ひよこ、お茶を入れる
「ヒヨコ、元気になってよかった」
「ぴ」
お昼休憩で帰ってきた魔王に熱が下がったことを伝えると、熱烈なハグをいただいた。心配してくれてたんだね。
「ひよこはげんきになったので、にっかのおさんぽにいきたいとおもいます」
「ダメだ」
「ぴ!?」
お散歩に行こうと思ったら、魔王に速攻で却下された。なんで?
このやり取りを横で聞いていたシュヴァルツは「バカだなぁこのひよこ」って顔してるし。解せないよ!
「病み上がりなんだから大人しくしろ。今日は城から出るのは禁止だ。騎士団の訓練に参加することも禁ずる」
「はぁい」
私はしぶしぶ返事をする。しょうがない、保護者がそう言うんだから。お散歩行くと結構疲れちゃうしね。
「じゃあひよこ、きょうはなにをすればいいの? おへやでシュヴァルツとくみて?」
「やめてください脳筋ひよこ。私を殺す気ですか」
「大人しく寝るって選択肢はないのか……」
今度は二人から同時に呆れた眼差しを向けられた。
「寝てなくてもいいから、今日は大人しく部屋でできることをしていろ」
「う~ん、そんなのあるかなぁ」
ヒヨコ、あうとどあ派だから。
困った、このままだと午後まるまる暇になっちゃう。
何をするか考えていると、シュヴァルツがいいことを思いついた、というようにポンと手を叩いた。
「―――あ、そうだ、お茶を入れる練習なんてどうですか?」
「おちゃ?」
「はい、魔王様にひよこ用の家をもらった時、お茶会に招待してくれるって話をしたでしょう? そのお茶を入れる練習をしたらどうですか? ついでにお菓子も食べちゃいましょう」
「! れんしゅうする!」
なんて名案! こんないい案がシュヴァルツから出るとは思わなかったよ!
「ん? なんだか今バカにされた気が……」
「きのせいだよ」
ひよこ、別にバカにしてない。
「かえってきたらおいしいおちゃいれてあげる!」と言って魔王を午後の仕事に送り出し、私達は早速作業に取り掛かった。
ヒヨコは魔王にもらったひよこサイズのキッチンで、シュヴァルツは魔王の部屋に併設されている人サイズのキッチンでそれぞれお茶を入れる。
ふむふむ、ちゃんとカップをあっためておかないといけないんだね。
魔王がくれた私専用のキッチンはひよこの手でも作業しやすいように細々とした工夫がされている。それで足りないところは魔法で補うだけだ。
お湯を沸かしながらお茶の入れ方が書いてある本を読んでいると、ガッシャーン!! と大きな音が響き渡った。
「……シュヴァルツ?」
「すみません。手が滑りました」
そういえばシュヴァルツは不器用さんだったね。
「シュヴァルツのぶんもひよこがいれてあげるね」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
物は大事にしなきゃだもん。この辺にある茶器高そうだし。
そして、どうにか無事にお茶を入れることができた。
「シュヴァルツ、おちゃはいったよ」
「ありがとうございます。お茶請けに手作りクッキーも持ってきましたよ」
「だれのてづくり?」
「もちろん料理長の」
「だよね」
一安心だ。シュヴァルツの手作りのお菓子とか正直何が入ってるか分かんないし本人の怪我が心配だから正直あんまりやらないでほしい。
料理長のクッキーはとってもおいしくて、紅茶との相性も抜群だった。お茶会の時も料理長に作ってもらおう。
それから何度かお茶を入れ、ようやく納得のいく味に仕上げることができた。
ヒヨコは天才かもしれない。





