ひよこ、知恵熱を出す
新しく知る事実が多すぎて頭がパンクしそうなヒヨコです。
もう人界の神の方が邪神で、魔界の神が聖神なんじゃないかな? というレベルで聖神がやらかしてた。それはもう、擁護できないレベルで。擁護する気もないけど。
そんなこんなでいろんなことを考えちゃったヒヨコ。どうやら、ヒヨコは脳味噌まで子ども返りしちゃってたらしく、頭にいろんな知識を一気に詰め込んだ結果、次の日に知恵熱を出した。
「ぴゅぃ……」
籠の中に仰向けに横たわる。
あつい……。
そして、魔王はといえば、私の入った籠を持ってあたふたとしていた。
「子ども……ひよこが熱を出したらどうすればいいんだ? 医者を呼べばよいのか? 死なぬか? あ、ヒヨコにはフェニックスの加護があったな」
とってもあたふたしてる。いつもの魔王とは大違いだ。
魔王の呼び出しに応えてゼビスさんとシュヴァルツがやってきた。
「―――知恵熱……ヒヨコは本当に赤ちゃんだったんですね」
「知恵熱出すひよこって初めて見ました」
魔王とは打って変わって二人は冷静だった。そうだよね、ゼビスさんは孫もいるし。シュヴァルツだって神官時代に子どもと触れ合う機会はそこそこあっただろうし。
「知恵熱っぽいですから、安静にして寝かせておくのが一番でしょうね。無理矢理熱を下げても知恵熱では意味ないですし」
「すぐに元気になるから大丈夫ですよ」
「そうか」
魔王はホッと胸をなでおろした。
籠を持ったままお仕事に行こうとした魔王だけど、それはゼビスさんに止められて諦めていた。後ろ髪を引かれつつも仕事に向かう魔王を見送り、私は振っていた右手を下ろした。
シュヴァルツはいつも通り、私の面倒をみるためにこの場に残ってくれた。
「寝られますか?」
「ん~」
あんまり眠くない。というか、まだ寝る気分じゃない。
「眠くなさそうですね」
「うん」
シュヴァルツが私の頭を撫でる。
「わ、本当にいつもより熱いですね。ヒヨコは何でこんな熱なんか出しちゃったんですか?」
シュヴァルツは純粋に疑問に思ったようだ。
喉も痛くないし、眠くもないので魔王に聞いたことをシュヴァルツに話してあげた。
「……」
衝撃の事実に言葉も出ないシュヴァルツ。
「だいじょうぶ? おねつでちゃった?」
「いえ、私は大人なのでお熱は出しません」
熱は出さないまでもショックは大きそうだ。シュヴァルツってば一応聖神の信者代表である神官だったわけだし。
「シュヴァルツもきょうはおやすみにする?」
「いえ、大丈夫ですよ。そんな恋に浮かされた自己中女みたいなやつを今まで信仰していたのかと思うと、気が遠くなっただけですから」
「けっこういうね」
確かにショックは受けてそうだけど吹っ切れてそうでなにより。シュヴァルツも立派な魔界人だね!
「でも、ヒヨコはこの話は初めて聞いたんですか?」
「ぴ? あ、うん」
「へぇ、まあまだ赤ちゃんですもんね」
そういえばシュヴァルツには私が元聖女ってことは内緒にしてたんだった。危ない危ない。うっかりあんな神なんか信じるんじゃなかったとか言っちゃいそうになったよ。せっかくお城で働いてるみんなにも協力してもらって、私が元聖女ってことはシュヴァルツには秘密にしてるのに。
これ以上お話してたら何かしらボロが出ちゃいそうだ。
「アーヒヨコナンカネムクナッテキタカモ―」
「何で棒読みなんですか」
そう言いつつもシュヴァルツは私が寝やすいように支度を整えてくれた。できる子だね。
ふわふわの腹毛の上にシュヴァルツは毛布を掛けてくれる。
「おやすみなさい」
「ぴ~」
ほんとは全然眠くなかったのに、すらっとした人差し指でお腹をポンポンされたら睡魔は全力ダッシュでやってきた。そんなに急がなくても。
ぴよぴよと何時間か寝ているうちに、熱はすっかり下がっていた。





