ひよこ、要求する
感動の人化を終えた私は、再び父様の腕の中にいた。
「さて、話を元に戻そう。ヒヨコ、一緒に式典に出ないか?」
父様が聞いてきた。
「いいけど、そのかわりとうさまはヒヨコのまえでも素の話しかたしてね」
「へ?」
ヒヨコ、別に式典に出るの嫌じゃないけど交換条件を出してみる。
だって、父様普通に言っても話し方直してくれなそうなんだもん。父親にずっと取り繕った話し方されるのもなんか寂しいし。
そう思って交換条件を切り出すと、父様は呆けた声を出し、こちらをまじまじと見つめてきた。
「う~む、この際素の話し方と違うのがバレてるのはいいとしよう。だがヒヨコ、素の父様がどんなのでも幻滅しないか?」
「しないよ!」
「本当だな?」
「ほんと!」
父様、意外と疑り深い……。でも、私に幻滅されるのをそれだけ嫌がってるからだと思うと、ちょっと嬉しい。そんだけ愛されてるってことだもんね。
「ん~」
父様がまだ悩んでる。いまいち踏み切れないみたいだ。
「とうさまおねが~い」
父様を見上げつつ、ギュッと抱き着いておねだりする。
すると、父様の顔がデレっと崩れた。
「も~、うちの子は仕方ないな~。この甘えんぼさんめ」
「おお」
一気に口調が崩れた父様にうりうりと頬同士を擦り合わせられる。あまりの変わりようにちょっとびっくりしちゃった。
クール系イケメンさんから優男に変身だ。威厳はゼロになったけど、ヒヨコはこっちの方が好きだな。
魔王達もどこかホッとした顔をしてる。
「ああ、やっぱりデュセルバート様はこっちの方がしっくりくるな」
「そうですね」
「いや~、みんながせっかく黙っててくれたのにごめんね~。娘のおねだりには敵わなかったよ」
あっけらかんと謝る父様。ゆるいね。さっきまでとの温度差がすごすぎてヒヨコ風邪ひいちゃいそう。
父様が私を持ち上げ、目線を合わせてくる。
「父様口調戻したよ? ヒヨコも式典一緒に出てくれる?」
「うん! もちろん!」
断る理由ないもんね。
「それじゃあさっそく式典用のドレスを仕立てよう! 今日はサイズ測ってデザイン決めるよ~」
「あい!」
テンションの高い父様に、私も元気いっぱいに答える。
「よし、じゃあ行こう! 魔王とゼビスもついてきて!」
「ああ」
「はい」
私を抱っこしたままてってけてってけ廊下を走る父様を魔王とゼビスさんが追いかけてくる。
なんか、こういうの楽しいなぁ。父様に揺られたまま追いかけてくる二人を見てるだけでニコニコしちゃう。
そして、父様はある一室に到着した。
その部屋の中に入ると、いろんな衣装が散乱している。衣装選びの途中だったのかな。
「とうさまもいしょうえらぶ?」
「ん? 我はもう決めたよ?」
「デュセルバート様は片付けが苦手なんです」
苦笑いのゼビスさんが教えてくれた。
「まあまあ、それは後で片付けるよ」
あ、片付けられない人の典型的なセリフ言ってる。
さらっと片付けを後回しにした父様は、子ども用のカタログを取り出した。そして部屋の中にあった赤いソファーに寝そべる。
「我はヒヨコのドレス選んでるからゼビスヒヨコのサイズ測って~」
「はいはい」
慣れてるのか、ゼビスさんは特に注意もせずメジャーを手に取った。
「ゼビスさんそれヒヨコにまきまきするの?」
「そうですよ」
「じゃれていい?」
「ダメです。後でにしてください」
にべもなく断られ、手際よくサイズを測られる。
私がメジャーをまきまきされている間、父様と魔王は仲良くカタログを見ていた。そして何やら話し合っている。
「やっぱり我の髪と同じ黒いドレスなんてどうかな」
「子どもに黒いドレスはどうなんだ? もっとかわいらしい色の方がいいだろう。水色なんてどうだ」
「ドレスの型は―――」
「髪飾りは―――」
とっくに採寸は終わってるけど、ヒヨコそっちのけで話はどんどん進んでいく。
まあ、ドレスのことなんて分かんないし勝手に決めてくれるならそれでいいんだけど……。
「え~、魔王センスなくない?」
「貴方だけには言われたくない。貴方の選ぶドレスはヒヨコの魅力を全部殺してる」
「それはこっちのセリフなんですけど~」
バチバチと睨み合う二人。
……やっぱり、こうなるよね……。
喧嘩し始めた二人を横目に、私はゼビスさんが用意してくれたココアをすすった。





