ひよこ、父がやっぱり猫被ってる……?
目を開けると、目の前にニワトリの顔があった。
ヒヨコ、普通に混乱する。
「おはようヒヨコ。よく眠っていたな」
「あ、とうさま」
そうだそうだ、このニワトリは父様だった。ヒヨコってばついにどこかのニワトリに連れ去られちゃったのかと思ったよ。魔王が隣で寝てるんだからそんなこと起こる筈ないのに。
すると、父様がまだ若干寝ぼけてる私を見詰めてくる。
「ふむ、中々かわいい寝ぐせだな」
「でしょ」
ひよこといっても私は元人間、無意識に人間の寝方になって寝返りも打っちゃう。よって、普通に寝ぐせができるのだ。黄色くてふわふわの毛がぽさっとなっている。ボサひよこだ。
「かわいいぞ。どれ、父が毛繕いをしてやろうか? よく分からんが出来る気がする」
「父様無理しないで」
父様ほんとはニワトリじゃないんだから毛繕いのやり方なんて分かんないでしょう。
「ひよこ、まおーになおしてもらう」
「うむ、おいで」
既に起きて準備を済ませていた魔王は、ちびブラシを持って私を待ち構えていた。
テコテコ歩いて行き、魔王に頭を差し出す。
「おねがいします」
「うむ」
すると、極上の力加減でふわふわブラシが頭に当てられる。
起きたばっかなのにまたねむくなっちゃう……。
ヒヨコってば猫じゃないけどゴロゴロ喉が鳴っちゃいそうだ。
うっとりしていると、父様が真顔で近付いて来た。
「なんだ、言っておくがデュセルバート様にもこの役目を渡すつもりはないぞ」
「いや、その役目はいらぬ。いらぬから、我もブラッシングしてくれ」
真面目な顔で父様が言い放った。
父様、もう気分はニワトリなのかな……。
父様の意外なお願いに魔王が少し狼狽える。
「あ、ああ、ヒヨコの後でよければ」
「うん、頼んだぞ」
待てるニワトリの父様はその場でもっちりと座った。急かしもせずに待つようだ。
そして、魔王は私のブラッシングをし終えると父様のブラッシングに取り掛かった。
魔王の極上のブラッシング捌きが父様を襲う。
「あ~、そこそこ、きもち~」
「……デュセルバート様、口調が素に戻ってるぞ」
「はっ!!」
父様がバッとこちらを見た。
ヒヨコ、ばっちり見てますよ。聞いてますよ。
「とうさま、むりしなくていいよ?」
「む、無理などしておらぬ。ほら魔王、続きを頼む」
「はぁ」
魔王は溜息を吐きつつ、父様のブラッシングをしてあげてた。
「ヒヨコ、ついてる」
「あ、まおーありがとう」
魔王が私のほっぺについたケチャップを拭いてくれる。ちなみに、今日の朝食はオムライス。むしゃむしゃオムライスを食べてると、父様がギョッとして二度見してきた。
ヒヨコは本物のひよこじゃないんだから共食いじゃないのに。
ヒヨコ、オムライス大好き。
父様はなぜか気が引けたのか、「我は卵料理はいい……」と避けてた、その代わりに照り焼きチキンサンドを料理長に頼んでたけど。
あんまりにもスムーズに注文するもんだからこれには魔王がギョッとしてた。
「―――ヒヨコ、おはようございます」
「ゼビスさんおはよ~。ここ来るのめずらしいね」
「デュセルバート様に用がありましたので」
食堂で朝ご飯を食べていると、ゼビスさんがやってきた。ゼビスさんがここまで来るなんて珍しい。
「デュセルバート様、民を安心させるために一度大々的に姿を見せてほしいのですが……」
「うむ、いいぞ。この姿でいいか?」
父様が白い翼を広げる。
……意外とニワトリの姿気に入ったんだね。
「いいわけないでしょう。近々デュセルバート様復活の式典を開きますが、その時は必ず人型をとってもらいます」
「まあいいだろう。仕方がないな」
父様は渋々そう答え、サンドイッチの最後の一口を食べた。
「それでは、今から衣装の採寸とデザインを選んでもらいますよ」
「え」
父様はゼビスさんにガシッと掴まれ、連れ去られていった。
そしてゼビスさんと父様が部屋を出て、食堂の扉が閉まる直前―――
「え~、我もっと娘といたいんですけど~。ゼビスは相変わらず鬼だな~」
かなり気の抜けた声が聞こえてきたのは、気のせいかな……?





