ひよこ、友達のダンジョンを改装する
いよいよリュウのダンジョンを改装する時がきた。
リュウもこの日を待ちわびていたので、やる気満々だ。普段よりも頬に赤みが差しているし、眠たげな目も見開かれている。
「がんばる……ぞ……!」
「おー!」
ぐっと小さい拳を握りしめやる気を出すリュウ。それに答えるように私も拳を突き上げると、なぜかリュウはキョトンとした顔でこちらを見てくる。
ん? なんでそんな顔してるの?
思わずヒヨコもキョトンとした顔をしてしまう。
「な~にキョトン顔で見詰めあってるの? かわいいんだから」
無言のまま見詰めあっていると、二人揃って父様に抱きしめられる。そして、そのまま二人揃って父様に抱き上げられてしまった。
父様は私達を抱き上げたまま、魔王の執務室へと向かう。
「みてみて~、かわいい子を二人も収穫しちゃった~」
ホクホク顔で歩く父様に、中で話をしていた魔王と白虎さんが視線を向ける。
「はいおすそわけ」
父様はツカツカと歩いて行き、白虎さんの背中にリュウを、魔王の膝の上に私を乗せる。
そして、いや~、いいことしたな~と一人満足気にする父様。
「二人してかわいい顔してたからついつい抱っこしてきちゃった~。あ、そういえば二人で何話してたの?」
「ダンジョンのかいそうしようねってはなししてたの。でも、そしたらリュウがくびかしげて……」
「ああ、リュウはヒヨコにも楽しんでほしいから、ここから先は自力でやりたいらしいぞ」
白虎さんがリュウの意図を解説してくれる。
なるほど、さっきのキョトン顔はそういうことだったのか。
そういうことなら、ヒヨコは介入しないでおくのがいいね。
「じゃあ、ヒヨコはおきゃくさんでいくの、たのしみにしておくね!!」
「うん、たのしみに、してて……」
とはいえ、ヒヨコの協力が必要な場面もある。
玄武さんの背中に住み着いていた動物たちは、リュウのダンジョンに居を移すことになった。だけど、ちまちま移動させるのは手間も時間もかかりすぎるので、直接転移させることになったのだ。
大規模な転移になるので、そこは私も手伝うことになっている。ヒヨコってば魔法得意だからね!
ダンジョンの中は見ないのでセーフだろう。
ダンジョンの内装はあらかた完成したらしく、玄武さんの背中の動物達をダンジョンに移す日だ。
「――最近姿を見ないと思ったら、こんなところにいたんですか」
「はっはっは、久しいなゼビス」
呆れ顔のゼビスさんが、背中に森を生やした玄武さんを見上げる。
二人は長い付き合いのようで、随分と気安い様子だ。いつの間にか今度お酒を飲む約束までしている。
玄武さんの背中にいる動植物をできるだけそのまま移動させるため、今回は大がかりな転移魔法を使う必要がある。なので、念には念をということで私と魔王、父様に加えてゼビスさんにも協力してもらうことになったのだ。リュウはダンジョンの方で待機していて、受け入れ体勢を整えてもらっている。
「それじゃあそろそろやろっか」
私と魔王、父様、そしてゼビスさんは玄武さんの甲羅を囲うように散らばる。
そして「せ~の」という父様の合図で同時に魔法を行使した。
『――転移』
次の瞬間、パァッと眩い光が玄武さんの背中を包み込む。
眩しっ!
ギュッと目を瞑ると、魔王が光から守るように手で私の目を塞いでくれる。パパだね。
「――おお! 背中が軽いのう! 肩こりも治りそうじゃ!」
「森を丸ごと背負ってたら、そりゃあ肩もこるでしょうよ」
はしゃぐ玄武さんに呆れ顔を見せるゼビスさん。
「おいゼビス、せっかく動けるようになったのだ、酒を飲みに行くぞ!」
「そう言うと思ってました」
「ヒヨコも――」
ゼビスさん達について行こうとすると、後ろからスッと肩を掴まれた。
「ヒヨコにお酒はまだはや~い。家で父様達とお子様ランチを食べようね」
「ひとしごとおえたあとは、おさけじゃないの?」
すると、魔王が怪訝そうな顔で私を抱き上げる。
「どこでそんな中年男性のような知識を付けてきたんだ? シュワシュワするジュースをつけてやるから、それで我慢しろ」
「……はぁ~い」
こうして、魔王に抱っこされた私は大人しく魔王城に帰宅したのだった。
どさくさに紛れていけると思ったのに……世の中そんなに甘くないね。
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