ひよこ、友達のダンジョンが開放される
書籍3巻はTOブックス様より発売中です!
今日はいよいよ、リュウのダンジョンが動物園として一般にも公開される日だ。
私も朝からソワソワが止まらない。
「リュウのダンジョン、いっぱいひとくるといいねぇ!」
「そうだな」
人型の私を片腕に抱っこするのは、休日のお父さんスタイルの魔王だ。
今日はプライベートで訪れるので、いつもの魔王服じゃなくて私服を纏っている。
「――わぁ! ぎょうれつができてるね!」
まだ開園前だというのに、リュウのダンジョンの入り口前には既に列ができていた。さすが娯楽大好きな魔族、耳が早い。もう数十人くらいはいるかな?
私達も列に並び、そこから十分ほど待つと前の人達がゾロゾロと動き始めた。リュウのダンジョンは広いので、列はスルスルと進む。
それからどんどん進んでいくと、入り口の脇に見慣れた姿を見つけた。
「リュウ! きたよ!」
「ヒヨコ……! いらっしゃい」
私は魔王の腕から下りてリュウに駆け寄り、事前にもらったチケットをはいっと差し出した。
「きてくれて、ありがと……。たのしんで」
「うん! リュウもいっしょにまわってくれるんでしょ? あんないしてね!」
「うん、まかせて……!」
グッと拳を握り、やる気満々で案内を請け負ってくれるリュウ。
私も中がどうなっているのかまだ全く知らない。
新鮮な気持ちで楽しんでほしいからと、改装中はダンジョンには出入り禁止になってたからね。
なぜか私よりも禁止を言い渡したリュウの方が苦しそうにしてたけど。
「ヒヨコ、たのしんでって」
「うん!」
いよいよ、お目見えだ。私と同じくらいリュウも楽しみに、そして同時に少し緊張しているのが分かる。いっぱい準備したから、みんなが楽しんでくれるのか不安な気持ちがあるんだろう。
そんなリュウの手を、私はギュッと握りしめる。
「だいじょうぶ! みんな、きっとたのしんでくれるよ!」
「……うん……!」
そして、私達はリュウと白虎さんと一緒にダンジョンの中に足を踏み入れた。
制作者自らの案内なんて贅沢だね。
リュウのダンジョンはクリスタルのような水色の石でできているので、中に入るや否やその綺麗さに周囲から感嘆の声が漏れる。
うんうん、リュウのダンジョンってとっても綺麗なんだよ。
なぜか私が誇らしい気持ちを感じながら、リュウと一緒に足を進める。
「あ! ドラゴンだ!」
ダンジョン入ってすぐの場所にあったゲートの上には、『入り口』という文字と共に子どものドラゴンの絵が描いてある看板がついていた。この寝ぼけ目は、紛れもなくリュウだろう。かわいい。
ゲートをくぐると、玄武さんの背中に住み着いていた動物たちが出迎えてくれた。
地面を覆っている土や周りに生えている植物も玄武さんの背中からもってきたものだ。
ここには、漆黒の角を持ったシカや九本の尾を持つ狐など、独自の成長をした動物達がいる。玄武さんの背中で追いかけっこをした仲なので、みんな顔見知りだ。
動物達との再会を楽しんだ後は、また追いかけっこしようね~と言葉をかけ、その場を後にする。
「――ここからは、ダンジョンのいきものゾーン」
ゲートをくぐると、先程とはガラッと雰囲気が変わった。
リュウと同じ魔力を纏った、いかにも強そうなモンスター達が出迎えてくれる。
「……なんか、みんなけだるそう……?」
さっき見た動物達はみんな生き生きと動き回っていたけれど、こっちの動物はみんなぐでっと横たわっていて気だるそうな雰囲気を醸し出している。しかも、みんな眠たそうな半目だ。
あっちの鋭い牙と角の生えたトラっぽいモンスターなんて、目の前をウサギっぽいモンスターが横切っているにも関わらずクッションの上に横になったまま動こうともしない。狩猟本能なんてないのかな。
そして、そんなモンスター達の特性に合わせているのか、柵の中にはおもちゃよりもクッションや枕など、寛げそうなグッズが数多く設置されている。
「これって……」
「リュウそっくりだねぇ。リュウが生み出したから、性格も似るのかな」
「特に目元がそっくりだな」
父様と魔王が柵の中のモンスターを眺めながら呟く。
やっぱり、みんなリュウそっくりだよね。こう……覇気のない感じが。
それから先を進むと、聞き慣れた鳴き声が聞こえてくる。
「……なんか、ひよこがいないか?」
魔王の視線の先には、ぴよぴよと鳴くひよこ達がいた。ただし、その体毛は薄水色をしているけど。
「よていにはなかったけど、いつのまにかつくってた」
「ほんとヒヨコのこと大好きだよなお前」
白虎さんが半ば呆れ顔でリュウを見るけど、当の本人はなぜか少しドヤ顔だ。
このダンジョンひよこのみ、ふれあい可能だそうだ。いっぱいかわいがってあげてほしい。
そんな事を思いながらひよこ達を眺めていると、向こうも私に気が付いた。
暫し見つめ合うひよこ達――
「え、なにこの間」
「同族同士で何か通ずるものがあるんじゃないか?」
「この子達は同族って言っていいのかな」
私がひよこ達と見つめ合ってる間、父様と魔王が何やら話しているが、私の耳には入ってこない。
「「「ぴ!」」」
「ぴ!」
ピシッと敬礼をしたひよこ達に、私も敬礼を返す。
「わぁ、かわいい」
「ああ、かわいいな。……だが、他のモンスターに比べてひよこ達だけなんか元気じゃないか? 見た目も、体毛の色が違うだけでまんまひよこだし」
「一番身近にいるひよこを思い浮かべて創ったからじゃない?」
魔王の質問に答えながら、父様がこちらを見る。
なるほど、一番身近にいるヒヨコのイメージがこの子達に反映されてるのか。初めて会った気がしないと思ったらそういうことだったんだね。
その後も、私達は全てのエリアを見て回った。
ダンジョンの外ではあるけどごはんのお店も出ていたので、丸っと一日楽しめちゃった。
それから話題が話題を呼び、一週間後にはさらに大行列ができていた。この感じだと、暫く客足が途切れることはないだろう。
今日も今日とて、ダンジョンの前には大行列ができている。
リュウと一緒に物陰から様子を窺うと、みんな楽しみそうに瞳を輝かせているのが見て取れる。
うん、リュウのダンジョン動物園化計画は大成功のようだ。
これで、リュウも空っぽのダンジョンを見て寂しく思うことはないだろう。
「リュウ、よかったね!!」
「……うん……!」
「!」
振り返った先にあった光景が予想とは違ったので、私は思わず目を見開く。
――たくさんのお客さんを見たリュウは普段の眠たげな表情ではなく、心の底からの微笑みを浮かべていた。





