【番外編】ひよこ、メリークリスマス!
「おじちゃん、おかしちょうだい」
私が父様とやってきたのは、最近魔王城の近くでお菓子を売り始めたお店だ。店主のおじちゃんは各地を回って子ども達にお菓子を売っているらしい。
「おうヒヨコちゃんいらっしゃい。今日もいいのが入ってるよ」
「なになに?」
にこやかな笑みで私達を迎えてくれたおじちゃんの横には、変わった形の巨大なリヤカーに所狭しと並べられているお菓子がある。
「今日はこれがお勧めだよ」
そう言っておじちゃんが差し出してきたのは、私の顔くらいの大きさの巨大ぐるぐるキャンディーだった。子どもの夢のようなお菓子に私は大興奮である。
魔王からもらったお小遣いでぐるぐるキャンディーの他にもいくつかお菓子を買い込む。
おじちゃんにお代のお金を渡すと、おつりと一緒に小瓶を手渡された。
「舐めている間火を吹ける金平糖もサービスだ」
おじちゃんがくれた小瓶には赤色の金平糖が入っていた。
「いいの?」
「もちろん、俺からのサービスだ。これからもうちをご贔屓にしてくれな」
「おお、おじちゃんもわるですなぁ」
悪い笑みを浮かべ合う。
「最近うちの子に変な悪代官ブームがきてると思ったら君のせいか」
「ははは、舌っ足らずなちびっ子が悪ぶるのもかわいいじゃないですか」
「まあ我が家のちび代官殿はかわいいからいいけど」
父様もノリノリで悪代官ごっこに付き合ってくれるもんね。
お菓子屋さんからの帰り道は、もらった金平糖をなめてポッポッと火を吹きながら歩いた。
「そういえば、さいきんあかとみどりのものがふえたねぇ」
さっきもらった金平糖も赤だったし、街中で赤と緑の組み合わせを見ることが急激に増えた気がする。
魔王城に帰ってからその話をすると、父様がさもありなんと頷いた。
「ああ、もうすぐクリスマスだからねぇ」
「くりすます?」
父様の言葉に私は首を傾げる。
そんな私を見た父様は、クスクスと微笑みながら言った。
「魔界にはサンタって種族がいてね、クリスマスになると子どもたちにプレゼントを配り歩くんだよ」
「なんで?」
「まさかそこを疑問に思うとは。まあ、そういう種族というしかないかな」
そんな夢のような種族が魔界にはいるんだね。
「ヒヨコも、プレゼントもらえる?」
「もちろんもらえるとも! リュウと一緒にほしいものを考えておいで。手紙でサンタに伝えるから」
「おお!」
父様の言葉に、私のテンションが上がる。
プレゼント……なににしよう……。
頭の中をいろんなアイテムが行き交う。
「プレゼントは、どうやってとどくの?」
「クリスマスの日に朝起きたら枕元に置いてあるんだよ」
「まくらもとに!?」
つまりは夜の間に部屋の中まで入ってくるってこと?
