ひよこ、ぼこしにいく
ヒヨコの存在が気に食わない人がいるっていうのはまあ、しょうがないかなって思う。ヒヨコは誰も殺さなかったけど元々敵側で聖女やってたし、敵の総大将である聖神が父様の核を使って勝手に生み出したのがヒヨコだし。
ヒヨコの存在に反発するのはまあしょうがない。排除しようとするのも問題ない。まあ抵抗するけど。
問題は、魔王や父様達の顔を曇らせたこと。
ヒヨコのことが大好きな魔王達に抗議文を出すなんて! ヒヨコおこだよ!!
別に正々堂々と文句言いに来てくれたらヒヨコ相手するのに。負けないし父様達からも離れてあげないけど。
―――と、いうことで。
「オルビスさん、こうぎぶんのさしだしにんわかる?」
「ん?」
首を傾げるオルビスさん。
―――ヒヨコに文句があるみたいだから、ヒヨコから出向いてあげることにしよう。
***
「オルビスさんついてこなくても、ひよこつよいしまよわないよ?」
「ヒヨコが強いのも多分目的地に一人で辿り着けるのも分かってる。それでもヒヨコは子どもだから一人で出かけさせるのは心配なんだ。それに、保護者がいた方が後で怒られなさそうだろう?」
「たしかに」
オルビスさんの心配がくすぐったい。当たり前に心配されるってのもいいもんだね。
ぴぴっと飛んでオルビスさんの肩に乗る。
「お? なんだ、甘えてくれんのか?」
「うん、つれてって」
うりうりと固めの頬に頭をすりつける。ふわふわで気持ちいいでしょ。
「あはは、かわいいな」
「ぴぴ」
「……ヒヨコ、もしやりすぎだと思ったら止めるから大人しく止まってくれよな?」
「ぴ……わかった」
オルビスさん、ヒヨコが大人しく話し合いで解決するとは思ってないのかな。まあ、どうせむりだろうけど。話し合いは父様達がとっくにやってそうだ。
もしかして、オルビスさんはヒヨコがやりすぎないように来てくれたのかな?
でもオルビスさんでは強制的にヒヨコを止めることはできないので念を押したのだろう。うん、ちゃんとヒヨコ止まりますよ。
まかせて、と黄色い羽で自分の胸を叩く。
「頼んだぞ。ところで、どうしてひよこの姿になったんだ? 実力行使なら人型の方がやりやすいだろ」
「ひよこのほうが精神的ダメージおおきいかとおもって」
「わあ恐ろしいヒヨコ。肉体的ダメージだけじゃなくて精神的ダメージも与えにいくのか」
「ふふん」
もっと褒めてもいいのよ。
そんな話をしていると、いつの間にか目的地に着いたようだ。
王都からそこそこ離れた街にある屋敷。うん、割と小さめだけどちゃんとお屋敷だ。
抗議文を出したのは、なんと下級貴族の人だった。貴族の中での地位はそんなに高くないけど大分前から貴族に名を連ねているお家らしい。
抗議文は、このお家と仲のいい他の下級貴族の家も連名で出されていた。そんなに数も多くないので、今日は一軒一軒回るつもりだ。
門の前まで来ると、ヒヨコは一息つく。
そして拡声の魔法を使って言った。
『おもてでろやこらぁ!!!』
「おいどこでそんな言葉覚えた」