ひよこ、二人の父親ができる
美形さんはふわりと着地し、こちらに向かって歩いてきた。
長身の魔王と同じくらい背が高い。
美形さんは腰をかがめて魔王の手のひらの上にいる私と目を合わせた。
「初めましてヒヨコ、我は魔界の神、デュセルバートだ。そして、お前の元となった片方の神でもある」
「ひよこです」
「ああ、知っているぞ。姿は現せられなかったが、視ていたからな。我のことは父様と呼ぶがいい」
「と―――」
父様、と呼ぼうとした瞬間、魔王に嘴を塞がれた。
デュセルバート様がジトリと魔王を睨み付ける。
「おい魔王、なぜ邪魔をする」
「……」
「目を逸らしても分かるぞ。お前、我が子の父親ポジションを我に奪われるのが嫌なのであろう」
「……」
「無言は肯定ととるぞ」
睨み合う二人。……正確には一人と一柱だけど。
「デュセルバート様、貴方のことは敬っているが、ポッと出でいきなり父と呼ばせるのはどうかと思う。……父と呼ぶべきは我であろう……」
「お前が我が子に父と呼ばれたいだけであろう」
「……何が悪い」
おお……ヒヨコを取り合ってイケメン二人が争ってる……父親枠だけど。
母親枠は永久欠番だからどっちかが母親枠に納まればいいのに。どっちも嫌がるだろうけど。
「―――あ! ひよこもう母親いないから、父親ふたりでもいいよ!!」
そう言うと、魔王と邪神はぱちくりと顔を見合わせた後、こちらを見た。
「まおーはパパ、デュセルバートさまはとうさまね! ひよこ、ふたりもおとうさんできて嬉しい!」
うんうん、母親はいないんだから父親が二人いてもいいだろう。
二人が再び顔を見合わせる。
「……まあ、仕方がないか」
「そうだな、我が子を困らせるのは本意ではない」
どうやら、二人は私の提案を飲んでくれるようだ。
すると、父様が次の火種を投下する。
「―――これからは我も一緒に魔王城で暮らすからな」
「は?」
魔王が珍しく呆けた顔をする。
「今までは神殿にいたのに、どういう風の吹き回しだ?」
「ハッ、我が子と暮らすのは当然であろう」
父様に鼻で笑われたことに魔王は少しイラっとしたようだ。ピクリと眉が動く。
「なんだ? 何か文句でも?」
「いえ……」
「言っておくが、ヒヨコから一番遠い部屋をあてがおうなどと思うなよ」
「……承知した」
ちょっと思ってたね。魔王が翻弄されるなんて珍しい。ちょっと面白いね。
「では魔王城に向かおう。民に顔を見せてやってくれ」
「うむ、それはもちろんだ。皆には長年心配をかけたからな」
そして父様はヒョイっと魔王から私を取り上げた。
「……」
「なんだ魔王。やっと会えたのだ、我にもヒヨコを抱かせろ」
そう言われてしまえば魔王は何も言い返せないようだった。
そういえば、前にこの神殿に来た時に懐かしい気配を感じた気がしたけど、それは邪神が片親だったからなんだね。
「……ん? ねぇとうさま。じゃあひよこはもともとにんげんじゃなかったの?」
「そうだ。あの女が自分の後を継がせるために生み出したのがヒヨコだからな。ただ、まだ未熟だから完全なる神というわけではないな。見習い神といったところか」
「そうなんだ」
ヒヨコってば人間から魔族になって、さらに見習い神様になっちゃった。まあ、私がそう思ってただけで本当は最初っから見習い神様だったんだけど。
「さて、そろそろ城に飛ぼうか」
「ああ」
そして私達は転移し、神殿を後にした。





