ひよこ、おめかしされる
それから、式典の準備は驚くほどの速さで進められていった。急がないとホットな話題がクールになっちゃうから急いだんだって。
準備は魔王とかゼビスさん達が手配してくれたから、ヒヨコと父様がやらなきゃいけないことはなかった。のほほんと過ごしていただけだ。役に立たなくてごめんね。
そして、周囲だけが慌ただしい日々を過ごしていると、気付けば式典の日になっていた。
その日は準備があるからいつもより早く起こされる。
「ヒヨコ、起きろ」
「ん~、ひよこまだねむい……」
昨日は早く寝たけど、中々寝付けなかったから寝不足なのだ。だっていつもより二時間近く起きるの早いんだよ?
まだ起きたくなくてグズる。
「ひよこ、や~」
いやいやするように枕の上を転がり、父様のお腹の下に潜り込んだ。今は私も父様もひよことニワトリの姿だ。
父様のお腹の下はあったかくて、ますます眠くなっちゃう。
すると、頭上から困ったような声が聞こえてきた。
「ヒヨコ、おねむなのは分かるけど今日だけは頑張れない? 明日からはどんなにお寝坊しても父様達文句言わないから」
「ん~」
父様はもうおめめパッチリみたい。父様のおめかしは私よりも時間がかからないからもうちょっと寝ててもいいはずなんだけど、私に合わせてこの時間に起きてくれたのだ。それなのにグズるのもなんか申し訳なくて、私は重たい体を引きずって父様のお腹の下から這い出た。でもまだおめめは開かない。
「ひよこねむい~」
「よしよし、起きようとして偉いな」
魔王に頭を撫でられる。
「ほら、水を飲め」
「ん~」
冷たい水を数滴飲まされる。ひよこだからね、コップでグビグビは飲めないの。だから魔王がスポイトで冷たいお水を流し込んでくれる。
……うん、お水を飲んだら目が覚めてきた……気がする。
「……ひよこ、みずあびしてくるね」
「風呂に入ってくるのか。……大丈夫か?」
「うん」
心配そうな父親ズを置いてお風呂に向かう。今日はドレスを着るから人の姿だ。
二人とも心配そうだけど、さすがの私もお風呂の中で寝たりはしないよ。
そんなことを考えながらペタペタとお風呂場に向かった。
お風呂から上がる頃にはすっかり目が覚めた。
ぱっちりおめめで部屋に戻ると、そこにはメイドさん達がズラリと並んでいた。すごい圧。
「ヒヨコ様、わたくし達がヒヨコ様をおめかしさせていただきますね」
「必要なものは全て用意してありますのでお隣の部屋に移動いたしましょう」
ひょいっと真ん中にいたメイドさんに持ち上げられる。
「ま、まおー! とうさま?」
ヒヨコが連行されようとしてるのに魔王と父様は完全に見送り体勢だ。せめてどっちかはついて来てほしいのに。
そんな私の思いも空しく、私はたった一人でメイドさん達の中に放り込まれた。
隣の部屋の椅子に座らされると、櫛とかドレスとかを持ったメイドさん達が迫って来る。
「さあヒヨコ様、少しの間我慢してくださいましね?」
「……ぴぃ」
ヒヨコ、着せ替え人形の気持ちが初めて分かったよ。
そして、ようやくおめかしが完了した。
オルビスさんがデザインしてくれた白いドレスを着て、髪の毛もゆるめにまきまきしてもらった。鏡を見てヒヨコも大満足の仕上がり。
完成までどのくらいの時間がかかったかは分からないけど、ヒヨコ的には半日くらいに感じた。
椅子に座って一息ついてると、一人のメイドさんに話し掛けられる。
「陛下方に見せに行きますか?」
「いく!」
準備だけでヘトヘトになっちゃったけどちゃんとメイドさん達にお礼を言い、自分の足で隣の部屋に向かう。
父様と魔王にかわいいかわいい言ってもらお。
そう思ったら気分も上向きになってきた。
魔王の部屋の扉を開ける。
「ふたりとも~、ヒヨコじゅんびできたよ~!」
かわいい靴を動かしてテテテッと中に入って行くと、父様と魔王が同時にこちらを見た。
「「! かわいい!!」」
二人の声が見事にハモる。
父様も魔王も綺麗な服に着替えていて、とってもかっこいい。
「ふたりもとってもかっこいいよ」
「いや、こんなにかわいいヒヨコと並んだら我達なんか霞んじゃうよ。ねえ魔王?」
「ああ、民の目はヒヨコに釘付けだな」
「ぴぴぴぴっ」
ふふふ、嬉しくてついつい喜びの鳴き声が漏れちゃった。今は人型なのに。
その後も十分くらい褒められ、この上なく上機嫌になったヒヨコは、それまでの疲れなんてすっかり忘れちゃった。





