ひよこ、ペットを捕まえに行く
てててっと魔王に駆け寄っていく。
「まお~! ヒヨコむしつかまえにいってくる!」
「ああ、ちゃんと行先が言えて偉いな。気を付けて行ってくるんだぞ」
そう言って魔王が麦わら帽子を被せてくる。ヒヨコの頭のサイズにぴったりだ。いつ用意したんだろ……。
そんな魔王を父様が半眼で見る。
「魔王って意外と形から入るタイプだよね。ヒヨコ限定かもしれないけど」
「可愛いだろ」
「うんかわいい」
魔王が顎の下で麦わら帽子についている紐を結んでくれた。
「じゃあいってきます!」
「行ってらっしゃい」
魔王はお仕事があるのでお留守番だ。
いつの間にか魔王が用意していた虫かごとか虫取り網エトセトラを三人が持ってくれたので、私は手ぶらだ。片手で父様と手を繋ぎ歩き出す。
暫く歩くと、目的地の森に到着した。
木々が生い茂っていて道が影になっているので涼しい。
ある程度森の中を歩いたところで父様が青髪から虫取り網を受け取り、私に差し出した。
「はいヒヨコ、好きな虫をとっておいで」
「は~い。とうさまは?」
「父様はここでふよふよ浮いてるから、何かあったら呼んでね~」
そう言って父様はその場で浮き、空中で横になり足を組んだ。完全にくつろぎ体勢だ。
ここから見てるから行っといで~とひらひら手を振られる。
父様……あんまり虫取りに興味ないんだね……。
ふふん、待っててね父様、父様の興味をかき立てられるようなかっこいい虫をヒヨコが採ってくるからね!!
気合を入れ、私はバビュンッと駆け出した。
「あ、ヒヨコ、一応この三人連れてって……って、もう行っちゃったねぇ……」
「―――ん?」
父様の声が聞こえた気がするけど……気のせいかな……? まあいっか。
びゅんびゅんと木々の間を縫って走り、虫を探す。
……おかしい。虫がすぐに逃げる。
視界の端に昆虫らしき影が見えたと思ったらすぐにいなくなってしまうのだ。
バンッと足場にした木から鳥が素早く飛び立ったのを見て気付く。
「あ、もっとしずかにちかづかないといけないのか」
にゃんこみたいにひっそりと獲物に近付かないと……。
私はスッと草陰に隠れた。
気配を消し、ヒヨコのお眼鏡にかなう虫が来るのを待つ。
「―――あ」
そして、どのくらい待ったかは分からないけど、ついによさげな獲物が現れた。
息を潜め、虫取り網を構える。
大丈夫、ヒヨコはできるひよこ。
獲物が近付いて来るのを待ち、私は思いっきり虫取り網を振りかぶった―――。
***
「―――お、ヒヨコお帰り。かっこいい虫は捕まえられた?」
「うん! とうさまみてみて!!」
首から提げた虫かごを父様に差し出す。
青髪達もちょっと興味があったのか、父様の横から虫かごを覗き込む。
「お~、かっこいいの捕まえられたねぇ」
「でしょでしょ!!」
私が捕まえたのは、カブトムシみたいな虫だ。ただし長い角が三本生えており、鳥のような羽が背中から生えている。
こんな虫、人界じゃ見たことない。
父様に褒められて喜んでいると、緑髪がクワッと目を見開いた。
「これ! 絶滅危惧種じゃないですか!!」
「……ぴ?」
なんだって?
緑髪が再び虫かごの中を覗き込む。
「うん、やっぱり間違いない!」
「え、ヒヨコこれにがす?」
「ぇえ!? 確かに、どうすればいいんだろ……。一旦持ち帰って魔王様に指示を仰ぎましょう!!」
それからは目まぐるしい展開だった。
魔王の部屋に帰って話をするや否や、研究者みたいな人が呼ばれた。その人達に虫かごを渡すと颯爽と部屋を出ていってしまった。
「ヒヨコのペット……」
「ヒヨコのペットなのは変わらないが、世話はあやつらがやるとのことだ」
「……」
ヒヨコでも魔王の言葉を額面通りに受け取るのは違うなって思うよ。
どうにも、あの虫はとても管理が難しい虫らしく、ちゃんとした環境を整えないとすぐに死んでしまうらしい。ヒヨコ、そんな知識なかったから逆によかったかもしれない。
飼い主は私ってことになってて、いつでも見に来ていいよってことらしいし。
そんなことだから、早速次の日様子を見に行ってみた。
「……」
すごい……あの虫、ドーム状の広々とした温室に一匹で住んでる。エサもかなりいい蜜をもらってるみたいだし。
ドームの中に小さく見える虫を眺める。
「おまえ、ぜいたくなむしだったんだね……」
この家、ヒヨコハウスより全然広いよ。





