ひよこ、神殿がほしい
「デュセルバート様への贈り物は神殿の方に捧げておきました」
「ああ、ありがとうね」
父様がおじいちゃん達にお礼を言う。格段に偉い立場でもお礼を忘れないのはいいことだよね。
「ところで、なんでしんでん?」
贈り物なら直接渡せばいいのに。
「ああ、ヒヨコはまだ知らなかったね。神殿に捧げられた供物は直接神の力になるんだよ」
「そうなの?」
魔王を見ると、コクリと頷かれた。ほんとのことみたい。
「もらったものは後で回収してありがたく使わせてもらうね」
「はい。こちらこそありがたき幸せです」
おじいちゃん達が恭しく頭を下げる。
「そうだ、丁度いい機会だし一旦神殿に帰ろうかな。魔王とヒヨコも来る?」
「いく!」
「我も行こう」
父様の神殿に行くのは三度目だ。なんか、神聖な空気が漂ってるいい場所だったことは覚えてる。ヒヨコ、あの雰囲気好き。
初めて行った時、なんだか懐かしい気配を感じた気がしたけど、あれは父様の気配だったんだね。
魔王が私の頭を撫でた。
「懐かしいな」
「そうだねぇ。あれからいろいろあったから、ずいぶんまえのことみたい」
実際はそんなに前のことでもないのに。
「ヒヨコ頑張ったな」
「ぴ!」
魔王がしみじみと私を褒めてくれる。魔王に褒められるのは何回でも嬉しい。
嬉しかったから魔王の肩に飛び乗り、ぴぴぴっと頬ずりしておいた。
***
そして私達は父様の神殿にやってきた。
相変わらず神聖で澄んだ空気が漂っている。心なしか息が吸いやすいし、なんか浄化されてる気がする。
駆け回りたいけど自重。
「―――お、思ったよりも供物多いな」
父様への貢物はあまりにも量が多く、もはや祭壇に乗りきっていなかった。祭壇だって決して小さいわけじゃないのに。
「おじいちゃんたちだけじゃなくて、みんなきてくれたんだね」
「そうだね。ありがたいことだよ」
父様はそう言って愛おしそうに供物の山を見詰めた。神様にとって信者の存在ってどういうのなんだろう。ヒヨコ、まだ神様じゃないし信者さんもいないからわかんない。
でも―――
「とうさま、うらやましい」
「え?」
「ひよこもしんでんほしい」
キラキラと大人二人を見上げる。
「ヒヨコにはまだ早いんじゃないか?」
「うんうん、父様も神殿を持つのはもうちょっと大きくなってからの方がいいと思うな」
「むぅ」
魔王と父様の二人に止められ、拗ねた私は頬を膨らませる。
「ひよこ、しんでんほしい」
「だぁ~め。それはもうちょっと神様として成長してからね」
ヒヨコにあまあまの父様が珍しく頑な。びっくりして目がまんまるになった。
「まお~」
私はもう一人の保護者、魔王に泣きつく。
「う~ん、こればかりはデュセルバート様が駄目だと言うなら駄目だな」
いくらかわいいヒヨコのお願いでもそれはな、と魔王。
「ぴぃ~」
ぺしゃんと潰れる。
でも、手に入らないとなるとますますほしくなるのがヒヨコの心理。
―――あ、そうだ、おねだりするから断られるんだよ。自分で用意しちゃえばいいんだ。
魔王城に帰った後、私は二人に自分の神殿を見せた。
「ぴ! これ、ひよこのしんでん」
「これ……」
ヒヨコの用意した神殿に心当たりたっぷりの魔王が目を見開く。そう、私が神殿に選んだのは前に魔王からもらったひよこサイズの家だ。
「これひよこのしんでんにする!」
私は両羽を腰に当てて宣言する。
すると、魔王と父様が同時に口元を手で押さえた。
「か、かわいい。うちの子かわいすぎ! 魔王もそう思わない?」
「思う」
「ねえとうさま、これしんでんにしてもいい?」
首を傾げて父様に聞く。
「神殿ってそういうものじゃないんだけど……まあ、これくらいならいいか。ヒヨコがちゃんとした神様になったらもっと大きな神殿作ろうね」
「うん!」
かくして、ヒヨコは神殿(暫定)を手に入れました。
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