ひよこ、みんなで仲良くおねんねする
「ぴ! ぴぴ!!」
「ははは、楽しそうだな我が子よ」
「うん! たのしい!!」
私は今、ニワトリになった父様の背中に乗っている。父様が歩くたびに揺れるんだけど、たったそれだけのことなのに楽しい。
父様の羽毛はふわふわだし。
ヒヨコ、ちょ~ごきげん!!
親に肩車とかおんぶされてる子を見る度に羨ましいな~と思ってたけど、今その夢が叶った気がする。……見た目は全然違うけど。
「……癒されるな……」
私達を見て魔王がボソリと呟く。魔王、動物好きだもんね。
この姿の父様となら喧嘩する気はなさそうだ。父様がずっとニワトリ姿なら仲良くできるかな……?
私を乗せた父様がテコテコと歩き、魔王のベッドの下まで到着した。
「ヒヨコ、ちゃんと父に掴まっていろよ」
「は~い」
べったりと父様の背中にしがみつく。すると、父様は真っ白い羽を広げ、その場で飛び上がった。
「ぴぃ!?」
「よっと」
父様はなんなくベッドの上に着地する。
なにこれ楽しい。もう一回やってくれないかな。
「デュセルバート様、ヒヨコを興奮させないでくれ。もう寝る時間なのだから、寝付けなくなると困る」
「む、それは困るな。子どもの睡眠は何よりも大切だというのに」
素直に反省する父様。
「ぐ……」
ぬいぐるみみたいな父様に魔王は強く出られないみたい。しょんぼりする父様を見てちょっと良心が痛んだような顔をしている。
「いや、その、なんだ、責めたわけではない」
「うむ、我は悪くないからな」
けろっと顔を上げて開き直る父様。
魔王ちょろちょろだね。
「む」
「まあまあ魔王、そうすぐにムッとするな。イライラしているといい睡眠はとれないぞ」
魔王をイライラさせたのは父様なのに……。
無意識に魔王を煽りまくる父様は、我が物顔でベッドの上を歩いていく。そして魔王の枕の上に足を畳んで座り込んだ。
「ふむ、中々の寝心地」
「そりゃまおーのまくらだもん」
高級品に決まってる。
「ここはいい寝床だ。ヒヨコもおいで」
「おい、それは我の枕だ。貴方とヒヨコの寝床は別にある」
「まあまあ、固いことを言うな」
それは父様が言うセリフじゃないんじゃないかな?
私が立ち尽くしていると、父様がテコテコと寄ってきた。そして両羽で私を抱きかかえ、魔王の枕に戻っていく。
ひよこを抱きかかえるニワトリなんて、傍から見たら中々奇妙な光景だろう。魔王もガン見してた。
のんびり見てないで今のうちに枕取り返しちゃえばいいのに。
案の定、父様は再び魔王の枕の上に戻っていった。そしてぽすんと私を降ろす。
最高級の枕は衝撃を最低限に抑え、ふわりと私を包み込んでくれた。
「おお……」
すごい。たかいまくらすごい。
どうりで父様がどかないわけだ。ついつい体がくつろぎ体勢に入っちゃう。
そんな私を見て父様がうんうんと頷く。
「うんうん、ヒヨコも気に入ったようだな」
そう言うと、父様は私の上にのしっと乗ってきた。父様の腹毛に埋もれる形になるけど、全然重たくない。むしろぬくぬくで快適だ。
「ほれ、せっかく真ん中を空けてやったのだから魔王も寝転がれ」
そうそう、父様も一応気を遣ったのか端の方に私を下ろしたのだ。
枕は大きいし、魔王が真ん中に頭を置いても十分なスペースがある。
「……」
若干納得していなさそうな顔をしつつも、魔王は枕に頭をのせて寝転んだ。
私も父様のふわふわ腹毛からぴょっこり顔を出す。
「……かわいいな」
「ぴぴっ」
魔王にうりうりと頭を撫でられる。
ごくらくごくらく。
少し寂しそうな顔をした父様が私を見下ろす。
「ヒヨコが卵だった頃に目覚められていればこうして温めてやれたのかもしれないな……」
「とうさま、しんみりしてるとこわるいけど、ひよこ卵の時代ないよ」
「……」
黙る父様。
ヒヨコはなんてったって人間からひよこに進化を遂げた神様見習いだからね!
「―――まあ細かいことは気にするな。よい子はもう寝る時間だぞ」
「ぴっ」
もふんと父様の腹毛に全身埋もれる。
「魔王、お前も我のふわ毛に触ってもいいぞ」
「……では遠慮なく」
もふん、と魔王が父様の胸毛に顔を埋めた。
急にきたからびっくりしたのか、父様の体がビクリとする。
「……魔王、お前ほんとうに動物が好きなのだな」
「ああ」
そう答えた魔王の声音は、どこか満足そうな響きを帯びていた。
「あれだけ嫌がっていたのに、調子のいい奴め」
しばらくすると、父様の胸毛に顔を埋めたままの魔王から規則正しい寝息が聞こえてきた。
ヒヨコよりも先に魔王が寝ちゃうなんて! 父様の胸毛おそろしい!!
珍しい魔王の寝息を聞いてたらヒヨコも眠くなってきちゃった……。
そして私も、あっという間にすぴょすぴょと寝息を立て始める。
ヒヨコが寝た後、一人と一匹にくっつかれたニワトリがポツリと呟く。
「我の子は一人のはずなのだがな……。まあ、魔族も我の子どものようなものか……」
そして、ニワトリの姿をした神も満足そうに瞳を閉じた―――。





