔王の元へと走った。
「まおー!!」
ヒヨコ用の通り道をくぐり、執務室の中にいた魔王に飛び付く。そして魔王にひしと抱き着いた。
ヒヨコのショックな気持ちが伝わったのか、魔王が優しく私の背中を撫でてくれる。魔王はいつも優しいけどね。
「どうしたんだ?」
よしよしとヒヨコを撫でながら魔王が優しい声で聞いてくる。
「ひよこ、ひよこ……っ、ふとった~!!」
魔王のシャツに顔を埋めてぴぃぴぃと鳴く。
「ああヒヨコ! 泣かないで……!」
父様が追い付いてきたようだ。
父様もこちょこちょと後頭部を撫でて慰めてくれるけど、ヒヨコが太ったことを指摘してきたのは父様だよ。
ジトリと父様を睨みつけると、父様は大層ショックを受けた顔になった。
「ぴぃ」
「ご、ごめんねヒヨコ! まさかそんなにショックを受けるとは、父様思ってなくて……!」
「むぅ」
まあ確かに最近好きなものは好きなだけ食べてたし、太る心当たりがないでもない。
カッとして頭に血が上っちゃってたけど、よく考えたら父様は気付かせてくれたんだから感謝しないとかも。
「ヒヨコ怒ってる……?」
「おこってないよ」
そう言うと父様の顔がパァッと明るくなる。
そこで、今まで黙っていた魔王が口を開いた。
「これ、太ったんじゃなくて成長したんじゃないか?」
「ぴ?」
「え?」
魔王が私を手のひらの上に乗せる。
「……うん、やっぱりそうだ。骨格から大きくなってるから成長したんだな」
最初はもうちょっと小さかった……と魔王が感慨深げに呟く。
「な~んだ、ヒヨコ太ったんじゃなかったんだ」
「確かに、ヒヨコはまだ子どもだもんね。我はもう何百年も成長期がなかったからすっかり忘れてたよ」
父様には成長期っていう発想がなかったようだ。ヒヨコにもなかったけど。
「毛のボリュームも増えたしな。二人が太ったと思うのも無理はない」
さり気なくフォローを入れる魔王は気遣い屋さんだ。
「とにかくヒヨコ、ひとあんしん」
「よかったな」
「うん!!」
スッキリしたヒヨコは元気良く魔王に返事をする。
ここで安心したヒヨコが爆食いしてほんとに太り、ダイエットをすることになるのはまた別のお話。
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