ひよこ、目的地にたどり着く
以前と同じように目隠しをされて地下に連れて行かれる。うんうん、影の中に気配はあるから三つ子はちゃんとついてこられてるみたいだ。
たまにガラガラと物が動く音がしたり、角を曲がる回数も多いから隠し通路とかを通ってるんだろう。
教皇の小脇に抱えられたまま約十分、目的地に到着したのか目隠しが外された。
パラリと視界が開けると、見覚えのある光景が広がっていた。壁も床も真っ白の部屋で、その部屋の前面に祭壇が設置されている。
昔はどこか神聖な場所だなって思ってたけど、色々知った今はただの部屋だとしか思わない。
そして、祭壇の下にはやっぱり棺桶みたいな箱があった。白地に金色の縁取りがされているからあんまり棺桶っぽくはないけど、形は棺桶そのものだ。
中に入ってるものはなんとなく想像できる気がするけど、あんまり当たっててほしくもない。
教皇が祭壇の前に跪いた。
「神よ、新たな聖女をお認めください」
教皇がそう言うと、祭壇がパァっと光り出した。
眩しさに目を細める。前はこんなことなかったのに……。
すると、次の瞬間祭壇の上に女性が現れた。
金髪碧眼で真っ白いワンピースを着た、この世のものとは思えないほど整った顔立ちの女性だ。
だけど、その目は生気がなく酷く濁っている。
その女性が宙に浮いていることを見るまでもなく、直感で分かった。
―――これが、聖神だ。
意外とあっさり現れたなぁ。なんか拍子抜け。
風も吹いていないのに聖神の腰まである金髪はさらさらと揺れている。
なんだろう、不思議と神々しさを感じない。むしろなんかどんよりとした雰囲気を感じる。教皇は気付いてないみたいで精一杯拝んでるけど。
そしてふと、聖神の視線がこちらに向いた。
「……あら、あなたまた来たの」
「また?」
教皇が疑問に思ったのか聖神の言葉を繰り返した。
―――やっぱり、曲がりなりにも神様は誤魔化せないよねぇ。
聖神には私が元聖女だってバレてるみたいだ。
「随分と魔界の匂いに染まっちゃったわねぇ。なに? 彼の核でも取り戻しにきた?」
口角を片方だけ上げて荒んだような笑みを浮かべる聖神。
とても神様がする表情だとは思えないね。
目的はまるっと察されちゃってるみたいだけど、戦闘になるかな?
三つ子もそう思ったらしく、影の中がざわつきだす。みんな準備万端だね。
でも、相手が神様だろうが、ヒヨコも負ける気はないよ。
しかし、戦闘態勢に入った私を見て聖神はやれやれといったように溜め息を吐いた。
「はぁ、ついにこの日が来ちゃったのね。わたし、勝てない戦いはしない主義なの」
「?」
何言ってるんだろう。
「あなたに倒されるまでもなく、悲願が達成されなかった時点でわたしの負けだったということよ」
悲願って、恋した人間を生き返らせることかな。それとも、人間になることかな。まるっとひっくるめて全部かもね。
すべてを諦めたような顔をした聖神だけど、何かを思いついたのか不意にニヤリと笑った。
「でも、ただ諦めて負けてあげるのもちょっと癪よね。……ねぇあなた、親はいる?」
「……いないけど」
孤児だし。根っからの孤児院育ちだし。
もう吹っ切れてることだけど、デリケートな部分に触れられて苛立つ。
「ふふ、そうよね」
「……なにがいいたいの」
すると、弧を描いた口がゆっくりと開き、言った。
「だって、あなたの母はわたしだもの」
「……………………ぴ?」
なんだって?





