ひよこ、ついにバレる
「―――ぴ?」
「流石の私でもそんなんじゃ誤魔化されませんよ」
ただのひよこのフリをしてみたけどダメだったみたい。
「……」
「……」
ヒヨコは無言で頭を下げました。
「なんで隠してたんですか?」
「シュヴァルツのゆめをこわしちゃいけないとおもって」
「ああ、気を遣ってくれた結果なんですね」
納得したような口ぶりだけど、シュヴァルツは理想が打ち砕かれたショックを隠しきれていなかった。
「なんか……ごめんね?」
「いえ、ヒヨコはかわいいですよ……」
清廉潔白でもなんでもないただのひよこでごめん。
ショックでフラフラとし始めたシュヴァルツをオルビスさんがそっとソファーに座らせた。
「……まあこれは誰も悪くないよな」
オルビスが呟いた。
「―――じゃあ俺は早速密偵を選出してきますね」
微妙な空気の場から逃げ出したかったのか、団長さんが言った。するとお前だけ逃がさねぇよと言うようにゼビスさんとオルビスさんが団長さんを睨み付ける。醜い争いだ。
密偵って忍び込むのが得意な人とかがいるのかな……? あ、良いこと思いついた。
「ねえねえまおー」
「なんだ?」
「ひよこがみっていしよっか?」
「ん?」
魔王が首を傾げる。
言ってることが理解できないんじゃなくて、何言ってんだコイツみたいな感じだ。失礼な。
「だって、まぞくのみんなはしんでんに入ったことないでしょ? ひよこ、しんでんないぶはくわしいよ?」
なにせ元聖女なので。一般人が入れない所まで知ってるよ。
「それは……確かに一利あるが、ひよこが神殿内を歩いてたら不審がられるんじゃないか?」
「ふふん」
魔王が言い終わるや否や、私は魔法を使った。
「!」
魔王が息をのむ。
「これならどうよ!」
うんうん、変化は上手くいったようだ。
手足の指は五本ずつあるし、目線も高くなっている。
「ヒヨコ……どうして……」
ゼビスさんが呟いた。
うんうん、私が人型になれなくて一番手を焼いてたのはゼビスさんだもんね。
「これはまほうで化けてるだけ」
「ああ、なるほど、確かにその手がありますね」
そう、これは魔族としての私の姿が人型になったんじゃなくて、魔法でただ人間に化けているだけだ。それでも精神年齢の影響か、子どもになっちゃったけど。
あと、髪の毛がひよこらしい真っ黄色になってた。
まあ、孤児院も併設してるから神殿に子どもがいるのはよくあることだし、こっちの方が警戒されなくていいかもしれない。
そんなことを考えていると、いつの間にかシュヴァルツがすぐ近くに来ていて、私のことをガン見していた。
「ど、どうしたの……?」
「聖女様……」
両手を組んで祈るように頭を下げるシュヴァルツ。無意識に自分の顔を思い浮かべたから、人間の時の顔にそっくりになっちゃったみたいだ。
そして、刺さってくる視線がもう一つ。
「まおー?」
「……おいで」
ちょいちょいっと手招きされたので、魔王のところへ行く。すると、問答無用で膝の上に抱き上げられた。
「かわいい」
「ふふん」
よしよしと頭を撫でられる。
魔王は子どもも好きなのかもしれない。最初の頃なら意外に思ったかもしれないけど、今となっては意外でもなんでもないよね。
「陛下、ヒヨコに行かせるんですか?」
オルビスさんが魔王に問いかける。
「……まあ仕方がないな。止めても勝手に行きそうだし、それなら誰かサポートできる者と一緒に行かせたほうがいいだろう。それに、この子を止めるには骨が折れる」
「うんうん」
ヒヨコってば結構強いからね。
「では、ヒヨコのサポートができる面々を用意します。ヒヨコ、一人で勝手に行くのはなしだぞ?」
「はーい!」
そう言うと、団長さんは早々に部屋を出て行った。
残ったのはひたすら私をかわいがる魔王、ひたすら祈りを捧げるシュヴァルツ、そして部屋を出ていくタイミングを逃した祖父と孫だ。
二人が上手いこと出て行った団長さんにボソリと毒づいてたのは、聞かなかったことにした。





