ひよこ、出立する
その後、ヒヨコサポートメンバーもすぐに決まり、早速次の日に人界の神殿に向かうことになった。
夜、ひよこの姿に戻った後寝床に向かおうとしたら魔王にヒョイっと摘ままれ、魔王のベッドの枕元に置かれた。
これはあれだね? 心配されてるね?
魔王は無言で私の頭を撫でるばかりだ。
「まおー、しんぱいしないで。ひよこ、ちょちょっといってすぐにかえってくるから」
「……我も行く」
「まおーがいくのはダメでしょ。ちゃんとおるすばんしてて」
おお、これじゃあ私の方が親みたいだ。
よちよちと魔王の頭を撫でてみる。
「ひよこはあしたにそなえてはやくねます。まおーもはやくねるんだよ」
「……分かった。ヒヨコの睡眠を邪魔するのは我としても本意ではないからな」
「うんうん」
私は魔王の枕元に置かれた籠の中に入る。そして敷き詰められた綿の上に仰向けになって寝転がった。
「相変わらずひよこにあるまじき寝方だな」
ふわふわのお腹を人差し指でウリウリされる。
元々は人間だからやっぱり寝っ転がって寝たくなっちゃうんだよね。周囲を警戒しないといけないわけでもないし。
魔王の撫で方が私を寝かせる方にシフトする。もはや熟練の技だね。
ふわふわと撫でられていると、すぐに眠気がやってきた。
「ぴ~ (おやすみ~)」
「ふ、ひよこ語に戻ってるぞ」
微かに魔王が笑う気配を感じた直後、私は意識を手放した。
***
翌日、早めに寝た甲斐あってパッチリ目が覚めた。
「おはよ~」
「ああおはよう。元気そうだな」
「うん! ぜっこーちょー!」
なんでもできちゃいそう!
むんむんと両手を動かす。
「元気そうで何よりだが、余計な体力は使わない方がいい。疲れちゃうだろ」
「は~い!」
元気よく片手を上げてお返事をする。
すると、魔王はそうじゃない、って顔をして私を両手ですくい上げた。
「ぴ?」
見上げると、魔王が苦悶の表情をしていた。
「かわいい子には旅をさせろと言うが、本当にかわいかったら一人で旅などさせぬと我は思う」
「きゅうだね」
フェニックスのところに一人で行ったり、シュヴァルツは一緒だけどお散歩とか行ってるのに。だけど、それはちょっと違うらしい。魔界内ならまだ自分の領地だからすぐに行けるし、私に危害を加える人もそうそういないけど、一応人界は敵地だ。なんなら向こうの神様が直接の敵だしね。
うん、逆の立場だったら私も心配でしょうがないかも。
仕方ないから今は大人しく抱っこされててあげよう。
掌の中でぐでんと脱力した私を、魔王は人が呼びに来るまでひたすら撫でていた。
そして朝食後、団長さんが私と一緒に人国に行く人を連れて来た。
団長さんの後ろに並んでいる三人は、私もよく見覚えのある三つ子だ。ニックさんディックさん、そしてリックさん。
「この三人ならヒヨコとも面識があるし、なにより三つ子だけあって連携は抜群だからな」
「いい人選だ」
汚れた私の口周りを拭きながら魔王がうむと頷く。
魔王の父性溢れる姿を初めて見た三つ子は目をガン開きにして驚いていた。そりゃあこの一見冷酷無比な魔王がひよこのお世話をしてるなんて、話には聞いてたとしても想像できないよね。
三つ子の気持ちはよく分かるけど、あんまりにも三人で同じような顔をしてるから、つい「ぴぴぴ」っと笑ってしまった。
魔王の手前、いつものように軽口を叩かれることはないけどバレないようにちょっと睨まれる。ごめんね。
「ひよこはもうじゅんびばんたんだけど、さんにんはじゅんびできてる?」
「おう」
「できてるぜ~」
「いつでも行けるぞ」
口々に三人が答える。
「おお! いつでもいけるならさっそく今からいこ~!!」
「「「へ?」」」
ヒヨコってば夜はきちんと自分の寝床で寝たい派だから、ちゃちゃっと行って夜には帰ってきたいんだよね。
「じゃあまおー、だんちょうさん、いってきます!!」
二人に向かってふわふわの腕を振る。
「―――ちょっ、まっ―――!」
『転移』
私は三つ子と一緒に、早速人界に向かって転移した。
ニックさんが何か言おうとしてた気がするけど、それは向こうに着いてから聞こう。
あ、シュヴァルツに行ってきます言うの忘れちゃったな。まあ帰ってから「いってきます」と「ただいま」を纏めて言えばいっか。
***
「―――陛下、ヒヨコが転移を使うのは想定しておられましたか?」
「いや、正直想定外だった」





