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ひよこ、拍子抜けする




「どうしたんだヒヨコ!?」


 魔王が駆け寄って来る。いつもと違って私がぐったりしてるからだろう。

 さすがのヒヨコも今回は疲れ切ったため、シュヴァルツに抱っこされて帰ってきたのだ。お散歩の後はいつもそれなりに疲れてるけど、ここまでぐったりすることはないからビックリしちゃったんだろう。

 魔王がどういうことだって視線をシュヴァルツに向けるけど、私から口止めされているシュヴァルツが勝手に話すことはない。

 シュヴァルツが無言で魔王に私を受け渡した。


「どうしてこんなに疲れ切ってるんだ?」

「まだ、ないしょ!」

「誰かに襲撃されたとかではないのだな?」

「うん。それはないよ」


 ただの襲撃だったらこんなに疲れない。


「ねぇねぇまおー、ゼビスさんとオルビスさん、あしたおじかん(時間)ない?」

「急だな。二人に用事か?」

「うん」

「昼休憩とか、仕事終わりなら付き合ってくれると思うぞ。短時間で済むことか?」

「うん、たんじかんっちゃたんじかん」


 あとは見せるだけだもん。


「じゃあ今日のうちに二人に言っておけ。無理と言われても泣くんじゃないぞ?」

「わかった!」


 ヒヨコ、そんなんじゃ泣かないし。





 そして次の日の昼休憩。

 オルビスさんとゼビスさんは顔を合わせて早々に睨み合っている。


「こいつがいるなんて聞いてないんですが」

「あ? 俺だってジジイがいるなんて知らなかったわ」

「うん、ひよこいってない」

「じゃあ仕方ないですね」

「……ジジイ、ヒヨコに甘すぎんだろ……」


 うん。ヒヨコも何が仕方ないのか分かんなかったよ。

 お互いがいることを事前に伝えたら来てくれないかもと思って、あえて言ってなかったんだよね。でもその判断は正解だったみたい。さすがヒヨコ。


「じゃあいくよ~!」


 一晩ぐっすり寝たヒヨコは完全復活したので一人で歩ける。なのに、ヒョイっとシュヴァルツの手のひらに乗せられてしまった。


「ぴ?」

「ひよこの歩きだと二人の休憩時間が終わってしまうので、今日は私が運びます」

「ありがと~」


 いつもは本当にお散歩も兼ねてるから、魔法も使わずぴよぴよ歩いて目的地に向かってるのでそこそこ時間がかかってる。たしかにいつもと同じように歩いて行ったら二人のお昼休憩が終わっちゃうね。


「じゃあお二人とも私の後について来て下さい」

「……」

「……」


 ちょっと不満そうだけど、二人は無言でシュヴァルツについて来た。






「ここは……」


 ゼビスさんが呟く。

 そう、私達が来たのはオルビスさんによって破壊されたゼビスさんの財宝洞窟だ。私がお散歩の度に訪れてたのもここ。あと、オルビスさんからもらったゼビスさんに破壊された財宝洞窟。


「なんでここに連れて来たかったんですか?」


 個人的にはあんまり見たくはない場所なんですけど……とゼビスさん。


「いいからいいから、なかはいってみて」


 ぴっぴっとゼビスさんの背中を押すフリをする。腕が短すぎてシュヴァルツの手の上からは届かないのだ。


「……」


 仕方ない、といった感じでゼビスさんが歩を進める。


「―――え?」


 洞窟の中身を見た瞬間、ゼビスさんが珍しく呆けた声を漏らした。


「どうして……」

「ひよこ、がんばってなおしました!」


 えっへんと胸を張る。

 ヒヨコがちまちまと直してきた結果、洞窟の中には昔ゼビスさんが必死に集めたであろう金銀財宝が在りし日の姿でズラリと並んでいる。


「ヒヨコが直してくれたんですか?」

「そーだよ! こつこつかよってました!!」


 散歩と称してゼビスさんとオルビスさんの財宝洞窟に行ってたんだけど、修復の魔法は魔力消費が激しいから割と毎回クタクタになってたんだよね。財宝洞窟の中の物が予想以上に多かったのもあって、全部元通りにするには本来もっと時間がかかる筈だった。だけど今回、魔王達の疲労回復のために作った回復ポーションのおかげで一気に修復できちゃったのだ。

 ものすご~い疲れたけど。


「なあヒヨコ、もしかして俺の方も直してくれてたりするのか?」

「もっちろんよ~!」


 おそるおそる尋ねてきたオルビスさんに元気よく答える。


「! ごめん俺ちょっと見てくる!!」


 そう言ってオルビスさんは飛び立っていった。

 そう言えばオルビスさんもゼビスさんもドラゴンだから普通に飛べるよね……。歩く必要ないのにテクテクついて来てくれたんだ。

 ……ヒヨコも今は羽あるし、頑張れば飛べるかな……? こんど試してみよう。


「全くあいつは……すみませんヒヨコ、今度注意しておきます」

「べつにいいよ」

「にしてもよくこれだけの物を直しましたね」

「えへへ」


 ウリウリと私の頭を撫でて褒めてくれる。魔族は直すことと相性が悪いから、余計そう思うんだろう。


「ここにあるのを売れば結構なお金になりますよ。もうお小遣いには困りませんね。結構頑張って集めたものなのでできれば大切にしてほしいですけど」


 そう言うゼビスさんは私が財宝洞窟を返してくれるなんて思ってもみなさそうだ。


「ひよこかえすよ」

「え?」

「ひよこ、ざいほうどうくつ、ゼビスさんとオルビスさんにかえす」

「……」


 思わぬ申し出にゼビスさんは目が点になった。珍しいお顔だ。


「でも、ここはヒヨコにあげたものですし……」

「でもね、ヒヨコ、かわりにしてほしいことがあるの」

「なんですか?」


 真剣に問いかけられる。ゼビスさんもできることなら返してほしいのだろう。


「ひよこ、できたらでいいけど、ゼビスさんとオルビスさんになかなおりしてほしいの」

「なんだ、そんなことでいいんですか。そんなの朝飯前ですよ」

「へ?」


 今度はヒヨコが驚く番だった。


「お互いに財宝洞窟を壊されたことに怒っていたのであって、財宝洞窟が元通りになったなら仲違いする意味はありませんよ。どの種族も身内は大事ですし」

「あ、そう……」


 感激して戻って来たオルビスさんにも聞いたら、大体同じようなことを言われた。正直ちょっと拍子抜けだ。

 でもさっぱりしてるドラゴン族いいね。ヒヨコは好きよ。


 ちなみに、その後私への感謝として多すぎるお小遣いとか種々の貢物が二人から贈られてきた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど。ポーションはヒヨコさんの魔力回復用か。 ひたすらに修復魔法をゴリ押ししたのね。 脳筋聖女、もとい脳筋ひよこだなぁ。 [一言] 魔王軍の幹部とその身内の仲違いを解消するとか、普通…
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