ひよこ、後輩の就職先を見つけてあげる
夜。
「ぴぴ(ねえねえまおう)」
「なんだ?」
「ぴ、ぴぴっ(だんちょうさんが、おちたてはひろった人がめんどうをみるって言ってたの。じゃあシュヴァルツもひよこがめんどうみるべき?)」
そう言ったら半眼になった魔王におでこをつつかれた。その衝撃で尻餅をつく。
「ぴぴっ」
「自分の面倒もみれぬひよっこが何を言ってる。そんなのは騎士団長に任せておけばよい」
「ぴ~(え~)」
魔王にぴよぴよと文句を言う。すると魔王は片眉を上げてこっちを見た。
「そんなに言うなら明日そのシュヴァルツと一緒に城を回って就職先を見つけてやればいい」
「ぴ? (いいの?)」
「ああ、ただし邪魔はしてやるなよ?」
「ぴ! (わかった!!)」
「じゃあもう寝ろ。いいひよこは夜更かしをしないものだ」
「ぴ(は~い)」
魔王の中で私の年齢がどんどん下方修正されてる気がするんだけどきのせいかな? まあいいや。
私はいつもの籠の中に戻ってぴよぴよと眠りに入った。
***
シュヴァルツがジッと団長さんの手のひらの上にいる私を見てくる。
「……なんで昨日のひよこがここにいるんですか?」
「このひよこは魔王様の眷属だ。拾った責任を取ってお前の職探しを手伝いたいんだそうだ」
「はぁ……」
なんか不服そうだねシュヴァルツ。失礼な。
今日のシュヴァルツは誰かに貰ったのか、シンプルなシャツにスラックスという出で立ちだ。神官服を着てないから一気に神聖さがなくなった。
団長さん曰く、聖神臭さも薄まったそう。私には全然分からない臭いだけど。
「俺は騎士団の方の業務に向かわないといけないから付き添いはできない。すまないが今日のところはヒヨコと二人で回ってくれ。城内の地図と紹介状は渡すから」
「え゛」
「え゛」ってなんだよ「え゛」って。とことん失礼だねこの元神官。こちとら元は君の憧れの聖女様だよ?
団長さんが私の方へ紅い瞳を向ける。
「じゃあヒヨコ、シュヴァルツのことは任せたぞ」
「ぴぴ! (まかせて!)」
ヒヨコはしっかりと後輩の面倒をみられるひよこ。
私は団長さんの手のひらからシュヴァルツの肩に移った。団長さんとか魔王と同じように手のひらに乗ってやるのはなんか癪だからね。
シュヴァルツに地図と紹介状を渡すと、団長さんは早々に踵を返して行った。よく考えたらシュヴァルツもいきなり知らない土地に放り込まれて一人で職探しなんて可哀想だよね。しかもすぐに頼れる相手はひよこだけときた。……うん、失礼な態度には目を瞑ってヒヨコは優しくしてあげよう。ヒヨコってばとっても大人だ。もうニワトリなんじゃないかな。
「……はぁ、じゃあ行きますか」
「ぴ!」
そうして私達は職探しに繰り出したのである。
まず向かったのは厨房だ。
「おうヒヨコちゃん、よく来たな」
「ぴぴ! (おじゃましま~す!)」
すっかり仲良くなった料理長のおじちゃんが私達を出迎えてくれた。
「堕ちたてもよく来たな。自然な方法で闇堕ちしてくるやつは結構珍しいから昨日から城中お前の話で持ち切りだぞ?」
「げ」
シュヴァルツが嫌そうな顔をする。話題にされるのとか注目されるの苦手そうだもんね。
私は邪魔になるといけないのでシュヴァルツの肩から降りた。そして私用に設置されている卵パックへと向かう。
厨房の端にあるちょっとした荷物などを置く机、そこに私専用の卵パックがあるのだ。もはやひよこパックだね。前に拗ねてここに逃げ込んだ時、卵の中に私が紛れ込んでたのをおじちゃんが大層気に入ってくれて、それ以来厨房には私専用の卵パックが設置されるようになったのだ。中には柔らかい布が敷いてあって居心地、フィット感ともに二重丸。
なにより卵パックの中にいると厨房のみんなが「かわいいねぇ、かわいいねぇ」と食べ物をくれるのがいい。
「……すみません、どうしてあそこに卵のパックがあって、ひよこがそこに吸い込まれるように入っていったんですか?」
「かわいいだろ。あの姿を見るためにみんなで餌付けしてんだ」
いつ見ても癒される、とおじちゃん。
ヒヨコ、餌付けされてたんだ……。まあいいや、お菓子もごはんもおいしいし。
「ほら見たか? あの脱力する姿がたまんねぇだろ」
「確かに、あんな情感豊かなひよこは初めて見ましたね」
「だろ」
おじちゃんはシュヴァルツの同意を得られて満足そうにうんうんと頷く。
「―――さて、そろそろお前を雇うかどうかのテストを始めっか。うちは面接とかいうかたっくるしいのはなしだ。実技で判断する」
「はい」
どうやらさっそく料理の腕前をテストするようだ。
シュヴァルツがエプロンを着ける。……絶妙に似合わないね。
「ヒヨコはそこで大人しくしてるんだぞ。こっちは今から刃物とか使って危ないからな」
「ぴ (は~い)」
私はちゃんと人の言うことが聞けるひよこ。ここで大人しくシュヴァルツの様子を眺めることにする。
「じゃあまずは野菜の皮むきからだ。魔法を使ってもいいが、一つは魔法なしで剥いてもらう。純粋な腕前を確かめたいからな」
「あ、私細かい魔法の調節苦手なので、魔法は使わずに剥きます」
「そうか」
どうやら魔法は使わないみたいだ。随分自信ありげな顔してるし、料理できるのかな……?
静かにシュヴァルツのことを見守ってたら、暇を持て余した料理人さんが私の口に卵焼きを突っ込んできた。
あまくておいしい。





