ひよこ、旗を守る
試合開始の合図と同時に、四方八方から攻撃魔法の雨が降ってきた。
『ぴ(完全防御)』
防御壁で自分と旗を球状に囲む。この魔法のいい所はちゃんと地中までカバーできることだ。球状だから死角はない。
防御壁は見事に飛んできた攻撃を防ぎ切った。優秀だね。この防御壁、魔法を弾くと青白い光が上がってきれいなの。好きな魔法の一つだ。
私の防御壁で嫌な記憶でもフラッシュバックしたのか、そこかしこから悲鳴が上がった。野太い悲鳴だけど。
今回は足止めと防御の魔法をメインで使う。攻撃魔法を使ってやり返したくてうずうずするけど我慢我慢。
「おいひよこのお尻が揺れてんぞ」
「かわいいけどこっわ。戦いたくてうずうずしてんじゃねぇか」
バレバレみたい。でも私は我慢のできるひよこ。攻撃するのも我慢できるよ。
さすがの私もひよこの姿で周りを囲まれたら怖いので、念を入れて足止めする。私を中心にして風をおこしたり、砂を外側に向けて動かしたり。
中々私に近付けない騎士さん達から苦悶の声が上がる。
「あのひよこ器用だな!」
「全く近付けねぇ!!」
ふふふん。褒められて気分がよくなる。
このまま制限時間いっぱい足止めと防御でやり過ごそうと思ったけど、さすがにそう簡単にはいかなかった。
「ふんっ!!」
離れた場所から魔法を打っていても埒が明かないと思ったのか。団長さんが地面を蹴り、一直線に飛んできた。顔がちょっと強面なだけあって結構な迫力だ。そういえば人間だった頃もこんな光景みたことあるな。団長さんってバリバリの接近戦派なんだよね。だから団長さんに近付かれちゃうとちょっと困る。
『ぴ(障壁)』
自分と団長さんとの間に何重にも障壁を張る。障壁の一枚一枚でも結構な衝撃に耐えられる筈なんだけど、そこはさすがに魔界騎士団の団長さん。五枚張った障壁のうち三枚を見事に貫通されてしまった。
三枚目の障壁を破壊したところで団長さんが地に足をついた。
「チィッ! さすがに固いな」
『ぴ(穴)』
団長さんの足元に落とし穴を作る。
「うおっ!?」
不意を突かれた団長さんは見事に穴に落とされてくれた。よし、上から蓋しちゃお。
障壁で団長さんの落ちた穴に蓋をする。ついでに砂も被せておいた。
すると、団長さんに続けとばかりに他の騎士さん達もこちらに向かってこようとする。私は今ひよこの姿だから接近戦なら勝てると思ったのかもしれない。正直私もまだあんまり自信ない。
『ぴ』
『ぴ』
『ぴ』
遠距離魔法での攻撃が減ったと思ったら、今度は魔法の代わりに騎士さん達が四方八方から飛んできた。それを魔法で捌いていく。
ドゴォッ!!
「ぴぃ!?」
すぐ側で急に砂が舞い上がる。そして砂を纏った団長さんが地面から出てきた。団長さんの肩とか頭からさらさらと砂が落ちていく。団長さんの真っ黒な髪の毛が砂で汚れてちょっと白っぽくなってる。
もしかして上には障壁が張ってあるから、他の所から掘ってここまで来たのかな? 結構深い所まで落としたんだけど。
なにが楽しいのか、ニタァと鋭い歯を見せて笑みを浮かべる団長さん。瞳孔が開いててちょっとホラー。
びっくりした拍子に、反射で攻撃魔法が出そうになっちゃったけどなんとか抑えた。さすが私。できるひよこ。
リーン リーン
そこで、試合終了を知らせる音が鳴った。
旗を守り切ったので私の勝ちだ。
「ぴっぴ♪ ぴっぴ♪ ぴっぴ♪」
喜びの舞を踊る。
「ひよこが踊ってる」
「かわいいけどちょっと腹立つな」
「煽りにしか見えない」
喜びの舞を踊る私の周りを例の三人衆が囲んできた。しゃがんで上から覗き込んでくる。よくみたらこの三人顔似てる……?
「ぴぃ……?」
三人の顔をまじまじと見比べる。
「お、俺らの顔見比べてんぞ」
「気付くの遅くね?」
「キョロキョロしてんのかわいいな」
やっぱり似てる。声まで似てるもん。
私の疑問に対する答えはすぐに出た。
「俺達三つ子なんだよ」
「ぴ!?」
びっくり。
「珍しいだろ~」
「ちなみに名前も似てるんだぜ? 俺がニックで、こっちがディックでこいつがリックだ」
「ぴ……(まぎらわしい……)」
顔も似てて名前も似てるなんて……。かろうじて髪の色は違うから、それで見分けるしかないね。
ニックさんが赤、ディックさんが青、リックさんが金。よし、覚えた!
赤髪のニックさんが私の頭を撫でて言う。
「にしてもやっぱひよこ強いな~」
「ここにいる全員でかかっても旗取れないなんてな」
「敵対してた頃は一応勇者とか剣士にも人員割いてたし、勝てるわけなかったんだな」
今回は時間制限あったし、ルールなしでやったらわかんないと思うけどな。そう言っても伝わらないから黙っておく。
ドッカーン!!
「ぴ?」
急に轟音がしたので、そちらを向くと団長さんが何人かの騎士さんを吹っ飛ばしたところだった。ぽーんと飛んだ騎士さんがずしゃっと地面に落ちる。
「ぴ!? (なんで!?)」
なんで部下の騎士さん吹っ飛ばしてるの!?
驚く私とは対照的に、三つ子や他の騎士さんは冷静だ。冷静に団長さんから距離を取って避難している。
「また団長の悪い癖がでたな~」
「ぴ? (わるいくせ?)」
「ああ、一度戦闘スイッチが入った団長は満足するまで暴れないと落ち着かないんだよ」
なんて傍迷惑な。聖女時代はそんな光景見たことないなと思ったけど、一度気絶させちゃえば正気に戻るらしい。なるほど、毎回ぶっ飛ばして気絶させてたもんね。
じゃあ気絶させればいいと思ったら、魔界騎士団には団長さんよりも強い騎士は存在しないから気絶させるのは不可能とのこと。スイッチが入っちゃったら毎回気が済むまで暴れさせてるらしい。暴れ馬かな? 団長さんが一番の問題児だね。
団長さんよりも強い人に気絶させてもらおうにも、団長さんよりも強い人はみんな地位が高いから頼みづらいらしい。可哀想に。
「あ、そうだ、今日はひよこがいるじゃん!」
「だな! いっちょ団長気絶させちゃってくれ!!」
「ぴ? (いいの?)」
「いいのいいの! ガッとやっちゃって!」
軽いね。
他の騎士さん達もさっさとやってくれって感じの雰囲気だったからちゃちゃっと魔法で気絶させた。そしたらめちゃめちゃ感謝されたよ。
満足するまで暴れないと止まらない団長なんて、聖女時代の私よりトラウマものじゃない? だけどみんな団長さんが気絶すると、いつものことだとばかりに訓練に戻って行った。
なんとなく解せない。帰ったら魔王に愚痴って慰めてもらお。
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