ひよこ、一歩前進する
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私は魔王の執務机の上でころんと転がった。そして寝転がったまま熱心に仕事をする魔王を見上げる。
「ぴぴ(ねえまおう)」
「なんだ?」
「ぴ? (まおうは、ひよこがはなせるようになったらうれしい?)」
そう聞くと、魔王が片眉を上げ、ペンを置いた。
「そりゃあ嬉しいが、我は今のままでもヒヨコの話してる言葉が分かる故、どちらでも構わんよ」
「ぴ」
大きな手で私の頭を撫でてくれる。
魔王は優しいね。人間の王とは違って気遣いに溢れてるよ。
よし、ヒヨコは腹をくくったよ!
その日の夜。私はこっそりと魔王の部屋を抜け出し、ゼビスさんの部屋へ向かった。
「ぴぴ!」
「ん? あれヒヨコ、どうしたんですか? もう寝てる時間でしょう」
「ぴ!」
私は片手で自分の喉を指した。それだけでゼビスさんは察してくれたようだ。
「ヒヨコ……。分かりました」
***
次の日の朝。
夜更かしをしたせいで寝坊をしてしまった私は、魔王にツンツンとつつかれて目を覚ました。
「おはようヒヨコ、今日はお寝坊さんだな」
「ぴ……けほっ、おはようまおー」
私がそう言って綿の中から起き上がると、魔王はそれはもう驚いていた。おめめが私と同じくらい真ん丸だ。
「ヒヨコ……? 話せるようになったのか?」
「うん! きのうゼビスさんにおねがいしたの!」
ドヤっと真っ黄色の胸を張る。話せるようにはなったけど、姿はまだひよこのままだ。人型をとるにはまだ早かったようで、変化は声が出るようになるだけに留まった。ゼビスさんも「今はこれが限界ですね」って言ってたし。
「ヒヨコもいつのまにか成長したのだな……」
魔王がしんみりとそう呟く。ほんとうにお父さんみたいだね。
それからは「偉い、偉いぞヒヨコ」と私のことを褒めまくりだった。今ならなにをおねだりしても買ってくれそうなくらい。特にほしいものはないからおねだりしないけど。
喜んだ魔王は魔王城中に魔法で私が話せるようになったことを広めた。いや、興味のない人もいるでしょう。
だけど、私と面識のある人達はみんな喜んでくれて、料理長のおじちゃんなんか今日の夕飯にはスペシャルお子様ランチを作ってくれるらしい。とっても楽しみ!
あ、でも、シュヴァルツだけは唯一微妙な顔をしてた。
「……私、ヒヨコの言っていることが察せるからってお世話係に雇われたんですけど。私が来て早々に存在意義をなくすの止めてもらえますか?」
「……ごめん」
「はぁ、でもおめでとうございます。魔族のひよこは成長すると話せるようになるんですね」
あ、そうだ、シュヴァルツだけは事情を知らないんだった。でもいい感じに勘違いしてるみたいだからそのままにしておこう。
「ヒヨコ~、話せるようになったらしいな」
「おるびすさん」
「お、かわいい声してんな~」
ニコニコとしたオルビスさんが私を摘まみ上げた。
「ヒヨコが話せるようになったお祝いに俺の財宝洞窟を見せてやるよ。一つくらいだったら持って帰ってもいいぞ」
「おお!」
私が今声を上げたのは嬉しかったのもそうなんだけど、ゼビスさんにも同じことを持ちかけられたからだ。やっぱり血筋だね。
オルビスさんが私をどこに連れていくか悩みだす。
「ヒヨコはどの財宝洞窟がいいかな……」
「あ! ひよこ、あそこがいい!」
「?」
私の告げた場所にオルビスさんは首を傾げつつも、大人しくその場所に連れて行ってくれた。もちろんお目付け役のシュヴァルツも一緒だ。
「こんなガラクタだらけのとこがよかったのか?」
「ぴ! ……まちがえた。うん!」
私が連れてきてもらったのは以前話に出ていた、ゼビスさんの報復で破壊された財宝洞窟だ。一番でかいと言っていただけあってかなり広い。そして破壊された貴金属や、ひびが入ったり粉々に割れたりしている宝石類が散らばっている。
「ひよこ、がらくたすきだからここがいい」
「ここでいいなら全部丸ごとやるよ。俺達ドラゴンは壊れたものには興味ないからな」
「ありがとう!」
オルビスさんと同じようにゼビスさんも壊れたものには興味がないらしく、オルビスさんに破壊されたまま手つかずで残っていた財宝洞窟をそのままくれた。
こうしてひよこは財宝洞窟(ボロボロ)を二個ゲットした。
オルビスさんの財宝洞窟から帰って来ると、騎士さん達が一斉に私に群がってきた。みんな私とお話ししに来てくれたらしい。
私が一言話せば拍手喝采でめちゃめちゃに褒められた。
ヒヨコは満足である!





