ひよこもお役に立つんだよ!
どうも、闇堕ちしたひよこです。
闇堕ちしたけど体毛は黄色。
そんな闇堕ちひよこの私だけど、今は喜びにぱさぱさの毛をぶあっと広げている。
私の前には『おこさまらんち』とやらが置かれている。
「ぴぴぴ! (まおう! なんか旗がささってる!)」
「そうだな」
ケチャップライスの上には魔界の旗が刺さっていた。おかずもウインナーなどが食べやすいように小さく切られている。
料理が乗ってるプレートもひよこのイラストが描いてあってかわいい!
「ぴぴ! (まおう、このごはんすごいね!)」
「そうだな。後でシェフ達に礼を言うんだぞ」
「ぴ! (は~い)」
こんなごはん初めて見た。きっとコース料理なんか目じゃないくらい最上級のごはんに違いない。
ふと、魔王のお皿が目に入る。
魔王の前に置かれているのは普通におしゃれで高そうな料理だ。
「ぴぴ? (まおうは『おこさまらんち』じゃないの?)」
「ああ」
魔王だけ『おこさまらんち』じゃないなんて可哀想だ。
「ぴぴ? (まおうわたしの『おこさまらんち』分けてあげようか?)」
「ん? 我はそんな年では……あ、いや、我は自分の分だけで十分だからヒヨコはお子様ランチを堪能するといい」
「ぴ! (わかった!)」
じゃあこれは私が一人で全部食べちゃお。
この手ではナイフやフォークなどの食器は使えないから嘴で直接ソーセージをつつく。
おいしい。
ちょっと詰め込みすぎちゃったからほっぺたがプクッと膨らんじゃった。
魔王は頬を膨らませるひよこが珍しいのか、自分の食事もそこそこにこちらを観察してばかりいる。こんなにおいしいごはんなんだからもっと味わって食べればいいのに。
食後、私はパンパンに膨らんだお腹を上にしてテーブルの上に寝ころんだ。
「けぷっ」
おなかいっぱい。
こんなにおいしいごはんを毎日食べてたらあっという間にまるまると太ったひよこが出来上がっちゃいそう。
……ひよこなら太ってても別にかわいいね。
私と同じように食事を終えた魔王が立ち上がった。
「ぴ? (まおうおしごと?)」
「ああ。ヒヨコはどうする? ついてくるか?」
「ぴ (うん)」
特にやることも思いつかないので魔王について行くことにする。
毎回魔王に運ばせるのも悪いので、私はぴょこんとジャンプして魔王の肩に飛び乗った。肩乗りひよこだ。ここなら邪魔にはならないでしょ。
魔王の真っ黒な毛先がちょこちょこと頭に当たる。手入れが行き届いてるからかさらっさらだ。
魔王の執務室は魔界のトップってだけあって重厚な扉がついている。内装もシンプルだけど高そうな家具ばっかりだし。お金ってあるところにはあるんだね。私は人間だった頃は聖女として清貧な生活を強いられてたから調度品の良し悪しはあんまり分からないけど。
ソファーとかは魔王らしく大体黒で統一されてるし、センスも悪くないんじゃないかと思う。
魔王は私を肩に乗せたまま革張りの椅子に座った。
「ぴぴ? (ぶんちんいる?)」
そう聞くと魔王は「ふっ」と笑った。
「途中で寝ない自信があるなら文鎮として使ってやってもいいのだがな」
「ぴっ (やめとく)」
寝ちゃう自信しかないもん。
「――そうだ、暇ならちょっとしたおつかいに行ってみるか?」
「ぴ?」
「ちょっと書類を受け取ってきて欲しいんだが、できるか?」
「ぴ! (できるよ!)」
書類を受け取るくらいちょちょいのちょいよ!
ゼビスが私の体に書類を入れる用の袋を括り付けてくれた。この体じゃ持てないもんね。
「いいですか? このフロアから二階分下りたら左にずっと歩いて行って突き当たりの部屋です。そこに品のないドラゴンがいるので書類を奪ってきてください。はい、復唱してみてください」
「ぴぴぴぴ(このふろあからにかいぶん下りたら、左にずっとあるいていってつきあたりのへや。ひんのないドラゴンからしょるいをうばう)」
「おいヒヨコに余計なこと教えるな」
魔王がゼビスのことを睨んだ。それから二人で何か言い合いをしている。
……いつ行けばいいのかな。
私ってばもう扉の前に待機して準備万端なんだけど。足踏みまでしちゃうよ。
私の育児方針について議論してた二人は同時にソワソワする私に気付いた。
「あ、すまん。待たせたな」
「ヒヨコにはつまらない話でしたね」
「ぴ (もういっていい?)」
ひよこは待つのが苦手。
「ああ、行っておいで」
「気を付けてくださいね」
「ぴ! (は~い!)」
魔王が執務室の重たそうな扉を開けてくれたので私は廊下に出る。
「ぴ!(いってきます!)」
私は片手を上げた後、廊下を走り出した。