「ど、どうやっていえのなかにはいるの?」
「昔は煙突を伝って入っていたらしいけど、最近は煙突のある家も少なくなってきたからね、壁をすり抜けたりしてるんじゃないかな」
「すりぬけ!?」
そんなことができるの? と父様を見詰めればコクリと頷かれた。
「クリスマスの日に限って彼らは最強だからね。どんな堅牢な屋敷でも、そこに子どもがいれば入ってきちゃうのさ」
「すごいね……」
そんな能力があるのに、やることがプレゼント配りなのか……。
サンタ……すごく興味が出てきたぞ。
「サンタ、あいたい」
そう言うと、父様が少し困った顔になった。
「う~ん、それは難しいかもねぇ。彼らは基本的に人前に姿を見せないから。特に子どもの前に現れることはないね」
そんな幻みたいな存在なんだ。
「でも、よるおきてたらあえるんじゃない?」
「それができないんだなぁ。サンタ達はプレゼントを配る時には強力な睡眠魔法を使ってくるからね」
用意周到というか何というか。
というか、それだけのことができたら何でもできそうだけど、本当にどうしてやることがプレゼント配りなんだろう……。
「ところで、サンタはどうやってくるの?」
「空を飛ぶソリの魔道具に乗ってくるんだよ」
「そらとぶソリ! みたことない」
「それはそうだろう、飛行ソリはサンタ族の特許だからな」
「とっきょ……」
さっきからファンタジーと現実的な単語のギャップに風邪を引きそうだ。
「クリスマスにはケーキと普段より豪華な食事も出るぞ」
「けーき! ごはん!」
「せっかくだからリュウと白虎も呼んでパーティーをしようね」
「する!」
それからあれよあれよという間にクリスマス前日になった。ワクワクで寝付けない私のお腹を魔王がポンポンしてくれる。
「あしたは、リュウとびゃっこさんくるんだよね?」
「ああ、皆でパーティーをしような。ほら、寝不足にならないように早く寝ろ」
「うん!」
幸せな気持ちで眠りにつき、ひよこ姿でケーキの上を泳ぐ夢を見た翌朝、私の枕元にはプレゼントボックスが置いてあった。
「まおー! とうさま! プレゼント! プレゼントあった!!」
一足先に起きていた魔王と父様にプレゼントボックスを見せびらかす。
「よかったな」
「なに頼んだの? 父様にも見せて」
「ふっふっふ」
二人の期待に応え、プレゼントボックスのリボンをシュルリと解く。
すると、どうやって収納されていたのか中のものがボンッと飛び出した。
「うわっ」
「……でかいな」
中から勢いよく飛び出したのは、天井まで届きそうなほどの大きさの巨大ドラゴンのぬいぐるみだった。広い魔王の寝室を覆いつくさんばかりのサイズのぬいぐるみである。
後にこのぬいぐるみを見たリュウは「おれも……これくらい大きくなる……」と静かに決意していた。
ちなみに、リュウは寝心地抜群のお昼寝セットを頼んだらしい。
朝一番で白虎さんとともに魔王城を訪れたリュウを確保する。
「リュウ! おかしかいにいこ!」
「うん」
そして、私達は保護者の父様を連れてお菓子屋さんへと向かった。すると、おじちゃんが「いらっしゃい!」と出迎えてくれる。
「――おじちゃん! サンタ! サンタきたの!」
「おれも……!」
「おお! サンタが来たのかい! 欲しかったプレゼントはもらえた?」
「うん!」
大興奮でおじちゃんに語った私達は、パーティー用のお菓子を買い込んだ。
「よし! かえろう! リュウ、いっしょにしょくどうかざりつけようね!」
「ん」
おじちゃんにお礼を告げた私達は、早足で魔王城へと踵を返した。
そして歩くこと数十歩。
「――あれ? とうさまがいない」
振り返れば、父様はまだお菓子屋さんの前にいた。
どうやら気持ちがはやりすぎて置いてきちゃったみたいだ。
◇◆◇
先を進む娘達の姿を見ながら、デュセルバートは菓子屋の店主に声をかけた。
「今年もご苦労だったね」
「はは、何も苦労なんてしてませんよ。種族柄、これが生きがいですから」
「僕が言うのもなんだけど、特殊な種族性だよね」
「俺達からすると普通のことですけどね。ドラゴンが宝飾類を集めたくなるのと一緒ですよ。――ってことで、はい」
「?」
首を傾げつつも差し出された紙袋を受け取るデュセルバート。
「これはなんだい?」
「ささやかながら、大人の皆様にもプレゼントですよ。陛下と白虎様と分けてください」
「おや、いいのかい?」
「もちろんですよ、今日はクリスマスですから」
すると、少し離れた場所から「とうさまー!」と呼ぶヒヨコの声が聞こえてくる。
「ほら、お子様方が待ってますよ」
「だね。じゃあこれはありがたくいただくよ」
「ええ」
すると、菓子屋の店主はニカッと笑みを浮かべた。
「――では、楽しいクリスマスを!」





