ひよこ、計画を進行する
「ヒヨコ~、これ陛下の執務室まで持ってってくんね?」
廊下で私を呼び止めたのはオルビスさんだ。
「いいよ~」
オルビスさんから書類を受け取る。私に頼むのは魔王の執務室にいるゼビスさんと顔を合わせたくないんだろう。
相変わらずゼビスさんとオルビスさんは仲が悪い。会う度に暴言を吐き合ったり派手な喧嘩をするってわけじゃないけど、一緒にいると空気がギスギスするのだ。
ドラゴン族にとって大切な財宝洞窟を壊しあったことが尾を引いてるんだろう。
傍から見る分にはいい加減仲直りすればいいのにとしか思わないけど、ドラゴン族にとっては大切なことなんだろう。他種族の価値観を真に理解するのは大変だからね。
ただ、そうは言ってもヒヨコとしては仲直りしてほしいんだよね。だってみんな仲良しの方がいいもん。精神衛生上、近くにギスギスしてる人達がいるのはよくないし。
それに、せっかく家族がいるんだから大切にしてほしい。私は気付いたら神殿にいたし、家族は誰もいなかったからずっと羨ましかったんだよね。
だからできれば仲直りしてほしい。
執務室に入り、ゼビスさんに書類を渡す。
「ゼビスさんあげる~」
「おや、ありがとうございます」
「オルビスさんからだよ」
「ああ、あの駄竜からですか」
スンッと真顔に戻るゼビスさん。相変わらずの言い様だ。
「ゼビスさん、オルビスさんとなかなおりしないの?」
「無理ですね。オルビスが破壊した私の財宝洞窟を元通りに直したら考えますが。まあ、あれだけグチャグチャですし修復の魔法は難しい上に魔力をバカスカ食いますからね」
「ふ~ん」
頑なだなぁ。やっぱりドラゴンにとって財宝洞窟はそれだけ大切なものなんだね。
休憩時間になってゼビスさんが出て行った後腕を組んで首を上下に振りながら考え事をする。
「む~ん」
「どうしたヒヨコ。そんなに振ったら首が取れるぞ」
魔王に優しく握り込まれる。ヒヨコは首が据わってないと思われてるの?
若返ってハリの増した人差し指で私の頭をグリグリする魔王。
「また何か考えているようだな。たまには何をしようとしているか先に教えてくれぬか?」
「う~ん、だめ!」
「迷った結果駄目なのか」
口では文句を言いつつも魔王の眼差しは優しい。魔王は好きなことをやらせて見守るタイプのお父さんらしい。
ポーションの効果で若返った魔王だけど、最近ますます保護者感が増してきた。
「せいこうするかわかんないのに、さきにいっちゃったらかっこわるいでしょ!」
「我はそうは思わんがな。大人の世界で報告は大切なことだぞ?」
「ん~。じゃあつぎからはけんとうします」
「はは、結局今回は教えてくれないのか」
「うん」
人のびっくりする顔ってクセになるんだもん。ただの嫌がらせみたいなイタズラとかで驚かせる気はないけど。どうせなら嬉しいことで驚かせたいよね。
「さっきヒヨコがシュヴァルツに大量に持たせていた回復ポーションは何か関係があるのか?」
「!? ないしょ!」
見られてたのか。こっそり準備したのに。
でも、魔王は問いただしたいわけじゃなく、ただ私をいじっているだけらしい。内緒っていったらすぐに引き下がったし、いたずらっ子っぽい笑みを浮かべている。
むぅ、このままやられっぱなしなのはなんか癪。
魔王の手からぴょこんと下りる。
「ん? お散歩か?」
「うん。じゃあいってくるね、ぱぱ」
「!?」
ぴぴぴっと走ってその場を立ち去る。
ぴっぴっぴ、魔王ってばビックリしてたね。
***
その後、ヒヨコが立ち去った執務室で魔王は暫し呆然としていた。
「パパ……」
「陛下? どうしたんですか?」
ゼビスが声を掛けても、数分は反応がなかったという。
その頃、ヒヨコはシュヴァルツと共に目的地へと到着していた。いつも散歩で来ている場所だ。
ヒヨコでも使えるように薄められたポーションを亜空間収納が付いている風呂敷から大量に取り出す。そしてヒヨコは腰に手を当て、ぴ! っと鳴いた。
「よし! さっそくとりかかるよ!」





