ひよこ、父親達のごきげんをとる
微妙にご機嫌斜めな二人。ヒヨコ、なにも悪いことしてないんだけどな。
ちらりとゼビスさんを見ても助けてくれる気配はない。完全に我関せずだ。
ていうか、魔王がこんなにへそを曲げるのも珍しい。父様に引っ張られてるのかな。父様が復活する前はこんなあからさまに不貞腐れてる魔王見たことなかったし。
にしても、ご機嫌を直すってどうすればいいんだろう。
ヒヨコは腕を組んで首を傾げる。
う~ん、とりあえず立ってるのも疲れたから座ろうかな。
ぴよぴよと赤いソファーの所まで歩いて行くけど、ヒヨコ一人で乗るにはちょっと座面が高い。
「まおーすわらせて~」
近くにいた魔王に助けを求める。すると、魔王は私の脇に手を差し込んで持ち上げ、自分がソファーに座った。
え? なんで? と思う間もなく魔王の膝の上に乗せられる。
「うむ」
急にご機嫌が直ったのか満足そうな声を出す魔王。機嫌直るの早いね。
「あ~! 魔王ずるい! 我もヒヨコ抱っこしたいんですけど!!」
魔王のご機嫌が直ったと思ったら父様の機嫌がさらに悪化した。なんてバランスのとりにくい父親達なんだろう。
「少し待て」
「え~、何秒?」
「せめて分単位で待て」
ぶすっと唇を尖らせた父様は魔王の隣に座った。
「魔王ばっかズルくない?」
ぶつくさ文句を言う父様の視線が机の上のマフィンにぶつかった。
「あ、ヒヨコ、父様がおやつを食べさせてあげるよ」
そう言って父様が私の口の前に包み紙を剥がしたマフィンを運んできた。
「はいあ~ん」
「あ~ん」
口の前においしそうなものを出されたらそりゃあかぶりつくよね。
むぐむぐと噛めば、甘味が口いっぱいに広がる。
「おいし?」
「おいし~!」
父様の手から甘味を堪能していると、いつの間にか父様は満面の笑みになっていた。いつご機嫌が直ったんだろう。
「とうさまいつごきげんなおったの?」
「ん? ヒヨコがいれば父様はいつでもご機嫌だよ。ねぇ魔王?」
「ああ」
魔王がコクリと頷く。
ヒヨコがいるだけで上機嫌なんて、なんてお手軽な父親~ズなんだ。そんな嬉しいこと言われちゃったからヒヨコもご機嫌になっちゃう。
くふくふと笑ってると魔王に頭を撫でられた。
「ヒヨコはかわいいな」
「えへへ」
「ドレス楽しみだねぇ。悔しいけど彼のデザインはとてもヒヨコに似合いそうだったし」
記録媒体でも作ろうか、とデレデレした顔で言う父様。もう立派な親バカだね。
それからほのぼのとみんなでおやつを食べ終えると、それまでずっと無言で仕事をしていたゼビスさんが顔を上げた。そして苦笑いする。
「結局その二人の機嫌を直せるのはヒヨコしかいないんですよね」
「……」
いい話風に言ってるけどさっき助けてくれなかったの忘れてないからね。そんなもっともらしいこと言ってもヒヨコは誤魔化されないよ。
ジトリとした目線を向けてもゼビスさんはどこ吹く風だ。
そしてゼビスさんが魔王に目を向けた。
「さて陛下、そろそろ仕事をしていただきますよ」
「……」
魔王がそっとゼビスさんから目を逸らす。でもきっと逃げられないよね。魔王は真面目だから逃げることはないと思うけど。
「デュセルバート様とヒヨコは散らばってる物を片付けてください。特にデュセルバート様」
そうだよね、この部屋汚したのほとんど父様だもん。ヒヨコはあんまり汚くしてないはずだけど、父様のしたことだからヒヨコも手伝ってあげましょう。お腹も満たされたことだし。
それから、魔王はゼビスさんとお仕事、私と父様はお部屋の御片付けをした。人型だからお片付けもらくらくだったね。
一時間くらいでお片付けが終わり、暇になった私と父様は懐かしのあれをすることにした。
私と父様はそれぞれひよことニワトリになり、魔王とゼビスさんの書類の上端にそれぞれ乗った。そう、文鎮代わりだ。
ここまでくれば、暇をした私と父様が書類の上で寝てしまうことなど、言うまでもないだろう。





