ひよこ、エステをうける
今日も温室の中でのびのびと暮らす自分のペットを見る。
「うらやましい……」
絶滅危惧種をいいことにすごい好待遇なんだけど。背中の羽もお高いブラシで丁寧に梳かされちゃって。専門家のみんなもデレデレだ。そうしないと弱っちゃう生態っていうのもあるけど。
ペットが気持ちよさそうにブラッシングされてるのを見てたらヒヨコも羽がムズムズしてきた。
「……ぴぃ……」
***
ヒヨコはお城の廊下を激走した。ビュンビュンと風を切り、魔王の執務室へと向かう。
「まお~!! とーさま~!!」
執務室の扉の下部分に作られたヒヨコ専用の出入り口をくぐり、魔王の執務室へと突入する。
すると、二人が同時にこちらを見た。
「ヒヨコどうした」
「どうしたの?」
スッと父様が私を抱き上げる。
「ヒヨコ、ブラッシングしてほしい」
「はは~ん、あの絶滅危惧種の待遇を見て羨ましくなっちゃったんだね?」
「うん」
素直に頷く。
「いいでしょう! 父様がヒヨコをふわっふわのピッカピカにしてあげるよ!」
「おお!」
「魔王! 準備するよ!」
「あ、あぁ……」
魔王は戸惑いつつも立ち上がり、父様の言う通りに準備を始めた。
洗面器の中に温かいお湯がためられ、その周りにはなんだか高そうな瓶が複数置かれている。
そして袖口を捲った父様が腰に手を当てて言った。
「さあ! まずはお風呂からだよ!」
「ぴ!」
ひょいっと私を両手で掬い上げ、心地よい温度のお湯の中に私を入れる。
ふ~、ごくらくごくらく。
魔王は大人しく父様のやることを見守っていた。なぜなら今作業が行われているのは魔王の執務机の上だからだ。ごめんね魔王。
私をお湯に浸からせた父様は羽をまんべんなく濡らすように上からお湯をかけてくれる。もちろん頭にも。
「は~い、もみほぐしますよ~」
「ぴぃ」
父様が指先を巧みに使って頭とか背中を揉みほぐしてくれる。うっとりだ。
「ふぉ~」
「ふっふっふ、ブラッシングじゃ魔王に勝てないから父様も色々練習したんだよ!」
父様はどこに熱意を使ってるんだろ。
全身にお湯が染み渡ると、父様は瓶を一つ手に取った。
中に入ってるのはいい匂いのするシャンプーらしい。
もこもこと泡を立てられ、全身泡だらけになる。真っ白い泡ヒヨコの完成だ。
「ふっ」
「あはは、ヒヨコかわいいねぇ」
泡モコの私を見て二人が笑う。
その後はきれいに泡を流され、ふわふわのタオルでくるまれた。
ヒヨコ、もうねちゃいそう……。
うとうとと船を漕いでいると、父様が魔法でふわりと水気を取る。そして先程とは別の瓶を手に取り、中身を私に吹きかけた。
ふわりといい匂いが漂う。
「羽をさらさらにするスプレーだよ~。はい魔王、ヒヨコのブラッシングしてあげて」
「ああ」
魔王は父様からブラシを受け取り私の羽を梳き始めた。
相変わらずお上手。
とても気持ちがよくて、ついついうたた寝をしてしまった。
次に目を覚ました時、ヒヨコは立派な毛玉になっていた。
黄色く柔らかな毛はふわりと空気を含んでふわりと膨らんでいる。
全身の羽がふわっと膨らんでいるため、全体的にまんまるだ。
鏡を見ると、そこには黄色い毛玉がいた。
びっくり。
「ヒヨコ美人さんになったねぇ」
「ああ、間違いなく美人さんだ」
二人の言葉を受けてもう一度鏡を見る。
……うん、やっぱり毛玉だ。





