ひよこ、父がニワトリになる
気絶しちゃったシュヴァルツは速やかに運ばれていった。
ゆっくり休んでね。
「にしても、一々説明して驚かれるのは面倒だな」
「説明しているのは貴方じゃなくて我だが……」
「おいゼビス、ヒヨコが我の子であるということを周知しておけ」
「承知しました」
魔王の呟きを無視して父様はゼビスさんに指示を出す。そして行動の早いゼビスさんは早速人を遣わせていた。
魔王がピクリと頬を引きつらせる。
「おい―――」
「魔王」
魔王が何か言おうとした(たぶん文句)のを父様が遮った。
「我は我が子の名前が『ヒヨコ』なのをまだ納得しておらぬ」
「……」
魔王は何かを言おうと開いた口をゆっくりと閉じた。『ヒヨコ』になっちゃったのは魔王のうっかりミスだもんね。
父様は根に持ってるし、魔王は私の名前がヒヨコになったことに引け目を感じているようだ。
大人しく引き下がった魔王を見て父様は満足そうに息を吐いた。
「うむ。ところでヒヨコ、ヒヨコはいつもどこで寝ているんだ?」
「ん~? まおーの枕元とか、かごとか、まおーがくれたおうちとか」
「ほう、魔王にべったりだな」
「ふふん、まおーとひよこはなかよしさんだからね!」
父様に向けて胸を張る。
でも、なんでそんなこと聞いてきたんだろう。
「なんでそんなこときくの?」
「ん? 我も今日からヒヨコと一緒に寝るからな」
「なっ!」
誰よりも先に反応をしたのは魔王だった。
「断る。却下だ」
「なぜ子と添い寝するのにお前の許可がいるのだ」
「我の癒やしの時間を邪魔しようとしているからだ」
バチバチと睨み合う二人。
仲良くしてって言ったのに……。
これが犬猿の仲ってやつなのかもしれない。
「はぁ、仕方ない。ヒヨコと二人でねんねは諦めよう」
「ねんね……?」
父様の口からあまり似つかわしくない言葉が出たけど、みんなはスルーしてる。
ヒヨコがおかしいの……?
「我もヒヨコと一緒にお前の寝床に邪魔をする」
「はぁ!? 断固断る!!」
珍しく魔王が声を荒げた。
そんなに父様との添い寝が嫌か。ヒヨコは割と嬉しいけど。憧れの川の字ができるかもしれないし。
魔王にわくわくとした顔を向ける。
「うっ……ヒヨコ、そんな顔をしても駄目だ。我にも譲れないことがある」
「え~」
ヒヨコのおねだりに魔王が折れないなんて……!
ちょっとびっくり。
「まあまあ魔王、我とて人の姿でお前と添い寝する気はない。誰がそんな気色悪いことするか」
「じゃあどうするのだ」
「こうする」
言い終わるやいなや、父様の姿が変わった。
「ふふん、これでどうだ」
ぽこんと音を立てて父様が変化したのは、ニワトリだった。
「わぁ! とうさまかわいい!!」
「ふふん、そうであろうそうであろう」
白くてもさっとした胸を張る父様。
ニワトリだけど、なんだかぬいぐるみみたいだ。あんまりリアリティがない。
「とうさま、へんげしっぱい?」
「そんなわけなかろう。あまりリアルなニワトリに変化するとかわいくないからあえてぬいぐるみクオリティなんだ」
「ほうほう」
ドヤ顔の父様がその場でクルリと回る。
「我はこの姿でヒヨコと添い寝することにするから安心しろ」
「……それならそうと最初に言え」
魔王的にこの父様はセーフらしい。動物好きだもんね。
うずうず
うずうず
「ヒヨコ、我慢しなくていいから父様の胸に飛び込んできなさい」
「わーい!!」
ヒヨコはもこんと父様の胸に飛び込んだ。
うわぁ、ふわふわ!!
父様の胸毛にスリスリする。
「一気に微笑ましい光景になりましたねぇ。陛下もこれならイライラしないんじゃないですか?」
「ああ」
ゼビスさんの言葉に魔王が首肯する。
そこで、父様がサラリと重大発言を落とした。
「まあ、ヒヨコと添い寝するのは我が寝たいだけじゃなくて必要なことだからなのだがな。あの女が育児放棄をしたおかげでヒヨコは神として不安定な状態だから、なるべくくっついて神力を譲渡しておきたいのだ」
そう言って父様がピッタリとくっついてくる。
あ、確かに言われてみれば父様から力の源みたいなのが流れ込んでくる感じがする。
魔王に教えてあげようと思って顔を上げたら、魔王がプルプルと振動してた。完全に怒ってるね。
「―――っだから、そういうことは先に言え!」
「……コケッ?」
ニワトリの真似をして逃れようとした父様は、この後魔王にこってり絞られてた。





