ひよこ、おもちゃをげっとする
ぴよぴよと勝利の舞を踊るひよこ。
そんな私をオルビスさんが掬い取って両手の上に乗せた。オルビスさんの目は、のびている三人を見ているようでどこか遠くを見ている。
私はオルビスさんを見上げて首を傾げた。
「ぴぴ?」
「予想通りというかなんというか、あっさり伸されたな……」
「ひよこ、つよいもん」
「そうだな。だが、よくちゃんと止まれたな。偉いぞ」
「えへへ」
人差し指でうりうりと眉間の辺りを撫でられる。もっと撫でて。
撫でられるのが気持ちよくて黄色いぽさ毛がふわっと膨らむ。
「―――にしてもヒヨコ、事前に聞かなかった俺も悪いんだがあいつらをボコしてどうするんだ? 多少ボコしたくらいじゃ思想は変わらなさそうだが」
「ん~」
確かに、考えてなかった。
自分じゃ気付いてなかったけどヒヨコも頭に血が上ってたのかもしれない。
「……これからおはなしあいする?」
「順序が完全に逆だな」
ハハハッとオルビスさんが笑う。オルビスさんも魔族だから、話し合いよりも強さに重きを置いているんだろう。負けたのが悪いって思考だ。
「じゃああいつらが起きたらお話し合いしような。……いつ起きるかは分からないが……」
再びオルビスさんが三人衆に視線をやった。
う~ん、ヒヨコわりと思いっきり蹴っちゃったからなぁ。起きるのはまだ先かも。
***
「―――ん……」
三人が目を覚ましたのはほぼ同時だった。
青髪が起きそうな気配を感じたのでヒヨコ、目の前で待機する。
「……ん、っいってぇ……ってわあああああああああああああ!!!」
「ぴぴぴぴっ!」
眼前にふよふよと浮いていた私を見た青髪は、仰向けになったまま手足を上手に使い勢いよく後ずさって行った。おもしろい。
イタズラが成功した私はご満悦だ。胸毛も心なしかふわっと膨らんだ気がする。
ぴよぴよと笑う私をオルビスさんが呆れたように見ていた。
「子どもか。……いや子どもだったな。年相応の行動か」
「うんうん」
ヒヨコ、まだ子どもです。
オルビスさんと軽い会話を交わしている間に残りの二人が青髪のところに駆けつけていた。腰を抜かしているらしい青髪に二人が手を差し伸べる。
「大丈夫ですか?」
「ああ……」
その様子を見ていると、心の底から悪い人達ではないんだなと思う。ヒヨコが言うのもなんだけど、話せば分かりそうだ。
ヒヨコが許せなかったのは自分への悪意じゃなくて父様達を傷付けたことだからね。
私は青髪達に向き合った。
「ひよこ、はなしあう」
「は?」
「おまえたち、ひよことはなしあう」
「あ、はい」
多少怯えた様子の青髪達は快く話し合いに応じてくれる。
そしてその後、私達は穏便にお話し合いをした。
―――結果、
「たのもー!!!!」
今日も青髪達がヒヨコに挑みにやって来た。うんうん、やっぱり文句は正々堂々言わなきゃ。
襲い掛かってきた三人を魔法で吹っ飛ばす。
吹っ飛ばされた三人はべしょりと地面に倒れ伏した。
黄色い羽で特に汗もかいていない額を拭う。
「ふぅ、きょうもひよこのかち!」
「ヒヨコに勝てる日なんてこないでしょ。ヒヨコはれっきとした我の子なんだから」
後ろから父様が私を抱き上げた。その顔にはもう憂いの色は見られない。
ヒヨコは青髪達とある約束をしたのだ。もし青髪達が私と正々堂々戦って勝てたら、父様や魔王の前に私は姿を見せないと。その代わり、青髪達が負けたら一回ごとに私においしいスイーツを差し出す。
根が素直らしい青髪達はその条件を飲んだ。そして、戦った後にスイーツを買いにいくのは肉体的に厳しいからと、最近では事前にケーキなどを買ってから来ている。もはや普通に手土産だよね。
「こっちで処理しようと思ってたのに、ヒヨコが自分で解決しちゃったねぇ。さすが我の子」
「ふふふん」
まあ、例え不意打ちされたとしてもヒヨコが青髪達に負けることはないからね。
父様がニコニコと笑ったまま言う。
「それに、ヒヨコも適度に運動に付き合ってくれるおもちゃができてよかったね」
「……」
青髪達をおもちゃと言い切った父様は、やっぱりまだ少し怒っているのかもしれない。
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